◆ MINAMATA (東京新聞【本音のコラム】)

鎌田 慧(かまたさとし・ルポライター)


 映画「MINAMATA」を観(み)た。
 写真によって水俣病を世界に知らしめることになるユージン・スミスは、ニューヨークで酒浸りの生活だった。そこヘアイリーンが現れて共に水俣へむかう。
 ハリウヅド映画らしい筋立てだが、ユージンを演じるジョニー・デップの入魂の演技で、ストーリーは砕氷艦のように強引に進む。事実を超える強引さに違和感がないのは、水俣病の世界を伝えたいとするユージンとアイリーンの思いがよく伝わってくるからだ。

 映画が進むにつれ「虚実皮膜の間に真実がある」と感じさせられた。現実のドラマ化とドラマの現実化が、一体化している。
 熊本県水俣市の海岸部で猫が踊り上がり、幼女が脳症で入院して水俣病が公式に確認されていた。


 が、チッソはメチル水銀を水俣湾に排出し続け、政府が公害病と認定する一九六八年まで虚偽の学説で防衛し、事実を捏造(ねつぞう)していた。
 より多くもう儲けるためだけに。

 クライマックスは淡い光を浴びた浴槽で、母親が身体のよじれた娘を抱きかかえる、静謐(せいひつ)な愛に満ちた一枚を撮る瞬間。
 水俣世界の象徴である。
 エンドロールでチェルノブイリ、フクシマ、インド・ボパールの化学工場での毒ガス漏洩(ろうえい)事故など、地球の危機にむかう世界の公害のスチル写真が延々と流れる。
 人類は愚かにも、環境と生き物に危害を加え続けてきたのだ。

『東京新聞』(2021年10月12日【本音のコラム】)