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3/10(木) 6:03女性自身
都議会で検討される「公立病院の“民営化”」患者の負担増の懸念
東京都議会では、8つの都立病院と6つの公社病院を独法化する審議が行われている/Copyright (C) 2022 Kobunsha Co.,Ltd. All Rights Reserved.
「東京都のコロナ患者の約30%を受け入れてきた都立・公社病院が7月に廃止され、地方独立行政法人化(以下、独法化)されようとしています。いわば“民営化”されるのです。そうなると、もうからない診療科は切り捨てられ、今後新たな感染症がはやっても、現在ほど患者を受け入れられなくなるでしょう」
【写真あり】公立病院の独法化や統廃合が進む背景に、政府による“医療費抑制策”がある
そう警鐘を鳴らすのは、NPO法人医療制度研究会の副理事長で、『日本の医療崩壊をくい止める』(泉町書房)の著書もある本田宏さんだ。
現在、東京都には8つの都立病院と6つの公社病院がある。全国のコロナ確保病床でトップ11位まで、すべて都立・公社病院が占めるほどコロナ治療に貢献してきた。にもかかわらず、これらの公立病院を廃し、独法化するのはなぜなのか。
2月22日の東京都議会で日本共産党の米倉春奈議員が、都立病院を独法化する意義を聞くと、小池百合子都知事はこう答えた。
「独法化の目的は、医療環境が大きく変わるなかにおいても、安定的かつ柔軟な医療人材の確保や機動的な運営によって、行政的な医療をはじめとする質の高い医療を提供する役割を将来にわたり提供することであります」
しかし、本田さんは指摘する。
「現在も都立・公社病院は安定的かつ柔軟に、コロナ患者を含めさまざまな患者を受け入れています。独法化の真の狙いは、病院経営を東京都から切り離すこと。毎年、東京都から都立・公社病院に投入されている約500億円の繰入金を徐々に減らしていくことなんです」
■“民営化”の先にあるのは金持ち優先医療
税金の投入が減るのはいいことに思えるが……。
「被害を受けるのは患者さん自身」と指摘するのは、東京都庁職員労働組合病院支部の書記長で、都立駒込病院の看護師としてコロナ対応にあたる大利英昭さん。
「’09年にいち早く独法化された東京都健康長寿医療センター(板橋区)では、患者さんの負担が増えました。都立病院にはない個室の入院保証金を10万円も徴収。1日最高で差額ベッド代が2万6000円する病室もあるのです」
’09年当時、約10億4000万円あった都からの同院への補助金は、’18年には約1280万円にまで減らされている。
患者の金銭的負担が増えるだけではなく、受けられる医療の質まで落ちることが懸念されるという。
「独法化すると、過度に採算が重視されるため人件費も削減されていきます。その結果、看護師の離職率が高まってスキルが身につく前に辞めてしまうのです」
日本の公的医療を「金持ち優先」にさせないために、まずは都議会の議論を注視せねばならない。
「女性自身」2022年3月22日号
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全国で進む公立病院の独法化…いち早く進めた大阪では医療崩壊
10年、維新行政になってから大阪の公立・公的病院の独法化が加速。当時の知事は橋下徹氏/Copyright (C) 2022 Kobunsha Co.,Ltd. All Rights Reserved.
現在、都議会で都立病院の“民営化”が審議されているのはご存じだろうか。その先にあるのは、金持ち優先医療だーー。
「東京都のコロナ患者の約30%を受け入れてきた都立・公社病院が7月に廃止され、地方独立行政法人化(以下、独法化)されようとしています。いわば、民営化されるのです。そうなると、もうからない診療科は切り捨てられ、今後新たな感染症がはやっても、現在ほど患者を受け入れられなくなるでしょう」 そう警鐘を鳴らすのは、NPO法人医療制度研究会の副理事長で、『日本の医療崩壊をくい止める』(泉町書房)の著書もある本田宏さんだ。 現在、東京都には8つの都立病院と6つの公社病院がある。全国のコロナ確保病床でトップ11位まで、すべて都立・公社病院が占めるほどコロナ治療に貢献してきた。 東京都庁職員労働組合病院支部の書記長で、都立駒込病院の看護師としてコロナ対応にあたる大利英昭さんは次のように話す。 「独法化すると、過度に採算が重視されるため人件費も削減されていきます。その結果、看護師の離職率が高まってスキルが身につく前に辞めてしまうのです」 そのあしき前例が、公立・公的病院の独法化を全国に先駆けて進めてきた大阪だという。’07年には府立の5病院が、’14年には市立の4病院が独法化されたが……。 「その結果、徐々にベテラン看護師が減っていき、コロナ対応できる経験を持った看護師が少なくなりました。だからコロナ専門病院を作っても患者を受け入れられなかった。これが医療崩壊を招いた一因だと思われます」 大阪府のコロナ死亡者数は全国最多の4002人で、100万人当たりの死者数も452.8人と全都道府県でワースト。全国平均の193.0人と比べても断トツで多くなっている(3月3日時点)。 大阪の病院事情に詳しい大阪医労連の副執行委員長・代喜伸吾さんは、「独法化によってもうけが優先になった」と、こう続ける。 「’07年に独法化された大阪国際がんセンター(旧・大阪府立成人病センター)は、府民を診るための病院から、海外からのVIP患者を迎えて医療提供する“医療ツーリズム”が主たる目的のひとつになってしまいました。府は、海外からのVIPを集めるために、もともと大阪城の近くにあった病院を、より大阪城がキレイに見える場所にわざわざ引っ越しさせた。税金を使って大阪城のすぐ隣にあった大阪府庁の駐車場を工事して、移転させたのです」 外国人VIPに人気のグレードの高い部屋は、1泊6万円もする。 「税金が投入されたのに、利益追求が最優先で、府民のための医療が後回しになっています」 こうした流れは、’10年に維新行政になってから加速したという。 「橋下徹知事(当時)が、二重行政を解消すると言って、すでに独法化していた4つの病院のうち、年間700件ものや小児救急を扱っていた住吉市民病院を’12年に閉鎖し、別の病院に役割を統合したんです。しかし、これがうまく機能しませんでした」 地域の分娩や小児医療を担っていた病院の閉鎖で、妊婦や子どもが医療にアクセスしづらくなった。 「住吉市民病院の跡地に民間病院を誘致する話も出ましたが、〈医師不足〉や〈収支が合わない〉などの理由で失敗に終わりました」 最近では、ここにふたたび公立病院を建てるという構想まで浮上しているというから本末転倒だ。
病床を減らすと100万円超の補助金が
こうした悪例にもかかわらず、公立病院の独法化や統廃合が進められてきた。その背景には、「政府が進める“医療費抑制策”がある」と、前出の本田さんは指摘する。
「厚労省は今後、人口が減っていくという前提で、’25年までに全国の病床を16万~20万床削減する目標を立てています。公立病院の独法化や、統廃合もその流れのひとつ。しかし、もともと日本はG7でいちばん医師数が少ないうえに、公立病院が全体の2割とイギリスの8割やドイツの5割と比べ極端に少ない。これ以上減らしたら、国民の命は守れません」
今年2月にも、青森県で県立中央病院と青森市民病院が統合。
宮城県でも、公立病院の統廃合などの計画が進行中だという。
「’20年度だけでも全国で約3000床が削減されました。1床削減すると約100万~200万円の補助金が病院に支給されることになっていて、この財源には、社会保障の充実に使われるはずの消費税が充てられているんです。多くの市民がこうした流れを知らずにいます」(本田さん)
「女性自身」2022年3月22日号