《月刊救援から》
◆ 裁判の全面オンライン化に反対しよう
二〇二〇年に始まったコロナ感染拡大下、テレワーク、オンライン授業など「デジタル化」「非対面化」が社会のあらゆる場面で導人され人間の自由な交通形態や団結か破壊されてきた。
司法(刑事、民事手続き)の分野においてもこの二年間「感染防止対策」を理由として傍聴席大幅削減、電話やウエブ方式での準備手続などによる密室化が先取り的に進められてきた。
こうした状況下、司法を全面的に「オンライン化」する立法化が着々と進められて
二〇二一年三月、法務省に「刑事手続きにおける情報通信技術の活用に関する検討会」が設置された。
二〇二〇年七月の閣義決定「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」において「刑事手続きのデジタル化」が掲げられたのをうけて設置されたもので、
法務省肝いりのメンバーによる一年たらずのウエブ会議での「検討」を経てとりまとめの報告書が三月一五日に発表された。今後立法化作業に入る。
主な項目だけ挙げる。
①令状の請求・発付・執行のオンライン化
今までは警察官が紙媒体で裁判所に持参して請求していた捜索差押令伏、逮捕状請求、裁判官の令状発付などをすべてテータ送信にする。
令状の執行もPC端末を被疑者・被処分者に見せればよい。
「国民の軽減負担」というが、令状を迅速に執行してもらうことを有り難がる「国民」などいない。すべて警察=弾圧側の便宜である。
令状審査は裁判官が疎明資料をPC画面で見るだけとなり、一層の形骸化が懸念される。
発付される令状の記名押印は廃止され、作成の真正を確認しようがない。
被疑者は警祭からタブレットなどの端末を表示されるだけだから、何が差押対象なのか、罪名・被疑事実か何なのか一瞬で画像から読み取らなければならない。
写し(紙)の交付は義務化されていない。
②検察官の弁解録取、裁判官の勾留質問のビデオリンク化
被疑者は留置場に拘束されたまま、検事や裁判官とヒデオリンクでできるようにする。
勾留質問の日に裁判所に待機して構内で接見する、ということをする間もなくビテオリンクで勾留質問が終わってしまうのだ。
③ヒデオリンク証人尋問の拡大
その範囲を外国所在証人、専門家証人、刑事施設収容中の証人等に拡大し、かつ、証人の証言場所が法廷外の刑事施設などでも可能となるようにする。
ますます証言への捜査側の介入と密室化が可能となる。
④被告人のビデオリンク出頭
一定の要件のもとにビデオリンク方式にすることができるようにする。
入院中の被告人、「暴力団構成員」などについて議論がなされている。
要するに公判廷に在廷させると「危ない」人はビデオリンク力式で「出廷」させるというのだ。
六九年の東大闘争裁判等では下着まで水につけて出廷拒否戦術が闘われたが、今度は裁判所の判断で出頭する権利を奪うことができるという攻撃だ。
⑤ 傍聴のオンライン化
具体的内容は決まっていないが、「被害者」「遺族」の法廷外での傍聴など特定の事件関係者にのみ優先した傍聴や重大事件等のオンライン傍聴が議論されている。
オンライン傍聴により、裁判の公開の趣旨が促進されるというが、社会的な「犯人叩き」に使われる恐れがある。
感染防止を理由に現在傍聴席は半分に減らされているが、これを固定化して、特定の事件だけオンライン配信するなともってのほかである。
画像配信は公開法廷とは言いえない。法廷は傍聴人で埋め尽くされ、ときには裁倒官が怒りの声で包まれるのである。
○ 民事手続IT化についても、四月二一日には法案が衆院を通過した。
これも
①法廷弁論を最小限にしウェブ方式や電話会議中心にする
②ビデオリンク証言の要件を緩和する(刑事よりも緩和)
③提出書類のオンライン化など民事訴訟手続きの大幅改変だ。
とくに③は弁護士が付いた事件では訴状をはじめとしたありゆる書類の提出のオンライン化が義務化される。
二〇二五年からは紙媒体ての提出をいっさい認めないというのである。
この法案には、オンライン化と全く別に「裁判の長期化」を口実にした審理期間六月以内の超スピード結審の手続きも併設される。
大企業など社会的強者のための効率化・迅速化である。
総じて、裁判の直接主義、口頭主義、公開主義の破壊であり、迅速化・効率化・密室化てある。
まさに戦時司法型への転換ともいうべきこの改悪法には法廷内外で断固として闘おう。
(弁護士 遠藤憲一)
『月刊救援 637号』(2022年5月10日)