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2/1(火) 5:57デイリー新潮
橋下徹「テレビ大量露出」のウラにある巧妙な戦略とは 政治的中立性を巡り毎日放送が調査
その「発言力」は増すばかり
1月19日に開かれた定例会見で、毎日放送(MBS)の虫明洋一社長は「政治的中立」の観点から社内調査を命じたことを明らかにした。問題視されたのは、橋本徹・元大阪市長らが出演した元日の番組である。以下は異例の調査のきっかけとなった、週刊新潮の特集記事である。
【写真3枚】橋本氏が「総理候補」として挙げる人物は?
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今年1月1日、関西ローカルで放映されたテレビ番組が永田町の一部で話題を呼んでいる。それは、MBSの「東野&吉田のほっとけない人」。東野幸治とブラックマヨネーズの吉田敬が司会を務めるトーク番組だが、この日のゲストは橋下徹・元大阪市長、松井一郎・大阪市長、吉村洋文・大阪府知事。この三人が一堂に会し、およそ45分にもわたってあたかもトリオ漫才のようなやり取りを披露したのだ。
永田町関係者が言う。
「三人とも大阪では人気があるのでしょうが、さすがに日本維新の会の創設者である橋下氏と代表である松井氏、副代表の吉村氏の鼎談を、公共の電波を用いて放送するのは偏向に過ぎる、という声が永田町で上がっているのです。放送の『不偏不党』は放送法で定められたルールですから」
政治的中立性を欠いた番組
選挙、国会議員の文書交通費問題、否決に終わった大阪都構想……。番組では終始一貫して維新の政策を「自画自賛」するかのようなやり取りが続き、橋下氏の口からは都構想実現を切望するような言葉も飛び出した。極めつきは番組後半、「いつか総理になると思う人は」との問いに対し、三人がそれぞれ自分の考えをフリップに書いた場面。橋下氏と松井氏が揃って「吉村洋文」と書いたのだ。吉村氏は自民党の小泉進次郎前環境相の名を書いたものの、“本当は橋下さんにやってもらいたいと思っている”とも述べていた。
司会の二人はこうしたやり取りを温かく見守りつつ、時折合いの手を入れるのみ。例えば大阪府のコロナ対策に関して、人口100万人当たりの死亡者数が全国ワースト1位になっていることなど、吉村知事らにとって「耳の痛い問題」が俎上に載ることはなかった。
毎日放送に取材を申し込んだところ、
〈ご覧いただいた方から「政治的に公平でない」というご指摘があることは承知しております〉
との回答が寄せられた。
「明らかに政治的中立性を欠いた番組が成立してしまう背景には、橋下氏の存在があります。現在の橋下氏は、表向きは維新とは何の関係もない、“いち民間人”“いちコメンテーター”であることを強調しています。今回の番組も、準レギュラーである橋下氏が松井、吉村両氏を“連れてくる”という体裁を取っている。そのため、視聴者に許容されてしまうのかもしれません」(先の永田町関係者)
ツイッターでは維新への言及が突出
現在、橋下氏はフジテレビの「日曜報道 THE PRIME」と「めざまし8」にレギュラーで出演し、昨年1年間の総テレビ出演回数は実に250回を超えた。
「橋下氏がメディアに大量露出しているおかげで、結果的にとはいえ、“維新寄り”の画が公共の電波を通じて流れている。そのことと、昨年10月の衆院選で維新が元の11議席から41議席まで勢力を拡大したことは無関係ではないでしょう」(同)
では、橋下氏は本当に「いち民間人」なのか。
さる政界関係者が昨年の衆院選後から12月末までの橋下氏のツイッターでの各政党への言及頻度について分析したところ、
「『自民』が約60回、『立憲』が約50回だったのに対して、『維新』は400回を超えていました。1年前の同時期についても調べましたが、維新への言及は約10回。ここにきて維新に関する発言が激増していることが分かります」
この時期は日本維新の会所属の足立康史衆議院議員と「バトル」を繰り広げていたこともあって「維新」への言及が多くなった面はあるのだろう。しかし、そのツイートの中身をよく読んでみると、「この足立って議員、本当に維新? ?」と述べるなど、完全に「維新のブランドを守る」スタンスでの物言いとなっているのだ。
「念のため、やはりコメンテーターを務めている舛添要一前東京都知事の同時期のツイートも調べてみたところ、自民が約20回、維新が10回などとなっており、特定の政党への偏りは見られませんでした」(同)
フジテレビに年間150回出演
橋下氏はテレビでは「いちコメンテーター」をアピールするも、「危機」を察知した際には踏み込んだ発言をすることもある。昨年12月、松井市長の「30人宴会問題」が発覚した際には、「日曜報道 THE PRIME」(12月12日放送)で、
「松井さん、自ら2時間程度ってことをね、吉村さんと松井さんで決めたわけですから、これしっかり守ってもらわなきゃいけないですよね。ただね、ルール自体がおかしいところがあって、確かに松井さんが言ったように上限の人数決まってないんですよ」
と、擁護ともとれる発言をしている。
「橋下氏のテレビなどでの発言は実に巧妙です。不祥事を自らが厳しく非難する姿勢を示すことで“維新の不祥事への厳格さ、清廉さ”を暗にアピールして傷を浅くしようとするものだったり、“改革が手ぬるい”と叱咤することで逆に改革姿勢を示すものだったりします」(先の永田町関係者)
暗黙のうちにこうした「メディア戦略」を許しているテレビ局側の責任も見過ごせまい。中でもフジテレビはレギュラー番組を二つも持たせ、ゲストとしての出演回数も含めると年間150回を超える。他のキー局と比べて突出した出演回数となっているのだ。
東京都知事の座を狙っている?
