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〈社説〉首相の改憲発言 コロナの不安に乗じるな

 コロナ禍に乗じて改憲論議を進めるつもりなのか。

 

 菅義偉首相が憲法記念日の3日に改憲派が開いた会合にビデオメッセージを寄せ、改憲に取り組む考えを明言した。

 

 「時代にそぐわない部分、不足している部分は改正していくべきだ」と強調。具体例として緊急事態の対応を挙げ、新型コロナウイルスの感染拡大に触れている。

 菅首相は「緊急時に国家や国民がどのような役割を果たし、国難を乗り越えていくべきか、憲法にどのように位置付けるかは極めて重く大切な課題」と述べた。

 

 緊急事態条項は、災害や武力攻撃の際、政府の権限を一時的に強化して特別措置を講じる規定だ。

 感染拡大を防げなかったのは、検査不足や医療態勢の整備の遅れなどが主因だ。国民に宴会などの自粛を求めながら、政治家や公務員が大人数の外食をしたことも次々に判明した。緊急時に的確に対応できなかった政権の問題を、憲法規定の不備にすり替えている。

 

 象徴的なのが自民党の下村博文政調会長の発言だ。

3日の改憲派の会合で「コロナのピンチを逆にチャンスに変えるべきだ」と発言した。国民に広がる不安を改憲に利用する姿勢は看過できない。

 

 いま取り組むべきことは、国民の生命と健康を最優先に感染拡大を防ぐことだ

 

 自民党が改憲4項目に掲げる緊急事態条項は、緊急時に内閣が法律と同じ効力を持つ政令を、国会の承認なしで緊急に制定できるとしている。

憲法原則を逸脱し、政府に強大な権限を与える。

かつて全体主義の台頭を招いたことを忘れてはならない。

 

 まず必要なのは、コロナ禍が収束した後に、落ち着いた環境で政府の対策を詳細に検証することだ。

 

その上で改憲論議をする必要性があるのかを含め、多角的に検討していくべきではないか。

 

 与党は改憲手続きに関する国民投票法改正案の審議でも、6日の衆院憲法審査会で採決をする姿勢をみせている。改憲論議の進展につなげる狙いが明白だ。

 

 改正案には根本的な欠陥がある。テレビやネット広告の規制がなく、運動の資金量が国民の投票動向を左右する懸念がある。

 

 立憲民主党はCM規制について「施行後3年をめどに法制上の措置を講じる」ことを付則に加えるよう要求している。それで対応が十分に担保されるのか疑問だ。

 

 コロナ禍が深刻化する中で、国会が優先して議論する問題ではない。採決を先送りするべきだ。