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6/15(火) 11:31配信 デイリー新潮

 

平井大臣の「死んでもNECに発注しない」発言 裏にはIT利権を巡るどす黒い駆け引き


朝日新聞が公開した平井大臣の“恫喝”発言(『朝日新聞DIGITAL』YouTubeより)

「NECには死んでも発注しない」「ぐちぐち言ったら完全に干す」――。平井卓也デジタル改革担当大臣の会議での“恫喝”発言を、6月11日の朝日新聞朝刊が「スクープ」した。大手新聞デスクによると、

「NECを“恫喝”していると批判された発言は、内閣官房IT総合戦略室のオンライン会議上でのことです。内輪の会議ということもあってか、平井さんらしいモノの言い方でダイレクトにNECを批判していました。文春砲ならいざ知らず、朝日はご丁寧にも入手した会議の音声データまで公開したので、平井さんはすぐさま発言の事実を認めざるを得ず、釈明に追われたのです」

 同日の記者会見で平井大臣は、「(発言相手のIT室幹部は)10年来、私が一緒に仕事をしてきた仲間でございますので、非常にラフな表現になったなとは思います。表現はやはり不適当だなと思いますが、今後気をつけていきたいと思います」と、平身低頭していた。

発注の事実を知らなかった
 発言の内容はどのようなものだったのか。公開された音声データを聞いてみよう。

「デジタル庁はNECには死んでも発注しないんで。場合によっちゃ出入り禁止にしなきゃな。このオリンピック(アプリ)であまりぐちぐち言ったら完全干すからね。一発遠藤のおっちゃんあたりを脅しておいた方がいいよ。どっかさ、象徴的に干すところを作らないとなめられちゃうからね。運が悪かったってことになるね。やるよ本気で、やる時は。払わないよNECには基本的には」

 ちなみに、「遠藤のおっちゃん」というのは、遠藤信博NEC会長のことである。IT総合戦略室の関係者が解説する。

「9月1日に創設される『デジタル庁』が発注しないと語るあたり、平井さんはすっかり『デジタル大臣』気取りなんだなと思いました。それはご愛嬌としても、東京オリンピック・パラリンピック用に開発が進んでいた、いわゆる『オリパラアプリ』に73億円もの予算を付けたことに、平井さんは怒っていたのです」

 国会では、1月に政府が契約した「オリパラアプリ」が高過ぎるのではないかと、野党から厳しく追及されていた。前出の関係者が続ける。

「平井さんは担当大臣なのに、実は質問されるまで発注の事実をまったく知らなかったんです。首相補佐官の和泉洋人さんがIT室の一部のメンバーと、業者選定や金額の割り振りまで決めていました。しかも、観戦客を含めて海外から来る120万人が使用するという触れ込みだったのに、海外からの観戦客はゼロになりましたから、アプリは無用の長物と化していたのです」

 4月になって73億円の予算を38億円に減額したと公表したが、それにNECが抵抗したという。NECが担当した顔認証アプリの開発はすでに終わっていたにもかかわらず、後から値切られる格好になったため、「ぐちぐち不満を言った」ようだ。

オリンピック後は別アプリへ移行
 だが、「平井大臣の発言には、もっと他に意味がある」と語るのは、IT業界に詳しいジャーナリストだ。

「オリパラアプリの受注はNTTコミュニケーションズ(NTTコム)やNECなど5社のコンソーシアムで、NECの取り分はわずか4億9500万円。NTTコムの45億7600万円と比べると微々たるものです。それなのになぜNECを“恫喝”したのか。実は38億円への減額は形ばかりで、オリンピック後はその冠を外し、出入国管理に使う別のアプリとして継続することにしたのです。オリパラアプリの契約期限は来年1月までですが、来年以降も継続してカネが落ちるようにしてやった。それなのにNECはぐちぐち言うのか、というのが、平井さんの本音なのではないでしょうか」

 デジタル庁になったら発注しないぞ、という発言の意味はそこにある、というのだ。とすると、早くもデジタル大臣はIT利権の分配役としておいしいポストだということを意味する。前出のIT室の関係者は言う。

「むしろNTTコムの方が問題です。再委託先に仕事の大半を投げていて、その金額は13億円あまり。そのほか、プロジェクトの管理だけで、別途10億円の予算を付けています。“管理”とは名ばかりで、幹部連中が集って、進行状況を会議で話しているだけなのですが……。それで満足したのか、NTTコムの方は減額要求にはすぐに応じたと聞いています」

 物分かりが良いNTTコムに比べて、ということでもあるらしい。大手紙の厚生労働省担当記者は、NECに怒った理由が他にもあるという。

「NECは厚労省が2020年7月に発注したワクチン接種円滑化システム、いわゆるV-SYS(ヴイシス)を随意契約の20億5876万円で受注しています。ところが、そのV-SYSの出来が悪く、ワクチン配布が大混乱しました。平井大臣の“恫喝”発言があった会議は、4月上旬に開かれました。まさにV-SYSがトラブルで止まったのとほぼ同時期のことです。オリパラアプリで文句を言える立場なのか、と平井大臣は言いたかったのではないでしょうか」

 図らずも外に漏れた平井大臣の「率直な発言」の裏には、どうやら業界の深い事情があったようだ。

デイリー新潮取材班

2021年6月15日 掲載

https://news.yahoo.co.jp/articles/e5e197fc1c3da364e7b829e0c93e29b4b16cd983

 

 

 

■ 2021年5月28日掲載

 

巨額の予算と利権の巣窟に不安…9月発足の「デジタル庁」に群がる“ITゼネコン”



