再生可能エネルギーへの移行を加速しなければならない!
ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-
4/8(金) 14:08CNN.co.jp
戦争がもたらした世界経済の混乱、気候変動対策に及ぼす影響は
ドイツ東部、ポーランド国境付近にある天然ガスの圧縮施設
サンフランシスコ(CNN Business) ウクライナの戦争は、世界経済を混乱状態に陥れた。だが最悪の事態はこれからだと専門家は予想する。
この紛争は物流やビジネス、貿易に混乱をもたらした。海上、陸上、航空貨物は飛行禁止区域や戦争の被害を避けるために迂回(うかい)ルートを取り、多国籍企業は制裁や関係断絶を求める圧力を理由に操業を中止。各国がロシアからの輸入依存を減らすため、当面のエネルギー需要への対応に追われ、一部は石炭の使用を倍増させている。
「これは物流にかかる時間だけの問題でも、石油価格や石油の使用量だけの問題でも、半導体の輸送待ちだけの問題でも、運輸の人手不足だけの問題でもない」。フォレスター・リサーチの上級アナリスト、アラ・バレンテ氏はそう指摘する。「どれか1つの問題ではなく、その全ての問題だ」
サプライチェーンやエネルギーの機能不全は、消費者、企業、政府にとって一層のコスト上昇を招き、結果として環境への負担が増す。
戦略国際問題研究所の専門家ニコス・セイフォス氏は言う。「戦争はエネルギー消費の激しいビジネスだ」「物を動かし、部隊や装備を動かすにはエネルギーがいる」
既に世界の石油価格は高騰してほぼ10年ぶりの水準となり、食品から肥料に至るまで、あらゆる物が値上がりしている。
国際通貨行金(IMF)は先月、「食品や燃料価格の急騰は、一部地域の不安定化リスクを増大させるかもしれない」と指摘。「長期的には、この戦争によってエネルギー貿易がシフトし、サプライチェーンが再編され、決済網が分断され、各国が外貨準備高を見直せば、世界経済や地政学秩序は根本から変動する可能性がある」とした。
各国がロシア産の石油やガスへの依存縮小を図る中、そうした変動は既に起きている。
米国はロシアの石油、天然ガス、石炭の禁輸に踏み切った。英国は年内にロシアからの石油輸入を段階的に縮小し、天然ガスの輸入も停止する計画を打ち出した。
一方、欧州連合(EU)は、ロシア産の石炭の輸入禁止を盛り込んだ第5ラウンドの対ロシア制裁を発表した。ただしロシア産の石油禁止までは踏み込まなかった。
欧州は天然ガスの約40%をロシアから輸入しており、今年のロシアからの天然ガス輸入を66%削減する計画を打ち出した。
米国のジャネット・イエレン財務長官は6日、下院金融サービス委員会の公聴会で、ロシアの行動は「世界経済にとてつもない影響を及ぼすだろう」と証言。世界的な食糧不安や債務負担に加え、「1つの燃料供給源や1つの貿易相手国に依存することの脆弱性(ぜいじゃくせい)を、我々は目の当たりにしている。だからこそ、燃料供給源や供給国を多様化させることが不可欠だ」と力説した。
セイフォス氏によると、当面の間、EU諸国は多様なエネルギー供給の手段を模索し、国民のために冬季の暖房を確保する必要に迫られる。
その手段として石炭の使用が増える可能性は大きい。EUの環境政策を統括するフランス・ティメルマンス氏によると、これまで天然ガスをエネルギー転換計画の足掛かりと位置付けていた国々が、予定よりも長く石炭を燃やすことを検討している。だがこうした動きは一時的な措置としなければならず、各国は再生可能エネルギーへの移行を加速させる必要があるとティメルマンス氏は話している。
■
ウクライナ侵攻があらわにした日本のエネルギー危機~再エネ推進は平和のために不可欠だ
世界中で始まった資源の獲得競争に巻き込まれないために
日本のエネルギー自給率は11パーセント
ロシアのウクライナ侵攻に対し、アメリカやEUなど自由主義陣営が経済制裁を始めた途端、世界の石油や天然ガスの供給に不安が生じた。これがコロナウイルス感染が一応収まり世界経済回復によるエネルギー資源価格の上昇に追い打ちをかけることになった。
EU内でロシア産ガスの最大の消費国であるドイツは、ガス不足に備える「早期警戒」の宣言を発出した。対して日本では、エネルギー価格の急上昇は見られるものの、エネルギーそのものの確保に関して、いまひとつ危機感がないようだ。
各国間でエネルギー自給率は大きく異なる。また、各国の発電量に占める各電源の割合はそれぞれ特徴がある。日本のエネルギー自給率は11パーセント台で、OECD35カ国中34位で韓国より低い。フランスは少資源国だが原発が多く、自給率を50パーセント台に保っている。ドイツは再生可能エネルギーと石炭が目立っている。
出典:IEA「World Energy Balances 2019」の2018年推計値、日本のみ資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」の2018年度確報値。※表内の順位はOECD35カ国中の順位
拡大出典:IEA「World Energy Balances 2019」の2018年推計値、日本のみ資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」の2018年度確報値。※表内の順位はOECD35カ国中の順位
日本は石油で敗戦、戦後も輸入依存
