「従軍慰安婦」という用語について

 

2021 年 5 月 10 日 アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam

 

日本政府は 2021 年 4 月 27 日、馬場伸幸衆議院議員が提出した「『従軍慰安婦』等の表現に関する質問主意書」への答弁書(内閣衆質二〇四第九七号)において、「いわゆる従軍慰安婦ではなく、単に『慰安婦』という用語を用いることが適切」との見解を発表しました。 これについて、「従軍慰安婦」という用語がどのように使われてきたのかを示すとともに、当館の見解をまとめました。

 

1.公的文書における用語

 

1-1 旧日本軍の文書における用語

 

旧日本軍が設置した慰安所等に連れていかれた女性たちを指す用語は、旧日本軍および政府の文書では「慰安婦」が一般的です。それ以外にも、「特殊慰安婦」、「軍慰安所酌婦」、「業婦」、「慰安土人」、「特要員」、「売淫婦」などの例があります。

 

1-2 政府が発表した見解における用語 「慰安婦」に言及している以下の政府見解においては、「慰安婦」に関連する諸課題を指す場合は「いわゆる従軍慰安婦問題」との用語を、被害を受けた女性を指す場合には「慰安婦」との用語を使用していたことがわかります。

 

年月日   タイトル    使われた用語

 

1992.7.6  朝鮮半島出身者のいわゆる従軍慰安婦問題に関する加藤 紘一内閣官房長官発表  「いわゆる従軍慰安婦問題」、 「慰安婦」

1993.8.4  慰安婦関係調査結果発表に関する河野洋平内閣官房長官 談話  「いわゆる従軍慰安婦問題」、 「慰安婦」

1994.8.31  村山富市内閣総理大臣の談話  「いわゆる従軍慰安婦問題」

 

なお、村山富市内閣総理大臣談話(1995 年 8 月 15 日)、小泉純一郎内閣総理大臣談話(2005 年 8月15 日)、菅直人総理大臣談話(2010 年 8 月 11 日)、安倍晋三内閣総理大臣談話(2015 年 8 月14日)には、「慰安婦」に関する言及はありません。

 

1-3 国会議事録および首相答弁における用語

 

戦後の国会議事録で「慰安婦」という用語が最初に登場するのは、1948 年 11 月 27 日(第 3 回国会衆議院法務委員会)で、陳情の内容紹介として「軍の慰安婦として働きおり引揚げたる者」との記述があります。その後も「慰安婦」という用語は散見されますが、「従軍慰安婦」という言葉が登場するのは 1990 年5 月30 日(第 118 回国会参議院予算委員会、竹村泰子発言)で、その後は政府答弁でも「従軍慰安婦」が使われるようになります。

 

政府見解を示す代表的なものとして首相による国会答弁があります。1991 年 8 月 27 日の海部俊樹首相以降、歴代政権で「従軍慰安婦」、「いわゆる従軍慰安婦」、「慰安婦」、「いわゆる慰安婦」、「元慰安婦」、「元従軍慰安婦」等の用語が使われており、用語の使用における規則性は見出せません。なお、菅義偉首相は、官房長官時代に「慰安婦問題」、「元慰安婦」、「従軍慰安婦の皆さん」等の用語で答弁していますが、首相になってからは、これらの用語を用いた国会答弁はしていません。

 

2. 書籍、新聞、支援団体等における表記について

 

2-1 書籍における用語 「従軍慰安婦」という言葉は、1973 年に出版された『従軍慰安婦―“声なき女”八万人の告発』(千田夏光著、双葉社)の影響が大きかったからか、その後は広く使われるようになりました。国立国会図書館サーチで「従軍慰安婦」を検索しても、これより前に「従軍慰安婦」というタイトルを使った書籍は出てきません。なお、今回の政府答弁書が言及する吉田清治氏の著作物の書名は『朝鮮人慰安婦と日本人―元下関労報動員部長の手記』(新人物往来社、1977 年)であり、「従軍慰安婦」という言葉は使っていません。1990年代は「従軍慰安婦」の用語を使った書籍が多く出版されましたが、2000 年代後半以降は「従軍慰安婦」の用語は減少し、日本軍「慰安婦」、「慰安婦」等が多く使われるようになりました。

