◆ 国を守るために (東京新聞【本音のコラム】)
鎌田 慧(かまたさとし・ルポライター)
三月中旬、震度6強。東北地方を襲った地震により、東北新幹線はおよそ一カ月間、不通になっていた。このとき盛岡へ行く用事があったが、一部開通した新幹線と在来線を乗り継ぎ自宅から九時間もかけて到着した。
在来線は町と町をつなぐ路線だから、窓越しに谷間にポツンとある農家がみえ、犬が駆けていたりする。
昔は蒸気機関車だったから、トンネルに近づくと汽笛が聞こえた。あわててガラス窓を降ろした。トンネルを抜けるとガラス窓を上げる。
すると、閉め遅れたため、車内に入り込んでいた煙がサーっと外へ流れだしていく。開けたり閉めたり、結構忙しかった。
旅は地方の生活が見える在来線の方が楽しい。しかし、ローカル線切り捨ては、これからさらに激しくなる。
自動車産業の発達に合わせて、高速道路建設が進んだ。仕事が都会に集中して、過密化と過疎化に分岐した。
中曽根「国鉄分割・民営化」から三十五年。
公共交通の意識が薄れ、利益確保のために赤字路線切り捨てが露骨になりコロナ禍で赤字がふえた。
JR北海道やJR西日本管内で鉄道空白地帯がふえる。今でも藪(やぶ)の中にプラットホームの遺跡が埋もれている。
老人や子どもの足が奪われ、過疎化が進み、国が滅びる。
「国を守る」といって防衛予算を倍増、年間十兆円にするなら、地域の交通と生活を守るためにまわせ。(ルポライター)
『東京新聞』(2022年5月10日【本音のコラム】)