=たんぽぽ舎です。【TMM:No4146】「メディア改革」連載第56回=
◆ 総務省接待は菅首相が“主犯”の贈収賄被疑事件に
浅野健一(アカデミックジャーナリスト)
◎ 菅義偉首相の長男、菅正剛(せいごう)氏(元総務相秘書官)らによる総務省幹部接待事件は、5日の参院予算委で、東北新社による外資規制違反、菅首相に2009年8月に100万円の献金があったことなどが新たに判明し、大疑獄事件になってきた。
また、「週刊文春」3月11日号(3月4日発売)は、山田真貴子内閣広報官(3月1日辞任)と谷脇康彦総務審議官がNTTからも高額接待を受けていたと報道した。武田良太総務省は8日午前、谷脇氏を大臣官房付に更迭を行ったと発表した。
武田氏は記者団に「他に倫理違反はないと主張しており、はなはだ遺憾だ」と述べた。
2人は国会で「通信事業会社などとの倫理規定違反の会食はない」と繰り返し虚偽答弁していた。ブログ「浅野健一のメディア批評」に<山田広報官・衆院予算委での参考人質疑(2021年2月25日)の記録>を掲載している。
加藤博信官房長官は山田氏について、「既に民間人となっており、総務省は調査できない」と述べた。山田氏は総務審議官の時に接待を受けており、総務省が調査し、処分するのは当然だろう。
文春の調査報道で、違法接待は「東北新社」(東京都港区、二宮清隆社長=2月26日辞任)の関係するBS放送の「囲碁・将棋チャンネル」「スターチャンネル」の総務省の認可・更新時期と重なっている、事件は衛星放送事業を巡る贈収賄事件に発展することになった。
◎ 菅首相は3日の参院予算委で、東北新社は総務省の利害関係者だと認識していたと答弁した。菅氏は衆院予算委で、正剛氏が2008年に同社へ入社した際、「総務省とは距離をもって付き合うように」と注意したと述べている。
同社の統括部長で子会社「囲碁将棋チャンネル」の取締役にまで昇進した正剛氏(2月26日に人事部付きに異動)がこの警告を無視して、父親の“天領”とされる総務省に接待攻勢をかけてきたのだ。事件の主犯は菅首相だ。
総務省は新たな検証委員会を立ち上げて調査するとしているが、総務省が選ぶ弁護士らが入っても、公正な調査ができるとは思えない。違法行為は警察・検察が捜査をするしかない。身内による調査は、事件のもみ消しをはかるだけだ。
◆ 「市民の会」46人が3日に東京地検に告発状提出
◎ 私は3日、「税金私物化を許さない市民の会」の仲間46人で、菅首相が東北新社側から献金を受け取ったのはあっせん収賄容疑に当たるとして、東京地検特捜部に告発状を提出した。
また、東北新社による接待問題に関する収賄容疑で総務省幹部ら5人、贈賄容疑で首相の長男正剛氏ら東北新社側の4人も告発した。
被告発人は次の10人(役職は当時)だ。
▽あっせん収賄 菅義偉首相、
▽加重収賄 山田真貴子内閣報道官、谷脇泰彦総務審議官、吉田眞人総務審議官、秋本芳徳情報流通行政局長、湯本博信官房審議官
▽贈賄 二宮清隆東北新社社長、三上義之取締役執行役員、木田由紀夫執行役員、菅正剛統括部長
「浅野健一のメディア批評」に<菅正剛氏・総務省贈収賄事件とメディア>と題したコーナーを設けて告発状などをアップしている。
◎ 告発状では、植村徹・元社長(19年に死去)は2018年10月、首相が代表を務める「自民党神奈川県第2選挙区支部」に50万円を献金した。当時開かれていた衛星放送事業に関する総務省の有識者会議での議論が、同社にとって有利に進むよう首相に働き掛ける趣旨の献金であり、あっせん収賄に当たる。また、東北新社の二宮前社長や正剛氏らは、谷脇氏ら総務省幹部4人と山田氏に、飲食代など約20万円を賄賂として送った。
私は「週刊文春」報道の4日後の2月8日、菅首相と正剛氏、山田氏らを告発することを「市民の会」の田中正道共同代表に提案した。
田中氏が2月9日にメンバーに対し、告発行動を提案し、山下幸夫弁護士(東京弁護士会)に告発状の作成を頼んだ。
私が告発状の材料を集め、叩き台を作った。
告発状の概要ができ2月22日ごろ、信頼できる報道機関の記者に告発の方針を伝え、2月23日の一部新聞に記事が出た。
「市民の会」の告発人代表5人は、3月3日午前10時30分、地検に告発状を出した後、11時30分から司法記者クラブで約30分記者会見を行った。
会見では、山下弁護士が告発の概要を説明。私は病気療養中で参加できなかったが、告発に当たってコメントを記者クラブ幹事社(日経新聞)へメールで送り、告発人仲間がコメントの一部を代読した。
私のコメントはブログに載っている。
また、会見の動画がIWJとUPLANのサイトにアップされている。
https://youtu.be/4Z3hhjXAA1E
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/489405
◆ 首相告発を黙殺する「わきまえた」社員記者
◎ 私たちの告発について、民放テレビ各局は3日午後3時過ぎから4日にかけてニュース、情報番組で伝えた。NHKは報道しなかった。
▽テレ東NEWS:<“接待”市民団体が菅首相や長男ら刑事告発>
▽日本テレビ系(NNNニュース):<総務省接待問題で市民団体が菅総理・長男・総務省幹部を告発>
新聞では、共同通信が記事を配信し、地方紙が掲載したが、朝日、読売、毎日、日経、東京は記事にしなかった。しんぶん赤旗にも記事がなかった。
キシャクラブメディアにとって、菅首相を刑事事件の被告発人とする行動は、「過激的」で「生々し過ぎる」のだろう。
「社畜記者」(故・北村肇毎日新聞記者の用語)は、官邸にとって「わきまえた」記者たちなのだろう。
連日、詐欺、買春あっせんなどで逮捕された市民、学生らの実名、大学名、顔を晒すメディアが首相親子の被疑事件は黙殺するのだ。
「天皇の戦争責任」など最も重要なニュースを伝えないのが日本のキシャクラブメディアだ。
◎ 私たちの告発を無視した新聞社の多くは、菅正剛氏の実名を報道していない。文春は最初から正剛氏の実名、横顔、写真(目に黒線を入れている)を報じ、国会でも実名で議論されているのに、「首相の長男」と仮名報道している。
この点については、「紙の爆弾」4月号の記事を読んでほしい。
◎ 元・駐イラン大使の孫崎享(まごさき・うける)氏は5日、ツイッターで次のように指摘している。
<『紙の爆弾』は贈賄容疑に関して、いかに「首相長男」を「首相長男」とのみ報じ、「菅正剛」を伏せていたか、その経緯を報じている。これに加え写真が出ることもほとんどない。実名と写真を長く報じてこなかっただけ見ても、如何にマスコミが菅首相を恐れているが判る>
安倍晋三政権時代に官房長官だった菅氏は、モリ・カケ・サクラ疑獄事件で、証拠を廃棄、隠蔽、改竄の指揮を執った人物だ。
東京新聞は2月6日の社説で、総務省事件でも証拠の隠滅の恐れがあると警告していた。地検は総務官僚が証拠を隠滅、改ざんする前に、強制捜査で証拠保全を急ぐべきだ。