=たんぽぽ舎です。【TMM:No4271】「メディア改革」連載第72回=
◆ 地獄絵図が待っている中で危機感ゼロの菅首相
浅野健一(アカデミックジャーナリスト)
◎ 日本政府は8月17日夕、「緊急事態宣言」の対象地域に茨城、栃木、群馬、静岡、京都、兵庫、福岡の7府県を加えることを、コロナ感染症対策本部で決定した。期限は8月20日から9月12日まで。
また、宮城、山梨など10県に「まん延防止等重点措置」を適用することも決まった。私が高校まで過ごした香川県に「まん延防止等重点措置」が適用された。
8月18日の東京都の感染者は5386人。過去2番目の多さで、水曜日としての最多を更新した。
私が住む千葉県は1692人で最多。全国では2万9955人だ。
菅義偉首相は8月17日午後9時から官邸で記者会見した。NHKの中継を見ることができなかったが、官邸HPと朝日新聞のHPにアップされている動画で視聴した。
https://www.kantei.go.jp/
官邸HPには会見の文字記録も載っている。
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0817kaiken.html
◎ 菅氏の官邸での会見は就任以来16回目。政府の分科会の尾身茂会長が質疑応答では、菅氏の隣に立った。
小野日子内閣広報官が会見開始を告げ、菅氏が冒頭発言を行った。プロンプターをうまく使えず、左右に視線が動き、落ち着かない。
「そした」「こした」「ここは」の連発。感情が入ると「必要ちゅことです」などと「ちゅ」が入るのは耳障りだ。
菅氏は冒頭発言の後、幹事社を含め記者11人の質問を受けたが、いつものようにボソボソと官僚が用意した台本を読むだけだった。
会見で、人民が知りたいことに答えるべきだが、政策の遅れの言い訳と、自分の成果を強調することに終始した。言葉が民衆の心に全く響かない。
菅氏は「デルタ株は、世界的にも予期せぬ感染拡大をもたらしている」と述べ、「医療体制の構築、感染防止、ワクチン接種という3つの柱からなる対策」を取ると表明した。「人流」を5割減らしてほしいと呼び掛けたが、具体策は何もない。
◆ 「外国もワクチンでしか収められていない」は事実か
◎ 今回も「ワクチン接種」を強調した。「高齢者の多くは、感染急拡大の中でも、重症化を防ぐことができている。死亡者数も大幅に低い水準に抑えられている」。ワクチン接種の回数をあげて、「目標をはるかに上回るペース」と自画自賛。これだから、民衆は危機感を持たない。
小野広報官が「これから御質問をいただきます。指名を受けた方は、スタンドマイクに進み、社名とお名前を明らかにした上で、御質問を」と述べて、内閣記者会の幹事社のフジテレビ・鹿嶋記者を指名した。小野氏は自分の名前を言ったことがない。
鹿嶋氏は「先月末の記者会見で、今回の宣言が最後になるような覚悟でと、また、この波をできるだけ早く収めることが一番の私の責任だと述べたが、宣言は拡大・延長され、感染拡大も続いている。こうした結果になったことに対する総理大臣としての責任を、率直に、今、どのように感じているか」と聞いた。
また、「総理は、ロックダウンについて、これまで日本ではなじまないと言ってきたが、緊急事態に対応する選択肢の一つとして、今後の法整備の可能性、必要性もないという認識か」と質問した。
菅氏は「これまで効果のある対策をピンポイントで行ってきた」「国民の命と安全を守り抜くという覚悟に変わりはない」などと答えた、ここで菅氏は「キンキュウセンゲンジタイ」と読み間違えた。
菅氏は「諸外国のロックダウンについて、感染対策の決め手とならず、結果的には各国ともワクチン接種を進めることで日常を取り戻してきている。この非常事態について、今後、感染症に対するための法整備も含めて幅広く検討しなければならない」と答えた。外国のことを繰り返し持ち出す意味が分からない。法整備をするなら、国会をすぐに開くべきだ。
◎ 続いて、幹事社の産経新聞の杉本記者が指名され、解散総選挙について聞いた。
菅氏は「選択肢は少なくなってきているが、その中で行わなければならない。いずれにしろ、感染拡大を最優先にしながらそこについては考えていきたい」と答えた。「感染拡大の阻止を最優先」と言うべきではないか。
小野氏は「幹事社以外の方から御質問をお受けしたい」と述べ、テレビ東京、篠原記者が指名された。
篠原氏は「病床の不足は去年から言われていた課題だったが、なぜこの問題がいまだに解決できていないのか」とズバリ聞いた。
菅氏は「今、国、地方自治体と連携しながら新たな病床の確保に取り組んでいる」などと回答した。
TBSは17日夜の「NEWS23」で、「自治体」を「自衛隊」と間違って字幕を出し、その後、訂正した。発音が悪いので、私にもジエイタイと聞こえた。スーパーを出す人も大変だ。
◎ 日刊ゲンダイDIGITALによると、菅氏はウォール・ストリート・ジャーナルのランダース記者のアフガン情勢に関する質問に、「タリバンの首都カブール」「カニ政権は機能しなくなり…今後の情熱は、依然として不透明である」と答えた。言い間違えが多すぎる。
小野氏に指名されたドワンゴの七尾記者は「連日お疲れさまです」と言って質問を始めた。七尾氏は前政権の時から頻繁に指名されるが、いつも首相に「お疲れさまです」と言うが、行政のトップに慰労の言葉はいらない。
◆ 「原稿棒読み」を質した中国新聞記者に続け
◎ この後、小野氏は「あと2問」と告げて、中国新聞の下久保記者を指名した。下久保氏は災害避難所のコロナ対策について聞いた後、「緊急時は、総理の分かりやすいメッセージが求められるが、総理の今回の会見もそうだが、原稿の棒読みというところが、これまでも指摘されている。先日、広島・原爆の日の式典での挨拶の読み飛ばしもあったが、どのように政治のメッセージを伝えていくか」と聞いた。
菅氏は「必要な情報というものを適時、的確に、そして丁寧に分かりやすく発信することが大事だ」「避難所でのコロナ感染はない」などと答えたが、「原稿の棒読み」「政治のメッセージ」については全く答えなかった。
小野氏は「それでは、毎日放送の三澤さん、どうぞ。こちらで最後とします」と述べ、三澤記者がカクテル療法について聞いた。
多数の記者が質問を求めたが、小野氏は「挙手をいただいた方は、後ほど1問メールでお送りください。以上をもちまして、本日の記者会見を終了します」と述べて会見を強制終了させた。会見は63分だった。
◆ 小野広報官に隷従する内閣記者会は解散を
◎ 8月17日の会見も小野氏の独裁・専制的な司会進行で終わった。
菅氏は会見の後、宿舎に直帰している。医療専門家が「災害だ」「地獄図が待っている」と言う非常事態時の会見は、納得できる回答があるまで閉じてはいけない。
官邸での首相と官房長官の記者会見は、「内閣記者会の主催」と明記されている。小野広報官だけが、会見を仕切るのは違法だ。
私は16日夜、フェイスブックで、記者会メンバーに決起を促したが、何の効果もなかった。小野氏に反撃できない「記者会」は解散すべきだ。
https://www.facebook.com/profile.php?id=100022241222173
記者会見では、「五輪強行開催と感染拡大」「パラリンピックは開いていいのか」の質問は全く出なかった。
この国では、一番大事なことが議論されず、報道されない。