《「子どもと教科書全国ネット21ニュース」から》
 ◆ 教員免許更新制は廃止し、自主的な研修をこそ保障してほしい

糀谷陽子(こうじやようこ・子どもと教科書全国ネット常任運営委員〉


 ◆ 「百害あって一利なし」の教員免許更新制

 2006年に教育基本法を改悪した第一次安倍政権が、その具体化である「安倍教育再生」政策の1つとして、2009年から導入したのが教員免許更新制でした。
 それ以前に交付された「旧免許状」も含めて10年間の期限付きとなり、30時間の更新講習を受講して必要な手続きを取らなければ、教員免許が失効してしまう制度です。

 目的は「定期的に最新の知識技能を身に付け」「教師として必要な資質能力を保持する」ためなどとされていますが、制度導入直後からたくさんの問題が指摘されていました。
 1つは、教員の負担が大きいこと。
 2つに、その割には目的にかなった学び門が保障されているわけではないことです。
 更新講習は、主に長期休業期間中に実施されます。


 その間に30時間(=5日間)を捻出すること、講習の受講料(他県での講習に参加するため、交通費や宿泊代がかかる場合も)は大きな負担です。
 受講の受付は毎年5月ぐらいから始まりますが、「申し込もうとしたら、あっと言う間に一杯になってしまった」「部活動の大会の日程が重なりそうで、今から決められない」などと悲鳴が上がります。
 結局、自分にとって必要な講習を受けるというより、日程に合わせて受講可能な講習をとにかく受けるというのが実態で、制度の目的からは程遠く、「教師として力をつけると言うなら、校内研修や教育委員会主催の研修など日常的にやっているのに」というのが、率直な思いです。

 問題の3つめは、「うっかり失効」が後を絶たないことです。
 無事に研修を受講しても、決められた期間に都道府県の教育委員会に必要な書類を提出して手続きを取らなければなりません。さまざまな事情で遅れてしまい、免許失効となって退職せざるを得なくなった例は珍しくありません。

 4つめは、最近いたるところで生じている「教員の未配置・未補充」の要因となっていることです。
 年度途中に産育休や病休に入ったり、途中退職する先生があったりした場合、代わりの教員を見つけることが困難になっています。退職された教員に声をかけても、免許が失効しているため任用できない例が多く、文科省は特別免許状を発行して対応できるようにしましたが、それでも間に合いません。
 また、「10年で切れてしまうような免許状なら、最初から取らない」と、教職を目指す学生が減少していることも深刻な問題です。


 ◆ 中教審が「発展的解消」を提示

 こうした状況を反映し、昨年の中央教育審議会が行った教育関係団体からのヒアリングでは、教職員組合はもちろん全国市長会、中核市教育長会、全国特別支援学校長会、全国高等学校PTA連合会などから、教員免許更新制の見直しや廃止を求める声が続出しました。
 今年1月の第10期中教審答申で教員免許更新制について「包括的な検証を進め、その結果に基づき、必要な見直しを行う」とされたのを受けて、文科省は3月、第11期中教審に対し、「免許更新制の抜本的な見直しの方向について先行して結論を出してほしい」と諮問しました。

 半年間の審議を経て、中教審「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」は、教員免許更新制について「新たな教師の学びの姿」に「発展的に解消する」という内容の「審議まとめ案」を発表し、10月1日~30日までパブリックコメントが行われています。
 萩生田文科大臣(当時)は、来年の通常国会で必要な法改正を行い、「早ければ2023年度から廃止する」との方針を明らかにしました。
 このことは、コロナ禍のもとでこれまで以上の長時間過密労働に苦しむ教職員にとって何よりの朗報であり、「安倍教育再生」の一角を崩したという意味でも、重要な到達点だと思います。「声を上げてホントに変える」ことが、また一つできました。しかし、……。


 ◆ 「新たな教師の学び」とは?

 「審議まとめ案」は、教員免許更新制を「廃止」ではなく、「新たな教師の学び」に「発展的に解消」するとしています。この「新たな教師の学び」には、重大な問題があります。
 まず、「『令和の日本型学校教育』を担う新たな教師の学びの姿」とは何か。審議まとめ案は、次のことを示しています。

○学び続ける教師
○教師の継続的な学びを支える主体的な姿勢
○個別最適な教師の学び、協働的な教師の学び
○適切な目標設定・現状把握、積極的な「対話」
○質の高い有意義な学習コンテンツ
○学びの成果の可視化と組織的共有

 その実現のために「講ずべき当面の方策」として、「国の指針において、時代の変化に応じて教師が身に付けるべき資質能力など基本的な視点を明らかに」した上で、下記のように「公立学校教師に学びの契機と機会の確実な提供(履歴の記録管理、受講奨励)」を求めています。

 ○文部科学省においては、任命権者が、教師が教員研修計画に基づき受けた研修の履歴等を記録及び管理し、当該履歴を活用しながら、任命権者や服務監督権者・学校管理職等が、教師との対話を通じて、教師に計画的かつ効果的な資質の向上を図るためのの研修の受講を奨励することを義務付けることを検討すべきである。
 ○任命権者が当該履歴を記録管理する過程で、期待する水準の研修を受けていると到底認められない教師には職務命令による研修の受講や、職務命令に従わない場合には適切な人事上又は指導上の措置を講じることが考えられ、こうしたことを国が定める指針の中で明らかにすべきである。

 そして、このようなことをすすめるために、「研修受講システム」を導入して、

①学習コンテンツの質保証、
②ワンストップ的に情報を集約し、適切に整理・提供するプラットフォーム、
③学びの成果を可視化するための証明の仕組み、

 という「3つの仕組み」を構築することを提案しています。
 その構築・運用は「全国的な研修・支援のハブ機能を有する教職員支援機構」が、都道府県教育委員会などと共同して行うとしています。


 ◆ 研修は自主的・自発的に

 要するに、「『令和の日本型学校教育』を担う教師」として必要な「資質・能力」を身につけさせるための研修を、「教職員支援機構」が中心となって体系化し、都道府県・政令市の教育委員会に、すべての教師の受講履歴のデータ管理と、「管理職等との対話を通じて」一人ひとりが受講すべき研修の奨励を義務づけるという提案です。
 国が定めた研修を、職務命令や「人事上の措置」=処分までちらつかせて強制しようとしています。

 ※ 教育公務員特例法
第21条 教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない
第22条 教育公務員には、研修を受ける機会が与えられなければならない。
2 教員は、授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修を行うことができる

 上記のように、教員にとって研修とは、義務であると同時に「権利」です。
 その内容は、上から押しつけられるものではなく、子どもたちへの教育を進める上で必要なものを、それぞれの教員が専門性を発揮して、自主的に判断して選び取るべきものです。
 「新たな教師の学びの姿」は、このような研修の基本を投げ出して教師としてのあり方を統制する、まさに「国定教師づくり」と言っても過言ではないと思います。

 自分自身のことを振り返っても、教師は、日常的な子どもとのやりとり、同僚の教職員や保護者から学んで成長していくのだと思います。
 しかし、今の学校現場はゆとりがなく、追い立てられるばかりで、そのようなことができにくい場になっています。
 教師が教師として、子どもが子どもとして、本当の意味で育っていけるような条件を、学校につくってほしいと思います。
 教員免許更新制の廃止はもちろん、「新たな教師の学び」ではなく、教職員の大幅増員、少人数学級の実現をこそ、すすめてほしいと切に願います。

『子どもと教科書全国ネット21ニュース 140号』(2021.10)