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特権を問う
毎日新聞 2021/12/22 17:00
新宿、上野、浅草 ヘリは観光地を飛んだ 米軍特権を語り尽くす/2
在日米軍のヘリコプターが東京の中心部で日本のヘリであれば違法となる低空飛行を繰り返しています。こうした問題を掘り下げたオンラインイベント「六本木に米軍ヘリが墜ちないために~不平等な日米地位協定を知る~」の内容を10回に分けてお伝えします。
第2回は沖縄県や東京都心、海外など各地の飛行実態を報告し、日米地位協定が在日米軍の訓練をどのように規定しているのかについても紹介します。<第1回の記事と各回のテーマはこちらから>
イベントは2021年9月に実施しました。記事の内容は開催当時のもので、登壇者の了解を得て発言を編集・加筆しています。モデレーターを務めたのはTBS報道局の佐古忠彦氏。沖縄を舞台にしたドキュメンタリー映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー」の監督としても知られています。ゲストは安全保障問題に詳しく日米地位協定に関する著作もあるジャーナリストの布施祐仁氏です。
佐古 最も怖いのが事故です。実際にアメリカでは事故の例があるということですね。
川上珠実(外信部記者) ブラックホークの事故が相次いでいます。2021年1月にニューヨーク州で夜間飛行の訓練中に墜落しました。兵士3人が亡くなっています。この事故の翌月にも、アイダホ州で兵士3人が亡くなる事故が起きています。米メディアによると、2019年末から2021年2月までの間で墜落事故が5件起きて、米兵16人が亡くなっています。ブラックホークは1970年代から米軍で使われてきた伝統のあるヘリコプターで今も米陸軍のヘリ部隊の主力です。今のところ機体に重大な問題があるとは言われていません。ただ、短期間にこれだけ事故が起きている。運用面で組織的な問題があるのではないかと指摘する議員もいます。国防総省に調査を求める動きもあります。
佐古 大場記者、都心で米軍ヘリが飛ぶ様子を教えてください。
大場弘行(社会部記者) こんなケースがありました。六本木のヘリポートをウオッチしていると、ブラックホークが若い6人の隊員を乗せて基地のある神奈川の方向に飛び立ちました。すると、突然迂回(うかい)して新宿の方に向かった。新宿駅の真上を通り、歌舞伎町、東京ドーム、上野公園、浅草、そしてスカイツリーまで行く。そこでUターンして同じコースを戻って来て、ようやく基地のある神奈川の方に帰って行った。私はこれを見たとき、遊覧だなと思いました。いずれも外国人観光客の人気スポットですから、まるで「はとバス」の観光コースだと言う人もいました
米海軍のシーホークというヘリも神奈川の厚木基地から都心にやって来ます。ブラックホークよりもリスクのある飛び方をします。渋谷駅の前後からJR山手線の内部に進入します。高度100~200メートルぐらいの高さで山手線内の南部エリアにある代々木、原宿、青山、六本木、広尾、白金の上空をぐるぐる回ります【写真⑦、写真⑧】。それから東京タワーの横をすり抜けて、日本有数のオフィス街である浜松町のビル群をすり抜け、隅田川に出て北上し、スカイツリーまで行く【動画】。これを見たときには、軍事訓練に違いないと思いました。
実際、自衛隊幹部OBはこう言っています。「今のアメリカ軍が想定している戦闘地域は砂漠のような平野ではない。ビルのある市街地だ」。特に陸軍のブラックホークは特殊部隊を乗せて敵陣の奥地まで入っていく。ビルの間を縫って飛んだりするのです。つまり、東京都心での超低空飛行はそういった市街戦を想定した訓練の可能性もあるということです。私はある程度、信ぴょう性のある見方だと思っています。
佐古 しかし、洋上で活動する海軍ヘリが市街地の上を飛ぶのはなぜなのでしょうか。
大場 シーホークも六本木のヘリポートに米軍幹部を運んでくる。その訓練という面はあると思います【図④】。ただ、それだけなら山手線内の南部を低空飛行でぐるぐる回ったり、浜松町のビル群をすり抜けたりする必要はないはずです。六本木のヘリポートで着陸後すぐに飛び立つ「タッチ・アンド・ゴー訓練」とみられる行為も繰り返していました【動画】。
シーホークが2機編隊でスカイツリーをポールに見立てて8の字で何度も回ったこともあります【写真⑨】【図⑤】【動画】。
この映像を見た自衛隊の幹部OBらは敵の潜水艦を探す訓練ではないかと言っていました。
