Ⅲ 電波政策の動向

1 免許制度

各加盟国の免許制度の基本的な枠組みが欧州電子通信コードに示されている。以下にその概要を示す。

(1)周波数政策

各加盟国は、欧州の周波数の使用の戦略立案、調整、調和のために相互に欧州委員会に協力し、周波数の可用性と効率的な利用に向けて、適切で調和の取れた条件の調整を推進する。また、各加盟国は、欧州で調和された周波数を使用する場合において、他国からの有害な干渉を受けないよう、RSPGを介して相互に協力する。

また、加盟国は周波数の使用の調和を促進するため、以下のことを確保するよう努める。

  • 高品質かつ高速なブロードバンドで領土をカバーするとともに、特に欧州横断輸送ネットワークを含む主な輸送経路をカバーする。
  • 新しい無線通信技術とアプリケーションの急速な発展を促進する。
  • 長期投資を促進するような予測可能性と一般性を確保した周波数の使用権の付与を行う。
  • 国境を越えた干渉を防止し適切な措置を講じる。
  • 周波数の様々な用途の間での共有使用を促進する。
  • 柔軟性、共有、効率を最大化し、可能な限り適切で面倒のない周波数の使用権認証システムを適用する。
  • 周波数の使用権の付与、移転、更新、変更、撤回の明確かつ透明性ある規則を適用する。
(2)免許手続

免許手続には、免許不要の一般認可と、免許を要する個別の使用権の付与がある。免許不要の一般認可(general authorisation)をする場合は非差別的、公平、透明な手続であることとする。要求に応じて、周波数の個別の使用権利を認める(granting of individual rights of use)場合は、客観的、透明、競争的、非差別的及び公平な基準に基づくものとする。また、一般認可(免許不要局等)を原則とし、個別の使用権(免許)を、需要を満たすため最大限効率的な利用をするために必要な場合に制限し、一般認可と個別の使用権の混在による有害な干渉の問題を最小限に抑え、更に、周波数の使用に対する制限を最小にするよう努めることとしている。

更に、個別の使用権に付加においては、周波数の最も効果的・効率的な使用を保証するよう条件を付すこととし、使用権の既存の保有者に不当な利益を提供することにならないよう、割当て又は更新の際には、使用権の取引又はリース等の可能性を含め、周波数使用の条件を達成するよう努めることとする。使用権には期限を設け、期限までに条件を満たさない場合当局は使用権を撤回する権利を持つ。

(3)使用権の存続期間

個別の使用権を許可する場合、周波数の競争、効果的かつ効率的な利用を確保する必要性及び投資償却の適切な期間の許可及び革新と効率的な投資を促進することを考慮して、適切な期間を設定する。

2018/1972/EUに基づき調和条件が設定された無線ブロードバンド通信に使用する周波数の個別の使用権については、少なくとも20年間の規制上の予測可能性を確保するものとし、使用権は少なくとも15年間有効であることを保証し、必要に応じて延長を認めるものとする。そのため管轄当局は存続期間満了の遅くとも2年前に使用権の条件順守についての評価を実施し存続期間の延長が認められるかどうかを決定する。

加盟国は、使用権の存続期間を調整して、一つ又は複数のバンドの権利の存続期間が同時に期限切れになるようにすることができる。

また、所管当局は、免許更新の可能性が明示されていない個別の使用権については適宜使用権の更新に関する決定を行うことができる。

(4)個別の使用権の譲渡又はリース

加盟国は、周波数の個別の使用権を他者に譲渡又はリースできることを保証する。ただし、無償あるいは放送のために割り当てられた場合は除く。特に、使用権に付随している条件が維持されたままでの使用権の譲渡又はリースを許可するものとする。また、所管当局は、譲渡又はリースを促進するため、譲渡可能な周波数の使用権の詳細を電子的手段で公表するものとする。更に、電子通信ネットワーク及びサービスに使用する周波数の譲渡又はリースについては、競争を促進し競争のひずみを避けるための措置をとることができる。

(5)電波利用料

欧州電子通信コード付録IパートDに、周波数の個別の使用権に付することのできる義務リストがあり、その中で、個別の使用権に本指令第42条の料金(fees)を付すことができるとし、電気通信ネットワーク又は電気通信サービス提供のために使用される周波数の使用権の料金(Fees for rights of use for radio spectrum)は、所管当局が設定できることとされている。また、料金設定は、①効率的な割当てと使用を保証する水準の適用可能な料金であること、②利用可能な代替用途における権利の価値を考慮した最低料金と付随する条件に伴う費用を考慮することとされている。