元日本テレビ解説委員で上智大学新聞学科教授の水島宏明氏が言う。 「フジテレビは報道において公平性に気を付ける意識が比較的弱いテレビ局だと思います。他局であれば、橋下さんをレギュラーにはしない、他の共演者でバランスを取るといった措置を講じるでしょう」 先の政界関係者は、 「フジが橋下氏を重用する背景には、今も社内で隠然とした影響力を誇る日枝久元会長の存在がある、という見方があります」 として、こう明かす。 「経営が厳しくなっているフジが今も望みを繋いでいるのが『お台場カジノ構想』。それを推進するために橋下氏を東京都知事にしたい、との思いが日枝元会長にはあるといわれています。橋下氏自身もまんざらでもないらしく、昨年秋、小池百合子都知事の重病説が流れた際には、維新の関係者が病状についてリサーチしていたそうです」 橋下氏のテレビ大量露出の背景に「東京都知事の座」と日枝元会長――。何やらキナ臭い話だが、維新の本拠地である大阪にも、「しがらみ」を感じざるを得ない事実が、表沙汰になることなく眠っていた。
「お世話したことも…」
「2020年7月、大阪市はある会社と『消毒液買入』として約6300万円もの巨額の随意契約を結んでいます。しかし、その会社の社長が維新と親密な関係にある人物だったことから、“何か裏があるのでは”と囁かれてきたのです」(大阪市政関係者) その会社とは、大阪市に本社がある衛生用品メーカー「サラヤ」。民間調査会社によると、従業員は約1600人、20年10月期の売上高は「コロナ特需」もあってか630億円を超える。社長の更家悠介氏は、「大阪維新の会」を支援するために関西を基盤とする会社経営者約240人が設立した政治団体「経済人・大阪維新の会」の会長を務めている。 「大阪市は『緊急の必要による場合』との理由でサラヤと随意契約を結んでいますが、契約が締結された20年7月はすでに国内での消毒液の大幅な生産が実施されていた時期で、他の業者でも対応可能だったはず。実際、東京都など他自治体では同時期に入札による業者選定を行った事例が多数あります」(同) 当事者である更家社長本人に聞くと、 「随意契約? 随意契約になっているんですか?」 奇妙なことに、社長であるにもかかわらず、6千万円超の契約について把握していない、と言うのだ。 「6千万円も契約していたとは知りませんでした。市との契約自体は会社の担当者がやっているもので、社長である私が実際に出向くわけではありませんから。大阪市が6千万円も使うとは考えにくいけどな……。橋下さんや松井さんをお世話したこともあったけど、何かやってくれなど一言もありませんよ。彼らも私もそういったことは嫌っていますからね」
維新色を強める橋下氏
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早稲田大学非常勤講師の田島泰彦氏はこう危惧する。 「橋下さんや吉村さん、松井さんがテレビに出るのが日常的な光景になりすぎていて、批判するという精神が麻痺してしまっているのでしょうか。この三人が揃って出演するなど、あまりに露骨すぎで、明らかに中立性を欠いています」 中立の立場であるべきコメンテーターとして活躍する一方、“維新色”を強めていることについて橋下氏本人はどう考えているのか。取材を申し込んだところ、A4判3枚にわたる長大な回答文が寄せられた。橋下氏が長々と「弁明」すること自体異例だが、その理由については、 〈今回はきちんとお答えしなければならない質問だと思い回答しました〉
本誌への逆質問