シーホークは潜水艦探知用の小型ソナーを海上に落として、ソナーの上をぐるぐる回って飛ぶのです。ソナーが発する電波をキャッチするためです。この訓練をスカイツリーを使ってやっているという見方です。ただ、在日米軍は私たちの取材に飛行目的が何であるか答えていません。だから謎なのです。
佐古 驚くべき見方の一つですね。米軍機の低空飛行は東京だけのことではありません。沖縄でも日常茶飯事なのでしょうか。
遠藤孝康(那覇支局記者) その通りです。2020年末から翌2021年2月には、沖縄本島の西に浮かぶ慶良間(けらま)諸島の国立公園や、沖縄本島北端の辺戸(へど)岬で米軍機による低空飛行が相次いで目撃されました【写真⑩、写真⑪】【図⑥】【動画】。
辺戸岬にはかつてはこの先が日本だったということで祖国復帰の碑が立っています。沖縄の復帰闘争の歴史を語る象徴的な場所です。そういうところをアメリカ空軍のMC130Jという特殊作戦機が低空で飛んだのです。敵のレーダーをかいくぐって前線に物資や兵員らを運ぶ訓練をしているのではないかと言われています。
問題は、いずれの場所も米軍に提供されている訓練空域ではないことです。国立公園や岬には観光客もたくさん来ます。沖縄周辺には米軍に提供されている広大な空域があります。その広さは広大で北海道の約1・1倍と言われています。このため、沖縄県は訓練をするなら提供空域でやってほしいと求めています。
米軍機の低空飛行訓練については1999年に日米合同委員会で合意も交わされています。合意文書にはこうあります。「在日米軍は、国際民間航空機関(ICAO)や日本の航空法により規定される最低高度基準を用いている」。つまり、米軍も日本の高度基準を守るということです。
日本の航空法令では、最低安全高度は平野などの家屋のない場所では地表から150メートル以上となっています。しかし、慶良間諸島での低空飛行の様子を市民が撮影した映像を見ると、機体のすぐ下の位置に海抜約44メートルと書かれた標識が映り込んでいます。
日米地位協定には、米軍の訓練に関する規定はありません。簡単に言うと、米軍の航空機は使用している基地や空域の間を移動できると書かれているだけです。移動が許されているだけなのに拡大解釈して訓練までしているのです。地位協定に明確な規定がないことも問題だと思います。
<23日に配信する第3回に続きます。
第3回は首都中心部に米軍基地がある経緯から問題を掘り下げていきます>
登壇者のプロフィル
佐古忠彦
1964年生まれ。TBSテレビ報道局。「筑紫哲也NEWS23」のサブキャスター▽「Nスタ」「報道LIVEあさチャン!サタデー」のメインキャスター▽「報道の魂」「JNNドキュメンタリー ザ・フォーカス」のプロデューサー――などを務める。政治部記者・デスクも経験し、監督としてドキュメンタリー映画「生きろ 島田叡――戦中最後の沖縄県知事」(2021年)を手がけた。
布施祐仁
1976年生まれ。ジャーナリスト。情報公開請求を駆使した調査報道で自衛隊南スーダンPKO日報の隠蔽問題を表ざたにした。2018年に「日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか」(共著)で「第18回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞」。ほかにも「ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場」(平和・協同ジャーナリスト基金賞、JCJ賞)――など。公式ツイッター
川上珠実
外信部記者。米軍普天間飛行場の移設問題や2016年に元米海兵隊員の男がうるま市の女性を殺害した事件などを取材した。
大場弘行
東京社会部記者。公文書隠蔽の実態に迫るキャンペーン報道「公文書クライシス」やセレモニー化する国会の実態を描く「国会を問う」を担当。
遠藤孝康
那覇支局長。広島支局、大阪本社社会部、福岡報道部、長崎支局を経て18年4月から現職。沖縄では翁長雄志前知事の急逝とその後の知事選、辺野古埋め立ての賛否を問う県民投票、首里城火災、沖縄戦75年を取材。憲法、原爆も関心のあるテーマ。
【写真⑪】座間味島の神の浜展望台のすぐ近くを通り抜けていく米軍機=沖縄県座間味村で2020年12月28日午後2時ごろ(宮平譲治さん提供)
【図③】昨年8月18日に低空飛行が確認された米軍機のおおよその航路
【図③】【動画】。
【写真⑦】東京都渋谷区のJR原宿駅付近から山手線内に進入した米海軍ヘリ「シーホーク」=都内で2020年12月14日午後1時半ごろ、大場弘行撮影(写真は動画から)
【写真⑨】東京スカイツリーの展望デッキ(高さ約350メートル)周辺を通過する「シーホーク」2機=東京都内で2020年8月27日午後4時20分ごろ、大場弘行撮影(写真は動画から)