大阪市の保健所は僅か一カ所 住民の健康は身近な行政でこそ守られる
2011年から20年の9年間で大阪府は衛生行政職員を16.3%減。
2017年には大阪府立公衆衛生研究所と大阪市立環境科学研究所という研究分野と位置づけが異なる2つの機関を"二重行政"だとして統合・独法化し=民営化し、人員と予算の削減が保健所のパンクに。
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毎日新聞 2022/2/22 17:00
保健所パンク状態…大阪市長陳謝の不手際も「いっぱい、いっぱい」
新型コロナウイルス感染者の入力業務の委託手続きに問題があったとして陳謝する松井一郎・大阪市長=大阪市役所で2022年2月18日午後1時29分、田畠広景撮影
新型コロナウイルス感染の第6波により、大阪市保健所で問題が噴出している。2万人を超える感染者の報告漏れが発生、対応を急ぐあまりルールを逸脱した民間への業務委託が進められ、松井一郎市長が陳謝する事態となった。新規感染者への最初の連絡「ファーストタッチ」や、クラスター(感染者集団)の調査も滞り、パンク状態となっている。
「市民の信頼を損なうものでおわびする。感染者の対応を優先するため一刻も早い業務発注が必要で、契約手続きが追いついていなかった」。松井市長は18日、コロナ関連業務の民間委託の手続きに問題があったことを認め、謝罪した。
事の発端は、2月上旬に明るみに出た感染者数の大規模な報告漏れだった。1月26日~2月7日の新規感染者約2万2000人分が、政府の情報共有システム「HER―SYS(ハーシス)」に入力されていなかった。業務の逼迫(ひっぱく)が原因だが、感染者への対応の遅れにつながる深刻な事態だ。
入力作業の外部委託を急いだ市は、14日に業者と打ち合わせした際、口頭で9650万円の委託料を提示され、その場で了承。見積書や業務指示書、契約書など委託に必要な書面を交わさないまま、業者が16日から入力作業を始めていた。
場当たり対応「業者の言い値」
ずさんな委託は17日の市議会で取り上げられ、自民市議が「業者の言い値で業務を進めている」と批判した。保健所を所管する市健康局幹部は「災害時と同等の状況ということで早急に対応した」と釈明したが、契約部門の担当者は「書面でなく口頭だったのは問題だ」と指摘した。松井市長はこの日に初めて報告を受けたといい、「組織内での連絡調整がスムーズにいっていなかった」と述べた。
システム入力は医療機関か、医療機関から感染者の「発生届」を受理した保健所が代行する仕組みで、市内では全感染者のうち約6割は保健所が入力している。他の大都市でも5割程度は自治体側が担うケースがあり、大阪市だけ負担が過大なわけではない。
それでは、なぜこれほど後手に回っているのか。市は当初の約4…
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■2020/3/5大阪府保険医協会
【新型コロナ】大阪市の保健所は僅か一カ所 住民の健康は身近な行政でこそ守られる
現在、新型コロナウイルスが国民の生活に大きな影響を及ぼしています。こうした事態に保健所は大きな役割を担う存在ですが、この20年間で保健所は削減され続けています。そこで保健所を守る大阪市民の会の亀岡照子氏に緊急インタビューを実施しました(取材日:2月26日)。
保健所を守る大阪市民の会・保健師
亀岡 照子 氏
―はじめに保健所を守る大阪市民の会の活動について教えて下さい
1994年に地域保健法が制定され、全国の保健所の削減が進みました。不健康都市日本一の大阪市では、市民のいのちと健康を守る砦としての保健所を残して欲しいと1995年11月に「保健所を守る大阪市民の会」が発足し、保健所応援団の活動を始めました。初代会長は、大阪大学医学部衛生学元教授の丸山博先生が務めました。
65万枚のビラを配布し、旺盛な宣伝活動を行うとともに、厚労省交渉を5回、大阪市交渉や申し入れを17回繰り返しましたが、残念ながら2000年4月に、大阪市の保健所は1つに統合されてしまいました。
広大な大阪市に保健所が1つしかないようでは、絶対に問題が起こるという懸念は当たり、集約化してから僅か3カ月後には集団食中毒が発生した他、新型インフルエンザなど多くの問題が発生しました。やはり住民に身近な保健所であってこそ、いのちや健康が守られるのだと思います。
大阪が全国で先駆けて「保健所つぶし」を強行したことで、兵庫や京都などの周辺でも次々と保健所が無くなっていったことは本当に残念でした。それでも私たちの「保健所を守る大阪市民の会」はあきらめず粘り強く戦っていくことを決意しました。現在は大阪府保険医協会の井上賢二副理事長に会長を務めていただき活動を続けています。
