◆ 維新が目指す「人材」養成教育に抗う人たち
夏の陣の勝利に向かって 大阪より (レイバーネット日本)
→放送アーカイブ
何しろ今度の選挙で、少しでも改憲派の議席を減らしたい。そんな思いも込めて、不可解な動きをしている維新の元締め、大阪に切り込んだ企画だ。維新が全国的に勢力を伸ばした場合、どんな社会が実現するのか。「教育」に絞って見たのだが、見えて来るのは戦前の価値観を良しとする歪んだものだった。私たちが築いてきた民主教育は姿をひそめ、個人の考えを封印する非民主的なものに突き進んでいることが、分かった。
さあ、どうする私たち!戦後ののびのびとした教育を受けてきた者として、続く人たちを守りたいとつくづく思った。ご登場いただいた二人の大阪の教育者の力強い活動に、エールを送ると同時に、私たちも維新排除に頑張りたい。(報告:笠原眞弓)
<特集: 維新の「競争教育」はアカン!大阪からのレポート>
・動画 https://www.youtube.com/watch?v=OawOYUg9ocQ
・進行 北健一さん・北穂さゆりさん
◆ 「今月の一枚」(レイバーネット写真部)富士山に沈む太陽
◆ ザ争議 ヘアカット「QBハウス」安さの秘密―雇用責任逃れを問う
・ゲスト 笠川隆さん(QBハウス美容師)
指宿昭一さん(顧問弁護士)
・聞き手 北健一さん
駅前などにあるヘアカットの「QBハウス」は、カットのみ「10分で仕上げる」が売り物。
でもその労働実態は「それってありなの」だらけ。有給休暇も社会保険もなく、根拠も示さず1万~3万円の減給を数カ月続けられたことに矛盾を感じて、理容師歴40年の笠川隆さんは他の仲間たちと、労働組合を結成して雇用の改善などの要求を出して会社と交渉を始める。
指宿昭一弁護士によるとエリアマネージャー(店ごとにいる)の個人雇用になっているが、書類からは笠川さんたちの雇用実態は本社雇用であるという。
現在、ここに限らず、複雑で不透明な「業務委託契約」という雇用があちこちにあると北さん。
指宿さんは、QBハウスもはじめは自分たちで労組を作ったが、今は日本労働評議会に参加している。困っている方は、是非一緒に戦いましょうと呼びかけた。バックの赤い労組の旗が頼もしかった。(連絡先:03-3371-0589)
◆ ほっとスポット・ジョニーH・乱鬼龍
・ジョニーHさんの歌は「変な政党」(元歌「へんな女」)政治家と言われる一部の人たちの悪事が暴かれた。最後は「うそ」の替え歌で占めた。
・乱鬼龍師匠の今月の川柳は ナニワから維新くだらぬ風吹かせ
◆ 特集: 維新の「競争教育」はアカン!
大阪からのレポート
・ゲスト 久保敬さん (松井市長に声をあげた元校長)
志水博子さん(子どもをテストで追いつめるな!市民の会)
・聞き手 ジョニーHさん
● 維新と安倍政権下で始まる大阪の教育の右傾化(志水さん)
生粋の大阪人で人生の大半を学校と共に生きてきた志水博子さんは、大阪の教育の劣化の過程を述べる。
2006年の第1次安倍内閣発足前後からの教育改革(教育基本法の改悪)に始まり、07年度に全国学習状況調査(学力テスト)が始まる。08年に橋下徹が府知事に就くと彼による府民と教員の分断が、巧みな演出で行われたという。2011年には、入学・卒業式での君が代起立斉唱を義務付けた。
2012年は「2.26ショック」。つまり、維新の会は安倍勢力の先兵役(新自由主義の実験場)を果し、教育行政条例、府立学校条例、教育・職員基本条例という知事が教育に直接介入できる条例を作っていった。こうして戦後の、行政が教育に介入できないシステムが、どんどん崩れていった。
そこで大きく変わったのは、チャレンジテストの導入。個別の学校だけでなく、市町村が競うあうことになる。現に18年、全国最下位だった大阪市長の吉村は、テスト結果を教師のボーナスに紐づけると宣言。つまり、子どもにとってみれば、自分のテストの成績で先生の給料が変わる仕組みになっている。それはあまりにもひどいということで、表立ってはしないことになったが、見えないところでは分からないという。
● 久保校長 市長に直訴する その動機は?「自分への怒り」
久保さんは生徒に日ごろ言っていることと、自分の行動を一致させるために提言書を出したという。
2021年5月に久保校長は松井市長に「豊かな学校文化を取り戻し、学び合う学校にするために」と題された提言書を提出する。松井市長が、テレビで「オンラインで全市同じ授業をします」と言ったがその環境は整っていなかったので、教育委員会に何度も対策をお願いしたが、なしのつぶてだったという。
そのことを考えているうちに、日ごろから感じている市の教育政策の不満がふつふつと湧いてきたという。「こんなことは続かない…」「そのうち市長が変わったら…」「人権の世紀と言われている…」と思っていたけれど、DVと同じで、変なことでも言い続けられると、当たり前になる怖さを感じた。
子どもたちには、たとえ一人でも、おかしいと思ったことは言おう、クラスのみんなは受け止めるからと言っていたのに、教師がそこから逃げている。それは自分を裏切ることになると思い、提言書になったという。
(提言書全文: http://www.labornetjp.org/news/2021/1621256793120staff01)
● 維新の教育行政は生産目標を達成する「人材」の育成が目的か?