(6)ワイヤレス・ネットワーク機器の展開

無線LAN及び調和の取れた周波数を使用した公衆電気通信ネットワークへのアクセスには、一般認可のみが適用されるものとする。また、公衆で利用可能な電子通信ネットワーク又はサービスのプロバイダは、自らの一般認可の手段によるアクセス、更には、他のユーザが持つ一般認可の手段を介するアクセスを妨げてはならない。更に、所管当局は、無線LANからの公衆電気通信へのアクセスを不当に制限してはならない。

(7)緊急時の通信

加盟国は、ネットワークが壊滅的に壊れた場合においても、公衆通信ネットワークを介した音声通信及びインターネット・アクセスを最大限確保するよう必要な措置をとり、緊急サービス、公衆警報へのアクセスを、音声サービスの提供者が確保するよう保証しなければならない。

加盟国は、2022年6月21日までに、重大な緊急事態と差し迫った災害に関する公衆警報システムを整備し、警報が、移動電話番号をベースにした対人通信サービスのプロバイダによってエンドユーザに送信されるよう保証しなければならない。

(8)ラジオとテレビ受信機に対する相互運用性

加盟国は、カーラジオ受信機と民生用デジタルテレビ機器の相互運用性を確保しなければならない。

特にカーラジオについては、2020年12月21日以降欧州で販売又は賃貸市場で利用できるようになるカテゴリMの新しい車両に搭載されるものは、少なくとも地上デジタルラジオ放送を介するラジオ・サービスを受信して再生することができるEU標準規格又はそれと同等の規格の受信機を搭載するものとする。

(9)5Gバンドへの割当時期の調整

加盟国は、無線ブロードバンド・サービスに使用可能な地上システムにおいて、5G展開を容易にするために必要な、以下の適切な措置を、2020年12月31日までにとる。ただし、この期限は延長可能である。

  • 3.4-3.8GHz帯において十分に大きなブロックの使用を可能にする。
  • 市場の需要、既存のユーザへの、又は周波数移行における大きな制約がないことの明確な証拠があることを条件として、24.25-27.5GHz帯で少なくとも1GHzの使用を可能にする。
(10)小型基地局の設置にかかる規制緩和

欧州委員会は2020年6月30日、5Gネットワーク拡充に向け、小型基地局の設置許可の免除に関する規則を採択した。基地局の設置には、通常、電磁界ばく露の観点から、規制機関や地方自治体などによる認可が必要とされているが、小型基地局の送信電力などの技術的仕様を、人体に影響しないレベルに定めることで、認可手続を不要にする規定とした。具体的には、電磁波ばく露制限の欧州基準規定(EN62232:2017)における「簡易化された製品」の基準を適用し、公衆ばく露の制限値を国際的に安全性が証明されているレベルの50分の1に設定した。

(11)5Gセキュリティ

欧州委員会は2020年1月29日、EU加盟国が合意した5G網のセキュリティリスク緩和を目的とした措置であるEU「ツールボックス」を承認した。これは、欧州理事会の5Gセキュリティに対する協調的アプローチの要請に対して、欧州委員会が2019年3月に公表した勧告に続く取組みとなっている。EU加盟国は、欧州委員会による2019年3月の勧告に沿って各国レベルでの5Gリスク及び脆弱性について調査し、その結果をEUリスク評価報告書として2020年10月に発表している。ツールボックスには、EUの5Gサプライチェーンを通じた非EU加盟国や国営企業等からの干渉といった非技術的要因に関連するリスク含め、EUリスク評価報告書で特定されたすべてのリスクに対応する戦略的・技術的措置と、その措置の有効性向上を目的とした関連活動が含まれている。また、このツールボックスは特定の企業を明確に排除するものではないが、加盟国に対し、自国の通信網への高リスクな企業の製品使用を制限できる手段を提供するものとなっている。主な内容は以下のとおりである。

  • 通信及びサイバーセキュリティ規則
  • 標準化の調整、又はEUレベルでの認証
  • 欧州5Gサプライチェーン保護を目的とした外国直接投資審査枠組
  • 保護貿易措置
  • 市場競争関連規則
  • セキュリティ面を十分に配慮した公的調達
  • EU支援プログラム受恵者に対するセキュリティ要件等

