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国のワクチン接種目標 「一方的な明言やめて」 自治体側の本音


6/7(月) 15:45配信毎日新聞


 国が掲げる高齢者向け新型コロナウイルスワクチン接種の「7月末完了」を巡り、神奈川県では県民や自治体から困惑の声が相次いでいる。国の調査に対し、県内の全市町村が目標を達成可能と回答した一方で、8月の接種を予約した県民からは「どうなっているのか」などの声があがり、自治体からも「完了時期を一方的に明言するのはやめて」と本音が漏れる。一体何が起きているのか。

 

【樋口淳也、中村紬葵】

 高齢者向けの接種は、福祉施設などでの施設接種▽公民館などでの集団接種▽医療機関での個別接種――に分かれ、県内では4月から本格化した。一般向けの集団接種と個別接種は多くの自治体で5月から始まり、それぞれが当初は夏から秋ごろの完了を見通していた。

 ところが、4月末に菅義偉首相(衆院神奈川2区)が「7月末完了」を掲げると、各自治体は接種の前倒しを迫られることになった。

 さらに黒岩祐治知事の発言が物議を醸す。5月12日の県内自治体の首長らとの会議で「菅(義偉)総理、ワクチン担当大臣を輩出している神奈川県としては絶対の使命だ。7月末までに実現しなければならない」と断言。いずれも県内選出の菅氏と河野太郎行政改革担当相(同15区)の存在を挙げ、自治体の尻をたたいた。

 各自治体は接種の加速に懸命だ。例えば、97万人の高齢者を抱え、菅氏の地元でもある横浜市は「8月末までに8割」としていた当初の計画を変更。6月6日には横浜港・新港ふ頭の「横浜ハンマーヘッド」を会場とする大規模接種が始まった。1日3000人以上の接種を予定している。林文子市長は「この史上最大のプロジェクトを、市の総力を挙げて必ず成功させる」と宣言した。

 国の調査に対して7月末に完了できると回答する自治体は日に日に増えた。5月末には、県の支援を求める条件付きの自治体も含め、33市町村全てが達成可能と国に報告している。ところが、現場ではこうした回答とは裏腹に「8月以降の予約」などが存在し、混乱が生じている。

 河野氏の選挙区に含まれる茅ケ崎市では、8月の集団接種枠3276回分の予約を既に受け付けていた。同市の高齢男性は「政府が7月末完了と言っているのに、自分の予約は8月だ。どういうことか」といぶかる。

 ◇「一方的な時期明言やめて」

 約6万8000人の高齢者がいる市は、多くが個別接種で済ませると想定し、集団接種は1割程度の利用を見込んで6~8月の予約を受け付けていた。しかし、国の方針を受けて急きょ集団接種の枠を拡大。8月に予約した人に個別に連絡し、7月中の接種に振り替えてもらうように要請することになった。

 こうしたケースはほかにもあると見られ、8月以降の予約を続けている自治体もある。県西部の町の70代女性は「菅さんは足元が見えているのか。何か簡単に考えているのではないか」と、7月末完了を前提とする政府のやり方に疑問を呈す。

 次々と対応を迫られる自治体側からは悲鳴が上がる。5月20日に明らかになったあるアンケートは、関係者の間で波紋を広げた。「自治体担当者の声」をまとめたものだ。

 「7月末までの完了は困難」「突然の指示は調整がやり直しとなり、現場は大変」「完了時期を一方的に明言されることはやめていただきたい」――。アンケートには担当者の切実な声が並んだ。

 まとめたのは、他ならぬ自民党県連。7月末完了のために何が必要かを同党の地方議員が聞き取ったところ、皮肉な結果が出た。

 県は市町村に対して職員を派遣するなどして支援を強化する考えだ。菅氏の「鶴の一声」に振り回される自治体。「7月末」は刻一刻と迫る。