なお、1997 年度から使用された中学校の歴史教科書は、5 社が「慰安婦」、2 社が「従軍慰安婦」の用語で記述しています。

 

2-2 新聞における用語 日本国内で最も発行部数が多いとされている読売新聞の「慰安婦」報道について、当館では 2014 年に検証作業を実施しました。対象期間は 1980 年代から 2007 年までとしましたが、その間に使われた用語は「従軍慰安婦」が多数であるものの、「慰安婦」も併用され、首相答弁と同様、その使い分けに規則性は見出せません。

 

2-3 支援団体における用語 当初は「従軍慰安婦」という用語が使われていましたが、「従軍」という言葉には自発的というニュアンスが含まれているとの批判があり、1990 年代半ば頃からは「日本軍『慰安婦』」という言葉が使われるようになりました。「慰安婦」と略記されることも多々ありますが、女性にとって「慰安」とはほど遠い性奴隷状態だったことから、「慰安婦」はカッコに入れて表記されています。国連人権機関や英語圏の新聞等においては、「慰安婦」(comfort women)との用語が使われますが、この言葉だけでは何を意味するのかわからないため、「日本軍性奴隷制」(Japanese military sexual slavery)等、加害の主体や被害実態を表す説明が付されています。

当館においては、制度を指す場合には「日本軍性奴隷制」または「日本軍『慰安婦』制度」、被害を受けた女性たちを指す場合には、それらの制度の被害者/被害女性/サバイバー等の用語を用いており、「従軍慰安婦」という用語は固有名詞の引用以外では使っていません。

 

3.当館の見解

 

今般の政府答弁書では、吉田清治氏の証言および大手新聞社の報道をとりあげて、「このような経緯を踏まえて、従軍慰安婦という言葉を用いることは誤解を招く恐れがある」と書かれていますが、「従軍慰安婦」という用語は、政府の見解を示す国会答弁等で長年にわたって繰り返し使用されたため、テレビや新聞等のマスコミをつうじて広く日本社会に浸透した用語でした。一つの新聞社にすべての責任を帰す主張は牽強付会と言わざるを得ません。

 

日本政府が今になって、日本軍によって性奴隷化された女性たちを指す用語を「従軍慰安婦」から「慰安婦」に変更しても、日本軍の管理のもとで強制的な状況に置かれて性行為を強いられた被害実態は変わることはありません。「慰安婦」という用語自体は、旧日本軍の文書で最も多く使われた歴史的な用語であり、近年の研究成果にも符合しているといえます。とはいえ、加害国として歴史の事実に真摯に向き合うためにも、日本政府や報道機関等に対しては、「慰安婦」にはカッコをつけること、加害の主体と被害事実を正確に伝えるために「日本軍『慰安婦』」あるいは「日本軍性奴隷制」という用語を用いることを求めます。

 

なお、2021 年 5 月 10 日、衆議院予算委員会で萩生田光一文部科学大臣が、今年度から使用される教科書に関する質問に答えて、「従軍慰安婦や強制連行などの用語が記載された教科書を発行している教科書会社において、閣議決定された政府の統一的見解をふまえて、どのように検定済みの教科書の記述を訂正するのかを検討することになります。そうした教科書会社の対応状況をふまえたうえで文部科学省として……適切に対応して参りたい」との答弁がありました(下線は引用者)。すでに検定を通過した教科書に対して、新たに閣議決定を発出してまで記述の「訂正」を迫る政府の態度は、常軌を逸しています。

 

そもそも、2014 年 1 月に改定された教科用図書の検定基準に、「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解または最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」と追加したこと自体、子どもの学習権等を侵害し、憲法 26 条に違反するおそれが指摘されています。子どもたちの自由な学習の機会を奪う危険性の高い検定基準こそ、直ちに見直されるべきものです。

 

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[google翻訳]

Japanese Military “Comfort Women”・・・・日本軍の「慰安婦」

Comfort Women・・・・慰安婦・・・・a woman or girl who was forced to engage in sexual activity with Japanese soldiers as part of a system of brothels operated by the Imperial Japanese Army in its occupied territories between 1937 and 1945. [ 1937年から1945年の間に日本帝国陸軍が占領地で運営していた売春宿のシステムの一部として日本兵との性的活動に従事することを余儀なくされた女性または少女。]