回答文には、本誌(「週刊新潮」)への“逆質問”も含まれていた。以下、可能な限りそれにも答えながら橋下氏の「弁明」をご紹介しよう。 〈放送法を歪めるかたちで出演することは日本のためにもなりませんし、僕の本意でもありませんので、もし僕の出演やコメントで政治的公平性を害する部分があるというのでありましたら、具体的に指摘していただけると幸いです〉 と、橋下氏は書いているが、冒頭で取り上げたMBSの番組が「政治的公平性を害」しているのは明らかであろう。橋下氏はこの番組について、 〈それぞれの人間性にクローズアップした企画〉 だったと言う。しかし、そんな内容の番組ではなかったことはご本人が一番理解しているはず。都構想を切望するような発言をし、「いつか総理になると思う人」として吉村知事の名を書いたことを忘れたのだろうか。 松井市長の「30人宴会問題」が発覚した際のテレビでのコメントについては、 〈僕は元々飲食店への不合理な営業制限には反対の立場を主張しています。ですから「吉村さんのルールの決め方がおかしい」と指摘しました。「国民は不合理なルールに従わなくてもいい」という、ある意味吉村さん批判です。ただし「この不合理なルールを決めたのは吉村さんと松井さんなので、いくら不合理なルールであっても松井さんには守ってもらわないと府民への示しがつかない、だから反省して欲しい」という趣旨の批判コメントです。そもそも大阪府の今回のルールには会食人数の上限は設定されていません。一テーブル4人まで、一店舗2時間程度という制限だけです〉 前出の永田町関係者は、 「橋下さんは、“吉村さんが決めたルールがおかしい”と自分は維新を批判しているじゃないか、と言いたいのでしょうが詭弁です。ルールの決め方の問題に論点をすり替えることで、全体として松井市長を不祥事から守る発言となっているのは明らかです」 と、こう語る。 「“会食人数は上限が設定されていない”という主張についても、ルールとして決まっているのはあくまで“1テーブル当たりの人数”で、飲み会のグループの人数は上限が定められていない、という詭弁でしかありません。また、この主張は松井市長が行った弁明と全く同じものです」
橋下氏の反論に専門家は
橋下氏は回答文で、 〈僕の立場であれば、放送法4条の政治的公平性や意見が対立する問題の場合には多角的に論点を明らかにすべきことを特に意識しています〉 〈その他の番組でも政治的公平性が害されていないか、かなり注意している〉 などとした上で、 〈僕は大阪維新の会、日本維新の会の創設者でありますが、支持政党は明らかにしていません。ただし民主国家の一員である以上、もちろん自分の政治信条に近い政党や政治家は存在します。/それがあたりまえのことではないでしょうか? /あとは出演者の支持する政治家、政党の宣伝にならないような番組作りにしなければならないことはご指摘の通りです〉 〈繰り返しますが、僕は日本国民として自分なりの政治信条がありますし、支持政党もあります。支持する政治家もいます。/しかし、そのことだけで地上波出演ができないというのは違うと思います〉 と強調するが、先の永田町関係者は、 「コメンテーターが政治信条や支持政党を持つことを否定する人はいないでしょう。しかし、世のいずれのコメンテーターも、総理候補として吉村知事の名を挙げたりして特定の政党を支援するコメントは決してしない。そこが決定的な違いであり、本質的な問題だと思います」
立教大学名誉教授の服部孝章氏はこう話す。
「大阪だけではなく全国で着実に力をつけてきている維新に非常に近い人物が、レギュラーとしてテレビ番組に出るということを、本来はメディアや国民が拒否しなければなりません。しかし、現在はメディアにも国民にも権力をチェックする機能が失われているように思います」 橋下氏には東京都知事選出馬の可能性についても聞いたが、
〈現在は、まずは家族を大事に、という価値観です〉
と、出馬を否定した。しかし、無節操なテレビとの“協調関係”が続く限り、「橋下都知事」誕生の日が来ないとは言い切れまい。
「週刊新潮」2022年1月27日号 掲載
https://news.yahoo.co.jp/articles/2dca9a13596f9b78bdb484c1a7c979b49aa47fa5