日本は江戸時代、もっぱら国産の木炭、薪をエネルギーとして使っていた。その他のエネルギーとしては水車の動力くらいなものだった。明治時代になっても、薪や木炭に加えて国内の石炭と水力発電を使用し、エネルギーはほぼ国産のもので賄っていた。しかし、西欧で蒸気機関が発明され、産業革命が起きると、先進国では石炭が主なエネルギー源として使われ、さらに自動車、船舶、飛行機などが普及すると日本も外国産の石油を消費するようになった。
昭和に入ると、石炭に代わって石油を大量に使うようになり、アメリカなどからの輸入に依存するようになった。日中戦争が泥沼化してABCD包囲網に囲まれた日本は、アメリカが石油の輸出を禁止したため戦争に突入。結局、石油の備蓄が底をついて日本は降伏した。
戦後は水力発電と輸入した石油を使う火力発電で始まり、高度経済成長が始まるとエネルギー需要が急増し、中東からの安い石油に全面的に依存する時代となった。1980年代から石油火力発電は天然ガス火力発電と石炭火力発電に置き換わっていった。この結果、日本はエネルギーに関して、戦前と同じように輸入依存の状態になりかかった。
そこで国は、自給率を高めようと、開発されたばかりの原発を英米から導入し、準国産エネルギーと位置づけ、国策として各地で原発建設を進めてきた。その結果、1950年代半ばには電力供給量の30パーセントを原発で賄うところまで行ったが、2011年の福島第一原発の事故で、原発は全面停止となった後、再稼働が進まず、再び80パーセントを輸入化石燃料を使う火力発電に依存する状態に戻っている。
出典元 経済産業省 / 「平成28年度 エネルギー白書」(2017年)
拡大出典元 経済産業省 / 「平成28年度 エネルギー白書」(2017年)
温暖化以上にエネルギー資源の争奪が問題に
現在のエネルギー基本計画は、日本が国際社会に表明した「2050年カーボンニュートラル」や新たな温室効果ガス排出削減目標の実現に向けたエネルギー政策の道筋を示すことに重点が置かれている。具体的には、2030年度の電源構成として再生可能エネルギー36~38%、原子力20~22%、化石燃料41%を目指している。
温暖化が進めば、各地に大きな災害がもたらされるとともに、経済が大打撃を受ける。その意味では温暖化対策はエネルギー安全保障の一部であると言ってもよいが、温暖化以上に怖いのは世界各地の紛争が今回のロシアのウクライナ侵攻のように世界の流通、貿易などに影響し、エネルギー供給がストップすることである。
隣国と地続きである場合、送電線やパイプラインが国境を跨いでいることのリスクが発生するが、日本のように島国であると長いシーレーンの安全を確保しなくてはならない。加えて、エネルギー資源を供給する相手国が、常に安定的な状況であるとは限らない。したがって、安全保障のためには自前のエネルギーを持つことがどうしても必要である。
ロシア・ドイツ間のガスパイプライン図。破線がノルドストリーム、白線がノルドストリーム2=shutterstock.com
拡大ロシア・ドイツ間のガスパイプライン図。破線がノルドストリーム、白線がノルドストリーム2=shutterstock.com
日本にとって特別な意味を持つ再生可能エネルギー
これまでの主力電源は、火力発電所は石炭や石油や天然ガス、原発は核燃料と、いずれも燃料を海外より買っていた。対して、再生可能エネルギー、特に太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電は、発電するのに燃料がいらず、二酸化炭素や放射性廃棄物とも無縁だ。また、海外からの化石燃料購入を減らすことは、日本の国際貿易収支の改善につながる。
今まで円高ドル安だった為替相場が最近、円安ドル高になっている。日銀が長く続いた金融緩和政策から撤退できず、アメリカの金融引き締めに対して日本の金利を低く抑えているため、日米の金利差が拡大し円安ドル高になっている。しかし、為替はその国の経済力を反映したもので長期的にはさらに円安になると専門家は見ている。
円安は輸入する化石燃料の価格上昇を招く。既に、円はドルに対して過去の水準より1割程度安くなっているので、化石燃料の輸入代金も1割程度高くなっている。これが需給逼迫による値上げ分に加わって一層燃料価格の高騰を招いている。
日本としては、再生可能エネルギーの拡大は、カーボンニュートラル達成以上に国の存続と発展に不可欠ということだ。
TRR/shutterstock
拡大TRR/shutterstock
進む円安、エネルギー危機はいつ起きてもおかしくない
エネルギー安全保障の観点からは、再生可能エネルギーをもっと重視する必要がある。今後、再生可能エネルギーが育たなければ、いつ何時、日本のエネルギー危機が起きるかもしれない。戦後長い間、輸入燃料に全面的に依存し、オイルショックも湾岸戦争もなんとか乗り切ったが、これからもそれが続くとは考えない方がよい。
再生可能エネルギーの導入に当たっては、電力料金に上乗せされる賦課金が、まだ10年程度は続き、消費者の過大な負担になるなどの問題があることは事実だ。しかしながら、燃料不要の太陽光発電、風力発電、地熱発電の拡大が、国際貿易収支を健全なものにするとともに、世界各国のエネルギー資源獲得争いに巻き込まれないための究極の手段であり、国の安全保障にとって軍事力増強以上に意味があるということに、もっと多くの人々が気づくべきである。
https://webronza.asahi.com/bus
~ 元日本原子力発電理事の北村俊郎氏は2005年に退職後、福島県富岡町に移住していたところ、福島第一原発事故で避難者となり今
その体験から『原発推進者の無念』(平凡社新書)を執筆するなど
燃料不要の太陽光、風力、地熱などの拡大が国際貿易収支を健全なものにするとともにエネルギー資源獲得争いに巻き込まれないため