◆ 性教育先進国の取り組み (東京新聞 Dr'sサロン)
伊藤加奈子 婦人科医
六月にこの欄で日本の性教育の現状を伝えたところ、「世界標準の包括的性教育とはどんなものか」との質問をいただきました。少し掘り下げてみたいと思います。
前回も触れましたが、性教育の国際的な指針としては、国連教育科学文化機関(ユネスコ)などがまとめた「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」があります。
人同士の関わり方、人権教育、ジェンダー、暴力と安全確保などに加え、性行動や性と生殖に関する知識を年齢や発達段階に応じ包括的に学ばせることが求められます。
具体的には、五~八歳にプライベートゾーンや精子と卵子が結合し妊娠することなどを、九~十二歳に妊娠のしくみやセクシャリティー、ジェンダー平等、性感染症や予期しない妊娠の予防を学びます。
性に関する基本的なことを中学生までに学びきることが目標で、欧州では生物や科学の授業に組み込まれるなどして、かなりの時間が割かれます。
日本はこうした体制が整っておらず、学習指導要領では中学生でも性交渉について触れていません。
心身を大事にし、自分の考えで人生を歩むため、性教育はいま一番大事なものなのにです。
今年から一部の学校で、性犯罪予防を主目的にした「生命(いのち)の安全教育」が始まりました。
包括的性教育には遠いですが、国も重い腰を上げたと前向きに考えたいです。
『東京新聞』(2021年8月24日【Dr'sサロン】)