『ヒロシマというとき』

 

  ヒロシマ というとき

 

  ああ ヒロシマ とやさしくこたえてくれるだろうか

 

  ヒロシマといえば  パール・ハーバー

 

 

  ヒロシマ といえば 南京虐殺

 

 

  ヒロシマ といえば  女や子供を壕のなかにとじこめ

 

 

  ガソリンをかけて焼いたマニラの火刑

 

 

 ヒロシマ といえば

 

 

  血と炎のこだまが 返って来るのだ

 

 

 ヒロシマ といえば

 

 

 ああ ヒロシマ  とやさしくは 返ってこない

 

 

  アジアの国々の死者たちや無告の民が

 

 

  いっせいに犯されたものの怒りを 噴き出すのだ

 

 

  ヒロシマ といえば

 

 

  ああヒロシマ と

 

 

  やさしくかえってくるためには

 

 

  捨てたはずの武器を 

 

 

  ほんとうに 捨てねばならない

 

 

  異国の基地を 撤去せねばならない

 

 

  その日まで ヒロシマは

 

 

  残酷と不信の にがい都市だ

 

 

  私たちは 潜在する放射能に 灼かれるパリアだ

 

 

  ヒロシマ といえば

 

 

  ああヒロシマ と

 

 

  やさしいこたえが かえって来るためには

 

 

  わたしたちは

 

 

  わたしたちの汚れた手を

 

 

  きよめねばならない

 

 

 (『ヒロシマというとき』一九七六年三月)