「制限長期化で若者の自殺懸念」

 

 

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毎日新聞 2022/2/4 15:30

 

「制限長期化で若者の自殺懸念」難しい感染防止と経済のバランス


 重症化しにくく感染力が強い新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」。従来株以上に難しいのが「感染対策と社会経済活動の両立」でのバランスの取り方だ。経済界やSNS上では、対策の緩和を求める声が上がる。政府の基本的対処方針分科会委員の小林慶一郎・慶応大教授(マクロ経済学)も、かねて「両立」を訴えてきた一人だ。ただ、感染が急拡大する現状に「緊急事態宣言はあり得る」とこぼす。揺れる胸の内を尋ねた。

 

【聞き手・原田啓之】

感染抑制の目標「不適当ではないか」
 ――1月25日に開かれた政府の基本的対処方針分科会(※注1)で、現行の政府方針について見直しが議論になったようですが、どのような意見が出たのですか。

 ◆(緊急事態宣言などの具体的な内容を定める)政府の基本的対処方針は、(繁華街の人出など)人流の制限を中心にしたような強い感染抑制が目標です。だけど、オミクロン株は、今までの新型コロナウイルスよりも重症化率が低いことを示すデータがあります。経済学者の大竹文雄・大阪大特任教授は「オミクロン株の重症化率は季節性のインフルエンザと同じぐらいかもしれないのに、特別な感染対策の措置を講じるべきかどうか疑問だ」と言いました。私を含めた何人かは「今まで通りの目標を維持するのは不適当ではないか」と見直しを議論するよう求めました。

 一方、「日本の高齢者はワクチンの3回目接種率が低く、重症化率が上がる可能性もあるので目標を緩めるのは問題だ」という意見もありました。そのため、この点については全員一致にならなかったと思います。

 ――この日の会議終了後に尾身茂・分科会長は、もう一つの政府の分科会である「新型コロナ対策分科会」(※注1)で議論すると表明しました。目標をどう変えるべきだと考えていますか?

 ◆オミクロン株の重症化率がもし非常に低ければ、感染者が出ても社会や経済を回しながら医療逼迫(ひっぱく)を避けることを主要目標にできるのではないでしょうか。そのために、濃厚接触者の隔離期間を短くする、陽性者の退院基準を緩和して早く社会復帰できるようにする、基礎疾患がなく重症化リスクの低い若い世代には(医療機関を)受診せずに自宅療養を推奨する――と戦略を改めて、医療や保健所への負担を軽減すべきです。

 飲食店の時短など経済活動の制限についても、医療システム全体で逼迫が起きにくいと分かれば緩和できると思います。ただ、感染者の増え方に左右されるので、今すぐ緩められるとは判断できません。

 ――1月21日には小林さんも含めた専門家有志がオミクロン株対策の提言(※注2)を出しました。そこでも、重症化リスクの低い若者が受診せずに自宅療養することを提案しています。

 ◆医療現場にはそのような対応を求める意見がありました。感染者が急速に増える中で、医療を回すためにはやむを得ない措置です。

 ――尾身会長は「人流抑制ではなく人数制限」と対策の方針変更を促す発言をし、専門家有志の提言にも盛り込みました。一部の知事が反発しましたが、国民に受け入れられますか?

 ◆尾身会長の発言は、これから決めるべき新しい感染対策の目標を先取りした発言だったと思います。目標や戦術を変えても医療が逼迫しないで維持できると認められれば受け入れられるでしょう。逆に、感染者が増えすぎて医療崩壊が起きれば元通りの感染対策をやるべきだとなるでしょう。どちらになるかまだ不確実ではあります。

 ――専門家有志提言を作る上で参考にされたものに、小林さんら経済学者3人の連名で公表した提言(※注3)があります。今後取り得る感染対策で、制限の強さごとにAからCに分けています。どういう狙いが。

 ◆Aはこれまでと同じ強い行動制限、Bは強い制限を緩和して国民が医療逼迫の情報に触れることで自発的に行動が変わることを期待する、Cは医療システムを強化しつつ若年者を自宅療養にするなど新型コロナの扱いを変えることで医療への負荷を下げる、というオプションです。BとCを合わせたものが専門家有志の提言に相当しますが、私たちは特にCがオミクロン株に対して重要だと考えました。

てんびんにはか…