地域によって異なる「健康課題」
保健福祉センターでは対応困難
―保健所の重要性について、改めて教えて下さい
元々保健所は大阪市の各区に設置され、専任の医師が所長となって、行政権も有していました。
それが市内の保健所が一つに集約化され、各区の保健所が保健福祉センターへと格下げされたことによって、権限が無くなってしまいました。医師も専任ではなくなり、常駐していません。そのため、医師の判断のもとで迅速に動くことが出来なくなりました。
また、保健福祉センターではこれまで保健所として独自に行っていた支援事業などが出来なくなりました。それまでは保健師が地域で困難を抱える子ども一人ひとりのことを把握し、フォローが出来ていたことも行えなくなりました。
地域の健康課題は、その区ごとで全く異なります。保健所が各区からなくなることで、地域ごとの健康課題も見えなくなってしまいました。これまで保健所がその地域のため、独自の努力と裁量で行えていたことが、市内で最低限の基準に統一されてしまいました。
また、職員の大幅な人員削減が進んで、非正規職員が増加し、今は保健師一人当たり1万人以上もの住民対応をしなければいけません。次々に現れる問題を、その都度対処するだけで精一杯な状況に追い込まれています。
長年の公衆衛生の軽視がもたらした感染拡大
―現在の新型コロナウイルスの問題についてどう感じておられますか
過去に新型インフルエンザが流行した際、各区の保健福祉センターでは対応できないため、一括して電話応対する部署を設置し、人員を集中させて対処しました。しかし、相談には医療関係者以外の職員も配属され、ただマニュアルに従って対応するだけの方も多くいました。
必要な知識がないままで不正確な判断をするケースも多く、当時私は医療知識がある専門職に対応をさせるべきだと意見しましたが聞き入れられませんでした。今はその時以上に医療関係者が少ないことが予想されます。
ただ、新型インフルエンザの時はすぐに検査をすることができ、医療機関との連携もスムーズに行えました。それが現在の新型コロナウイルスではそもそも検査が行われていないことに非常に違和感と不信感を覚えます。現在の大阪府は、ごく一部の方だけしか検査を受けさせておらず、その結果患者が少ないと言い切るのは誤った対処だと考えています。
また、検査を保険適用させる方針が打ち出されていますが(※2月26 日取材時点)、感染拡大を止めるためには検査も治療も患者自己負担なしの公費で行う必要があると思います。
府民・市民の命と健康を守る公衆衛生に二重行政はない
大阪市立環境科学研究所(環科研)と大阪府立公衆衛生研究所(公衛研)は「二重行政」の1つと言われ、2017年4月に統合・行政法人化された
※大阪健康安全基盤研究所作成資料より抜粋
―大阪維新の会は大阪市立環境科学研究所(環科研)と大阪府立公衆衛生研究所(公衛研)は二重行政だとして、統合・独立行政法人化し民営化を強行しました。これがもたらしたものと現在の新型コロナウイルスの関連についてご見解を教えて下さい
元々2つの研究所は市民・府民の健康と環境を守るという使命を果たすために、環科研は大阪市の保健所などと協力しながら検査・研究を行う機関として、公衛研は府下の保健所の指導的立場として、それぞれ公立で運営されていたものです。
今回の新型肺炎のような事態が発生した際に、迅速な原因究明を行い、被害拡大を防止するのも重要な役割の1つとしていました。
実際に私が働いていた時にも、保健所では対応できない検査なども引き受けていただき迅速な対応に繋げることができていました。研究分野や検査方式などもそれぞれ異っているにも関わらず、二重行政だとして統合を強行したことで人員は大幅に削減され、現場は大混乱に陥り、保健所との連携も後退しました。
もしこの2つの研究所が無理に統合されていなければ、今回の新型コロナウイルスに対して迅速な対応ができ、各保健所に対しても適切な指示が行えていたと思います。
―最後に国や大阪府・市に対して伝えたいことを教えて下さい
公衆衛生は、国や自治体がもっと重視すべき問題です。それを軽視していたツケが、まさに今の混乱を生んでいると考えています。
今回の問題に関して言えば、国や自治体がもっとお金も人も投入しなければ終息は困難です。
さらに今は、専門家の声をもっと聴くべきだと感じています。事実に基づいた正しい情報を伝えていくのが府市や国の責務です。保険医協会には今後も各方面に対して、様々な働きかけを行っていただきたいと思います。