=東京 墨田区保健所=
◆ コロナ感染第5波 重症者ゼロ
職員増など区立の機敏さ活かす (週刊新社会)
感染者の自宅放置、入院受け入れ不足で死亡者が続発し、大きな恐怖となった新型コロナ感染第5波の中で、重症者・死亡者ゼロで注目されているのは東京都墨田区(人口27万6千人)の区立保健所(西塚至所長・同区保健衛生担当部長)だ。
都立ではなく区立、区議会も昨年11月から採用した通年議会で補正予算を迅速に議論できる。この機敏さと都に任せきりにしない住民目線で取り組んだ結果が先のゼロだ。
東京都が保健所機能ひっ迫でPCR検査縮小に転じた「積極的疫学調査」通知下でも墨田区保健所はこれまで通りの検査を続けた。
職員数を第4波時の25%増、約125人に増やしていたことが功を奏した。
人員増で自宅療養者全員へのパルスオキシメーター配布や、24時間体制の自宅訪問も可能となった。
墨田区はワクチン接種でも断トツのスピードだった。
早くから医師会とワクチン接種の協議を行い、昨年12月に予防接種調整担当課を立ち上げている。
都が行う医療従事者のワクチン接種の遅れも、高齢者枠を使って区が独自に接種をすませ、一般接種に備えた。
また国が進める個別接種中心ではなく集団接種の方法をとり、高齢者の接種開始の一カ月以上前に接種券を配布した。
これらは災害時の危機モードに頭を切り替えて取り組んだ成果だ。
注目すべきは地域完結型の医療体制「墨田区モデル」の構築と、抗体カクテル療法のすみやかな導入だ。
墨田区内には都立墨東病院が基幹病院として重症者を受け入れていたが、入院調整は都が行い、区の声は反映しない。しかも患者急増で受け入れ困難となった。
しかし、そのような情報を区と医師会、各病院で毎週行う中で共有し、区内病院の協力体制が進んだ。
そのことが回復期の患者を中小病院が受け入れて、重症者や中等症、軽症者の空きベッドを確保することにつながった。
この転院システムを1月に作って3日目に入院待機者はゼロになったという。
そして早期の抗体カクテル療法の取り組みだ。
7月19日に重症化リスクの高い軽症・中等症患者の治療薬として特例的に承認されると、27日から区内の病院の20床で治療を開始した。
これらの素早い対応は第4波で発生した大阪の危機的状況、酸素が足りない、中等症向けのベッドは満杯になり患者は減らない等医師会とともに学び、このようなことを起こしてはならないと危機感を持ったからできたといえる。
十分なPCR検査体制を自前で確立したことも功を奏した。
昨年6月に検査会社によるPCR検査センターを設置、さらに唾液による検査方法によって保健所も自前で検査を始めた。
こうしたことができたのも14年に代々木公園でデング熱が発生して以来、蚊をとらえてはPCR検査を繰り返してきた職員がいたからだという。その職員が検査事業をリードして今がある。
都の指示待ちではなく、区民の命を守るために自ら情報を集め具体化する。
考えてみれば当たり前の保健所の存在が墨田区民の命を守ったといえる。
『週刊新社会』(2021年11月10日)