久保さんの提言書の中に「学校はグローバル経済を支える人材という「商品」を作り出す工場と化している」という表現があり、ぞっとする。志水さんも「人材」という言葉が、2011年に維新の会が府議会に提案した教育基本条例案に出てきて、教師たちはびっくりした。
ところが10年経って今ではいたるところで使われていると憂える。久保さんの提言書は、先の文に続いて子どもたちは選別され、教職員は何のためかわからない仕事に追われ、疲弊していく…とある。
つまり教育現場に、人間の成長にかかわる部分が抜け落ちているということだ。口では、人間は成績では測れないと言っても、上から高圧的に下りてくるものにつぶされていく。
しかも大阪市は、学校を親が選べる制度があり、テストの点が悪いと選んでもらえない。すると学校数を減らしたい行政は、廃校にしていく可能性があると心配する。
教育振興基本計画があり、パソコンを何回使うとか、教師に要求する数値目標ばかりが並び、それが達成できたか監視する体制まで作ったとか。一方休み時間を使っての英語教育が始まり、子どもたちにゆとりがなくなっている。
点数で競わせるなどの過度な競争はさらされ、教師も子どもも自己否定に陥り、暴力的になっていくと久保さんは憂慮する。
● 提言書は「文書訓告」という形で返って来る
久保さんの提言書は他の人によってネット拡散され、維新の市会議員の目に留まり議会で問題になる。久保さんは教育委員会に呼ばれ、提言書に学校名や肩書が入っているので、公人として出していると責められ、服務規定に反する恐れがあると言われるが、結果的に文書訓告になった。
● 各国から提言書に支持の表明が届く
この提言書は知人を通して、以前にそういうことがあったというアメリカに送られ、キューバ、ブルガリア、キプロスなど数十カ国に広がった。
同じように問題を抱えている国もあり「文書訓告はおかしいから闘え」と言われたと聞くと、今の世界の教育はどうなっているのかと、心配になる。
● 文書訓告それ自体があり得ないと指宿弁護士
話を聞いていた指宿さんは、提言を出しただけで文書訓告はあり得ないとバッサリ切る。「提言が気に食わないなら、反論するか、無視すればいい。それが出来ないということは、こちらの方がすでに闘いに勝っている」と断言する。
では、松井市長はどういっているのか。
彼は「自分のやり方が気に入らなければ、市長になって、好きに変えればいい」と反論したと。
指宿さんはすかさず「それもおかしい。市長になれば、なんでも自分の好きにできるのか?それでは民主主義ではない」と。
「これは地方公務員法の信用失墜行為に当たるのでは?しかも信用失墜行為をしたのは、松井市長の方ではないかと思う」とジョニーさん。
● 退職した今は市民として
退職後は、文書訓告は、懲罰の範疇ではないが、こういう処分をこれ以降、出すことのないように撤回の闘いをしていきたいといい、一市民として「民間教育委員会」を作って、「共生教育」を目指す活動をしていくとのことだった。
私たちも維新を全国区にしないために、各地で頑張っていきたいと思う。
● 「パラダイス」というエピソード(久保さんのお人柄がにじむ)
久保さんは子どもたちを1日1回笑ってもらいたいと工夫している。
ある時「座るだけで、ウキウキワクワクする椅子はなぁに」というなぞかけをした。自分はパラダイスという答えを用意していたが、子どもたちは社長のいす、校長の椅子とかで、「パラダイスってナニ?」といい、カレーライス、オムライスもあるとのやり取りの中で、答えは一つではないと普段言っている自分が、一つの答えを押し付けようとしていたことに気づいたとか。
パラダイスと名付けた椅子をみんなで塗替えようと提案しても、誰も手を出さない。その時、1年生が文字を書いたら、急に他の人も参加してきたとか。完成した椅子は、今後も塗り替えてほしいといい、その写真を示しながら久保さんは「パラダイスには終わりがない」と子どもが言ってくれたと嬉しそう。
・次回レイバーネットTVは6月15日19:30~ 参議院選関連の企画の予定
*スタジオ撮影=小林未来
『レイバーネット日本』(2022-05-23)
http://www.labornetjp.org/news/2022/1653272816100staff01