◆ 憂慮されるワクチン大規模接種
安全性よりも実用化に走る (週刊新社会)
天笠啓祐(市民バイオテクノロジー情報室代表)
◆ 遺伝子操作で抗体つくる
新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、ワクチン待望論が地球規模で広がり、接種が各国で競うように進められている。
日本を含めて各国政府が、ワクチン確保に奔走し、その開発の段階から、本来、順を追って進めるべき基礎実験、動物実験、臨床試験を同時並行で行うことを容認するなど、安全性よりも実用化を優先してきた。
しかも、今回実用化されている新型コロナワクチンは、従来のワクチンとはまったく異なり、これまで人々が接種した経験がないものである。
ワクチンは、抗原(異物、ウイルスあるいはウィルスの一部)が体内に侵入した際に抗体(抵抗力)をもたらす「抗原抗体反応」を基本にしている。
旧来の生ワクチン、不活化ワクチンなどは、いずれも抗原そのものを作り、接種してきた。
今回のワクチンは、遺伝子を筋肉注射で体内に入れ、人間の細胞の中で抗原を作らせ、抗体を誘発させるという、これまでなかった仕組みを利用したものである。これは人間の細胞で行う遺伝子操作である。
このような医療行為は、従来、厳しい規制下で行われる遺伝子治療しかなく、しかも重篤な病気しか行ってはいけないとされてきた。
日本政府が購入を契約した3社のうち、米国ファイザー社、モデルナ社のワクチンはmRNA(メッセンジヤーRNA)ワクチンで、これは遺伝物質のRNAを脂質に包んだものを注入する。
英国アストラゼネカ社のそれはウイルスベクター・ワクチンで、遺伝子のDNAをウイルスに組み込んで感染させる。そのウイルスには、チンパンジー・アデノウイルスが用いられている。それらの遺伝物質が人間の細胞内で抗原を作るのである。
この新型遺伝子ワクチンは、有効性も安全性も十分に確認されないまま、いきなり接種が始まった。
そのため効果があるのか、効果が長続きするのか、深刻な副反応が起きるのか、基本的に接種後に結論が出ることになる。これは明らかに人体実験であり、人権侵害に当たる。
◆ 巨大多国籍企業の利益の源泉
これまでワクチンの開発や製造は、専門性の高いワクチンメーカーが行ってきたが、それが大きく変わりつつある。
今回のワクチンは、ビオンテック社などのバイテクベンチャー企業が研究・開発し、ファイザーなどの巨大多国籍企業が製造販売している。
このバイテクベンチャーと多国籍製薬企業が組んで開発から販売までを行うパターンが増えている。
ワクチンが利益の源泉になるところに目を付けたのが、巨大多国籍企業であり、今回のケースをきっかけに、インフルエンザなど他のワクチンの開発や製造の方法、かかわる企業も大きく変わることになりそうである。
これから日本でも広くワクチン接種が進み、有効性や安全性が確認されていくことになる。しかし、いまだに新型コロナウイルスの実像は分かっておらず、感染者でも急速に免疫反応が衰えるなどの問題が指摘されている。
加えて、ワクチン自体、人間の複雑な免疫システムに介入するため、このような強引な人体実験が、アレルギーや過敏症、自己免疫疾患など重大な副反応をもたらす危険性がある。
今回の新型コロナウイルスの特徴である変化の起きやすさが、新たな変異株を次々にもたらしているが、ワクチン接種が新たな変異株を作り出し、さらにワクチンが必要になる、屋上屋を重ねるワクチン潰け社会がやってくる可能性もあり得る状況になってきた。
◆ 感染症対策の基本に戻れ
大事なのは、まず新型コロナウイルスのような新興感染症が起き難い社会をつくることであり、それは環境を大事にする社会に他ならない。
また感染症が襲ってきても、それに対応できる社会を作っていくことである。
政府が進めてきた感染拡大対策は、インフルエンザ特措法改正など罰則強化と管理社会化であり、加えてワクチンで対抗しようとしている。
これは矛盾の拡大をもたらす可能性がある。
さらにはワクチンがウイルスの生き残り戦略を刺激し、さらに新たな変異株を誕生させ、人間に襲い掛かってくる危険性も増幅させる。
感染症対策の基本は、公衆衛生を担う保健所を充実させ、免疫力低下を招く除菌・抗菌、ウイルス敵対社会を止め、子どもたちが自然の中で元気よく育つ社会をつくることである。
加えて、感染症で最も影響を受ける高齢者の対策である。
また、基礎疾患を持っている人、栄養失調など体が弱っている人たちを減らしていくことである。
現政権の政策は、貧困層を増やし、日々まともに食べられない人、住むところもない人を増やしており、感染症で影響を受けやすい人々を増やしている。
本末転倒といえる。
※筆者:あまがさ・けいすけ
1947年生まれ、ジャーナリスト。環境問題を専門とするフリージャーナリスト。市民バイオテクノロジー情報室代表。日本消費者連盟顧問。早稲田大学理工学部卒業。
『週刊新社会』(2021年4月20日)