EU加盟国は、2020年7月24日に進捗状況に関する報告書を提出した後、2020年12月16日にも進捗報告書を提出している。進捗状況としては、すべてのEU加盟国が実施に向けた手続を開始しており、ほとんどのEU加盟国は勧告された措置の実施に向けて順調に手続を進めているとしている。今後は、2021年第2四半期までに実施完了を目指すこととなっている。

2 基準・認証制度

2014年5月に、「無線機器指令(Radio Equipment Directive:RED)(2014/53/EU)」が施行され、本指令に基づき、無線機器の技術基準への適合性を製造会社等が宣言するEU適合宣言(declaration of conformity:DoC)が行われている。

RE指令では、放送受信機及び無線機能を内蔵するすべての無線通信機器が対象であり、無線機能を持たない電話機、ファクシミリ、屋内PLC等はLV(低電圧の機器が対象)指令(2014/35/EU、旧LV指令2006/95/ECを2016年4月20日に廃止)及びEMC(電磁両立性)指令(2014/30/EU、旧EMC指令2004/108/ECを2016年4月20日に廃止)の対象となっている。RE指令では、電磁界ばく露の基準に関して、LV指令、EMC指令を引用する形で必須条件としている。

3 個別の周波数分配の動向

EUとして単一市場を実現するため、EU域内の周波数分配に関する調和政策として、加盟国は下記の2項を課されている。

  • 国内に独立の周波数管理機関を設置し、周波数管理機関は、年に1度、国内周波数割当計画を欧州委員会に提出すること
  • 域内共通の周波数分配を国内に適用すること

また、具体的な周波数帯の分配につき、EUは加盟各国に各種の勧告や決議を出している。

実施決定2016/687/EUでは、原則2020年6月末まで(2年間の遅れを許容)に無線ブロードバンド通信に割り当てることが加盟国に義務付けられることとなった。併せて700MHz未満の周波数帯については、2030年までは放送利用に優先的に割り当てられることとされた。

実施決定2018/637/EUでは、900MHz帯及び1800MHz帯をヨーロッパ全体で2018年9月30日までにEC-GSM-IoT規格が利用可能とすることとされた。

実施決定2019/235/EUでは、欧州電子通信コードを受けて、3400-3800MHzを2019年9月30日までに移動体通信に優先的に割り当てることとされた。

実施決定2019/784/EUでは、同じく欧州電子通信コードを受けて、24.25-27.5GHzを2020年6月30日までに無線ブロードバンドに割り当てることとされた。

実施決定2020/1426/EUでは、5875-5935MHzを2021年6月30日までに高度道路交通システムに割り当てることとされた。

また、EUでは2016年9月、欧州委員会は5Gアクションプランを公表し、2018年末までに5G網の立ち上げに向けた共通のタイムスケジュールを設定し、2020年末までにすべての加盟国の少なくとも一つの主要都市において完全な5G商業サービスの開始、2025年末までにすべての都市部及び主要の地上交通路が5Gのカバーエリアとなることを目指している。5G向けの周波数については、欧州委員会が三つの周波数帯(1GHz以下、1-6GHz、6GHz以上)を含む暫定リストを作成し、順次加盟国と合意形成を図ることとしている。また、5GアクションプランのEU各国での展開をモニターして公表するオンライン・プラットフォームである「欧州5G観測所(European 5G Observatory)」を立ち上げ、加盟国間の情報共有を行っている。

4 電波の安全性に関する基準

EUは、1999年7月に「EU勧告(1999/519/EC)」において、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)ガイドラインの公衆ばく露制限値を加盟国で適用するよう勧告した。本勧告に強制力はないが、ほとんどの加盟国内で国内法規制又はガイドラインが導入されている。職業ばく露に関しては、2013年6月のEU指令2013/35/EUに基づき、各加盟国は同指令に適合するよう国内法令や規制を整備・制定している。

また、携帯端末機器に関しては、EMC指令(2014/30/EU)に基づき欧州電気標準化委員会(European Committee for Electrotechnical Standardization:CENELEC)が規格を整理している。

なお、BEREC及びRSPGは2020年10月9日、5Gの潜在的な健康リスクに関する共同政策方針書を発表、透明かつ科学的な方法で人々の健康を守るためには、ICNIRPのガイドラインを遵守することが重要であると強調している。