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経済回復戦略揺らぐ オミクロン株で首相誤算 参院選控え、後手批判恐れ〔深層探訪〕

 

 

 

首相官邸に入る岸田文雄首相=7日午前、東京・永田町

 岸田文雄首相が目指す新型コロナウイルスの感染対策と経済活動回復の両立が揺れている。経済への打撃を避けるため推移をなお見極めるべきだとの声が残る中、首相は沖縄など3県へのまん延防止等重点措置の適用を決定。背景には特性が明らかでない変異株「オミクロン株」への警戒感に加え、夏の参院選を前に対応が後手に回り、世論の批判を浴びることへの危惧がある。 

 

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 ◇菅前首相を意識  「オミクロン株の市中感染が各地で明らかになっている。3県の感染拡大に早急に対応する必要がある」。首相は7日夕の政府対策本部で、3県へのまん延防止措置適用を宣言した。  このタイミングでの適用は政府内の総意ではない。昨年11月にまとめたレベル0~4の感染状況の新指標でまん延防止措置が想定されるのは深刻度が3番目のレベル2以上。沖縄県は4日、広島、山口両県は6日にレベル2になったばかりだ。  しかも、レベル判断で最重視される病床使用率は4日時点で3県とも20%前後で、レベル2かどうかも意見が割れる。首相官邸内にも経済への打撃を懸念し、判断先送りを求める声があった。  それでも首相が適用を急いだのはオミクロン株の特性が依然分からないことが大きい。感染力が強いのは確かで、全国で同株の疑いがある感染者は昨年12月20日からの1週間で16%だったのが、同27日からの1週間では46%に急増した。  若年層の重症化率が低いとされる一方で、高齢者などが罹患(りかん)した場合の重症化リスクは分かっていない。首相周辺は「オミクロン株の感染速度はデルタ株の数倍。こちらも数倍早く動かなければ追いつかない」と語った。

 

  首相には参院選を前に後手に回ったとの批判を浴びたくないとの計算も働いたようだ。菅義偉前首相は自治体の緊急事態宣言などの要請を受け入れず、世論の批判を受けた。政府関係者は「自治体からの要請を拒めば、内閣支持率に響く」と首相の胸中を代弁する。  菅氏を反面教師として意識していることはさまざまな場面からうかがえる。政府対策本部での決定前に方針をほとんど説明しなかった菅氏と対照的に、首相は6日夜の段階で、方針を約20分かけて記者団に説明した。

 

  ◇全体像に狂い  オミクロン株は当面の感染対策のみならず、経済立て直しに向けた首相の戦略も揺さぶる。「通常に近い社会経済活動を一日も早く取り戻す」と公言してきた首相は昨年11月、コロナ対策の「全体像」を発表。ワクチン接種証明書か陰性証明書を持っていれば緊急事態宣言やまん延防止措置の発令中でも行動制限を緩める「ワクチン・検査パッケージ」をその中核に据えた。

 

  しかし、パッケージはワクチンの効果を見込めるデルタ株が前提。「発症予防効果が著しく低下する」との報告もあるオミクロン株は想定外だ。自治体からは6日に「制度を見直すべきだ」(神奈川県の黒岩祐治知事)との声が上がり、7日の政府分科会でも同様の意見が出された。

 

  政府は7日、パッケージについて「知事の判断で停止できる」と周知する一方、会食などへの参加者全員が検査すれば行動制限を緩められるよう基本的対処方針を改定した。オミクロン株の感染拡大を招きかねないワクチン接種証明書に基づく行動制限緩和を事実上停止し、時間を稼ぐ苦肉の策だ。

 

  政府コロナ分科会の尾身茂会長は7日、記者団に「パッケージを早急に見直す」と明言。山際大志郎経済再生担当相も衆院議院運営委員会で「極力経済を止めないで済むようにするのが肝だ」と強調した。ただ、「別の病気」と言われるほど性質が違うオミクロン株にどう対応するか、解は見いだせていない。