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 NHK

“アスベスト”による公務災害認めた1審判決取り消す 大阪高裁

 

平成7年の阪神・淡路大震災でがれきの回収に当たった兵庫県明石市の男性職員が、がんを発症して死亡したのは作業中にアスベストを吸い込んだのが原因だと遺族が訴えた裁判で、2審の大阪高等裁判所は、公務員の労災にあたる「公務災害」と判断した1審の判決を取り消し、訴えを退けました。

平成25年、明石市の職員だった島谷和則さん(当時49)はアスベストが原因の1つとされるがんの、中皮腫を発症して亡くなりました。

島谷さんは、平成7年に起きた阪神・淡路大震災の直後からがれきの回収に当たっていて、中皮腫の発症はその際に吸い込んだアスベストが原因だと訴えましたが、地方公務員災害補償基金が公務災害と認めなかったため、島谷さんの遺族が裁判で基金の判断を取り消すよう求めていました。

1審の神戸地方裁判所は、去年3月、発症と島谷さんの業務の関係性を認定して、公務災害と認めなかった基金の判断を取り消し、基金が控訴していました。

17日の判決で、2審の大阪高等裁判所の松井英隆裁判長は「アスベストを吸い込んだこと以外で中皮腫を発症した可能性があり、発症と公務との因果関係は認められない」として、1審の判決を取り消し訴えを退けました。

遺族「理解できないし納得いかない」

判決のあと、島谷和則さんの遺族の代理人の弁護士や元同僚らが会見を行いました。この中で、島谷さんの妻の弘美さんの(58)コメントが読み上げられました。

弘美さんは「今回の判決は、夫が従事した震災当時の作業内容を全く理解してもらっておらず、実際の作業環境と全く違う判断が行われており、遺族として理解できませんし、到底納得がいきません。大変残念です」とコメントしています。

また、遺族の代理人の位田浩弁護士は「吸い込んだアスベストが少量だったとしても中皮腫を発症する可能性は十分にある。がれきの収集では、建材そのものを積み込む時にアスベストを直接吸い込むのは明らかであり、大阪高裁はその点を全く考慮しておらず、到底受け入れがたい」などと話しました。

原告側は、判決を不服として上告する方針です。

地方公務員災害補償基金「コメントできない」

判決について地方公務員災害補償基金は「コメントできない」としています。

 

 

 

 

■2021/3/26 07:00神戸新聞NEXT

 

震災アスベスト「公務災害」認定 喜ぶ原告側「救済の間口広げる判決」

 

石綿由来のがんで亡くなった島谷和則さんの遺影を手にし、会見に臨んだ遺族ら=26日午後、

 

 阪神・淡路大震災後のがれき処理に当たり、悪性腹膜中皮腫を発症して亡くなった明石市職員男性について神戸地裁が26日、公務災害と認めた。判決は、形式的な認定基準の適用を退け、震災直後の混乱を考慮する必要性を強調。原告弁護団は、石綿関連疾患の「救済の間口を広げる」と評価した。

 「夫の思いを胸に今日まで頑張ってきてよかった」

 判決後の会見で、原告の島谷弘美さん(57)=明石市=が安堵(あんど)した声で語った。震災後、夫の和則さんは被災地に広がったがれきを回収。「毎日、鼻の穴を真っ黒」にして帰宅したという。その後、石綿が原因の一つとされる悪性腹膜中皮腫と診断され、2013年に49歳で亡くなった。

 裁判で、被告の地方公務員災害補償基金側は、和則さんの業務は公務災害の認定基準を満たさないと主張。神戸地裁はこの主張を認めた上で、公務災害かどうかは被災状況など個別に検討すべきとし、発症と公務の因果関係を認めた。

 弁護団は「基準を満たさないと門前払いされたケースも公務災害、労災になることを示してくれた。中皮腫と診断された人たちに対するより広い救済の足がかりになる判決だ」と意義を語った。

 阪神・淡路で倒壊した建物から大量の石綿が飛散したとみられる。吸い込んでから発症まで十数年~50年の潜伏期間を経て発症するとされ、今後の発症増が懸念される。弘美さんによると、闘病中の和則さんは「発症していなくても、同じ仕事に携わった同僚が心配」とよく口にしていたといい、弘美さんは震災復興に従事した人の「少しは支えになるのでは」と喜んだ。

 石綿問題に取り組むNPO法人ひょうご労働安全衛生センター(神戸市)によると、震災後のがれき処理などで石綿を吸い込み、労災や公務災害に認定された人は少なくとも5人いるという。(那谷享平)