情報システム関係予算が一元化


「デジタル庁設置法」や「デジタル社会形成基本法」など63にのぼる「デジタル改革関連法」が5月12日、参議院本会議で可決成立し、「デジタル庁」が9月の創設に向けて本格的に動き出した。しかし、デジタル庁が霞が関のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の司令塔になり、菅義偉首相が言うように「役所のたて割り打破」につながるのかというと、どうも心許ない。


「これまで省庁ごとにバラバラだった情報システム関係予算が、デジタル庁に一元化されることになっており、巨大な利権官庁が生まれます。法案が通ったことで、利権を手放したくない各省庁の抵抗が始まるでしょう」

 そう語るのは、内閣官房の情報通信技術総合戦略室、通称IT室の関係者だ。

「2019年度のIT関係予算は7000億円でした。それに対し、2020年度の補正予算と2021年度の予算を合わせた“15ヵ月”予算では、新型コロナウイルス対策や東京オリンピック・パラリンピック関連で巨額のIT投資に踏み出したことから、1.7兆円近くに膨れ上がったと、報じられています。さらに、新型コロナ対策として公共事業や雇用対策に内閣の判断で使える『経済緊急対応予備費』が1兆円も計上されました。新型コロナを理由に予算の大盤振る舞いが起きているのです。なかでも、IT投資は説明が付きやすいので、どんどん膨らむ傾向にあります」

120人の専門家が民間から


 当然、潤沢な予算を狙って争奪戦が始まろうとしているのだが、その前にデジタル庁の概要を見ておこう。

 デジタル庁は内閣直属の組織で、トップは首相が務める。もちろん首相が細かい運用にまで目を光らせるのは難しいため、業務を統括する担当閣僚の「デジタル大臣(仮称)」を置き、事務方トップには、事務次官級の「デジタル監」を設置することになっている。職員は500人規模で、このうち約120人は民間からシステムエンジニアなどのIT専門家を採用するという。内閣府の幹部官僚が説明する。

「最近になって新設された官庁には、消費者庁や復興庁がありますが、職員はいずれも主に霞が関の他省庁から寄せ集められた。今回のデジタル庁は早い段階から民間人を主要ポストに据える方針が出され、これまでの霞が関官庁とは違った組織になります」

 もともと霞が関にはITの専門知識を持った官僚はほとんどいない。実際のところ、民間から採用せざるを得ない。それでも局長部長や課長などラインポストが減っているなかで、「いかに自分の役所の指定席を取るかが、事務次官らの仕事になっている」(前出幹部官僚)。

 以前から、中央官庁に民間の専門家を登用すべきだ、という声はある。実際、公募による局長級ポストも生まれているが、任期を区切ったものが大半で、採用されてもいつまで経っても「お客さん扱い」されるばかりだ。入った民間人もそれが分かっているから、本気で改革しようとしない。「デジタル庁にはまとまった数の民間人が入るので、それでもカルチャーは変わると思う」と、幹部官僚は見る。


ほとんどが「ひも付き」


 だが、問題はデジタル庁に入る「民間人」だ。すでに非常勤の国家公務員として採用が始まっているが、今、手を上げているほとんどは「ひも付き」、つまり、NTTやNEC、富士通、日立製作所といった「ITゼネコン」と呼ばれる大手IT事業者や、その発注先のITシステム会社の社員だと言われている。事実、すでに採用されている非常勤職員には、転職するのではなく、システム会社に籍を置いたままになっている人たちがいる。

「うちの会社も送り込んでいますが、どこのシステム会社も同様です」

 と大手ITゼネコンの取締役は語る。

「もともと政府の仕事をたくさん請け負っていますが、デジタル庁になって発注スタイルがどう変わるのか、どこも注視しています」(同)

 巨額のIT予算の配分にデジタル庁はどう対応するのか、下手をすればITゼネコン外しが起きる可能性もある、と恐れているというのだ。

 現状、政府調達の一般競争入札では、業務を委託する場合、企業の「信用度」なども重視される。そのため、「資本金の額や従業員数、過去の実績の評価点を得るのは大手で、ITシステム会社に多いベンチャー企業などは参入の余地がほとんどない」(中堅IT会社の経営者)。

「しかし、優秀な技術者を抱えているのは中小のシステム会社が多いため、大手は自社が受注したものを下請けに出すのが一般的。中小の2次、3次下請けは当たり前です」(同)

 大手がITゼネコンと呼ばれるゆえんだ。

「大手の技術者はサラリーマンで、政府から仕事を取ってくるだけ。実際に作るのは下請けの個人事業主のような技術者です。大手に実際にシステムを組める人材はほとんどいません」

 と、ベンチャーIT会社の創業者は嘆く。昨年来、政府発注アプリなどで次々に不具合が発覚しているが、その修正がまともにできないのは、大手に人材がいないからだ。

“親元”への利益誘導は?
 そんな大手企業の「IT専門家」ばかりが入り込んだデジタル庁は大丈夫なのか。“本籍地”への利益誘導まがいのことが起きはしないか。

 霞が関OBはこう危惧する。


「公務員制度改革を本気で行い、民間と役所を行ったりきたりする人材の評価制度を改善すべきです。わずか数年で出身会社に戻ることを許せば、採用された省庁で出身会社へ利益を誘導することになりかねない。役所ではしばしば、前の役所に戻さないノーリターン・ルールなどを導入して専門家を育てます。民間人をノーリターンにしろとは言いませんが、10年間は出身会社に戻らせず、役所で雇用保障するなど、国の利益を第一に考える人材を集める仕組みが不可欠です

「既得権」を守ることに必死な霞が関官僚は、そもそも「公務員制度改革」に反対、民間出身者も霞が関に骨を埋める覚悟はない。「利権官庁」となることが予見されるデジタル庁で、予算やポストを巡って激しい争奪戦が繰り広げられるのは必至だろう。