深掘り 内橋寿明 竹地広憲 阿部亮介 中川聡子 毎日新聞 2021/3/5 

 

 政府が、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う首都圏 4 都県の緊急事態 宣言について、解除基準を満たしているにもかかわらず再延長を決めたのは、専門家が強く懸念を示す「リバウンド(再拡大)」への警戒感からだ。

だが、延長期間「2 週間」の根拠は不明確で、当面は「様子見」で状況改善に期待をかける。 

 

基準あいまい 「手詰まり感」も 

 

「宣言の時に約束した数字からすれば、ほぼ解消に向かってきているが、 さらに確実にするために何としても 2 週間、お願いしたい」。菅義偉首相は 5 日の参院予算委員会で、首都圏 4 都県の 現状について、解除の目安としていた「ステージ 3(感染急増)」相当との認識を示した上で、再延長に理解を求めた。 3日時点の政府のまとめでは、直近 1 週間の人口 10 万人当たりの新規感染者数は 4 都県では 9~14 人とステージ 2(感染漸増)の水準となり、病床使用率も 29~47%とステージ 3 相当と解除基準を満たしている。

 

 そんな中で首相が再延長を判断したのは、専門家や知事が解除に慎重姿勢を示しており、政権主導で解除に踏み切 って感染が再拡大すれば「失策」の批判を免れないためだ。 政府は当初、2 月 26 日にあった 6 府県先行解除の決定に合わせ、4 都県の 3 月 7 日での解除方針も決めようとしていた。

 

しかし、新規感染者数の減少ペースは落ち、病床の逼迫(ひっぱく)も思うように解消されず、「ギリギリの選択」(首 相)として延長に傾いた。

 

政府関係者は、世論調査で延長を求める声が多いとして「世論調査でみんな延長が良いと言う なら、それも立派な理由だ」と語った。 

 

ただし、解除基準を満たしているにもかかわらず、首都圏が解除されなかったことで「国の基準をクリアしている」(首相)と強調し、1 日に先行解除した関西など 6 府県との違いが不明確となっている。変異株に関しても、先行解除した兵庫県の患者数が 36 人と埼玉県(38 人)に次いで多く、なぜ首都圏で解除できず関西圏などで解除できるのか、はっきり しない。

 

 延長幅の「2 週間」の根拠もあいまいだ。

 

政権幹部は「今ですらだれているのに、1 カ月延長では国民が持たない。2週間が限界だ」と理解を求めるが、官邸幹部は「科学的根拠はない」と苦笑する。

 

医療の専門家は「潜伏期間などを考えれば対策の効果が分かるのは2週間後だ」と指摘。別の専門家は「2週間の延長では足りない。評価する期間としてさらに 2週間を加えて4週間にすべきだ」と訴える。専門家の間ではより強い対策が必要との認識でほぼ一致し、欧米のようなロックダウン(都市封鎖)が必要との強硬意見もある。 

 

解除基準があいまいとなり、有効な手立てもみえない「手詰まり感」が漂う延長判断。

 

鈴木基・国立感染症研究所感染 症疫学センター長は「今のままなら(感染状況は)ほぼ横ばいというのが合理的な推測だ。延長しても次の波が 2 週間遅れるだけだ」と指摘し、さらなる対策強化を訴えた。

 

【竹地広憲、阿部亮介、中川聡子】 

 

気の緩み? 

 

街の人出は増加 緊急事態宣言が出た 1 月 7 日以降、1 都 3 県の繁華街や主要駅における人出はゆるやかに増加している――。

 

ソフ トバンクの子会社「アグープ」が推計したデータを基に、

東京・歌舞伎町▽同・渋谷センター街▽埼玉・大宮駅▽千葉・西 船橋駅▽神奈川・関内駅――の 5 地点の人出を分析したところ、そんな傾向が明らかになった。

 

 宣言が出た翌日の 8 日を基準として、時短要請で飲食店が閉店した午後 8 時から 1 時間の人出について 1 週間ごと に比較した。

 

 8 日から 1 週間後の 1 月 15 日は渋谷センター街や西船橋駅で 2 割ほど人出が減少。関内駅は 1 割以上増えたが、 歌舞伎町や大宮駅は微増にとどまった。

 

しかし、その後は全体的に増加傾向となり、新型コロナ感染者の減少が目立ち 始めた 2 月になると、増加はさらに顕著となった。

 

 2 月 26 日の人出は歌舞伎町、渋谷センター街、大宮駅の 3 地点で緊急事態宣言直後と比べて 2 割以上増えている。 

 

同 19 日の渋谷センター街では 3 割以上の増加だ。

 

 地点によっては宣言前の人出に戻りつつある。2 月 26 日の人出を宣言前の昨年 12 月 25 日と比較すると、渋谷セン ター街では半減しているものの、歌舞伎町と西船橋駅では 9 割近くまで人出が戻った。

 

大宮駅と関内駅も 6 割を上回っ ている。 

 

行動経済学を専門とし、公衆衛生にも詳しい大阪大大学院の平井啓准教授は、宣言を延長してもさらに人出が増える 可能性について言及する。

 

 当初、宣言は 2 月 7 日までの予定だったが今月 7 日まで延び、今回は再度の延長となった。

 

平井准教授は「なんとか 7 日まで頑張ろうと思っていた人たちのモチベーションが下がり、いったんは協力しない人が増える」と懸念する。その上 で「政府は協力をお願いしているが、『気が緩んでいる』『頑張りが足りない』というメッセージが強調されている。

 

協力に 対する感謝の思いも国民に伝わっておらず、反感を覚える人もいるはずだ」と話す。

 

 会食や外出を控えることで感染者を抑える手法には限界があると平井准教授は強調する。

 

「人の行動は合理的ではな く、一方向にそろうものでもない。時短要請も大切とは思うが、医療体制の整備など現実的な対策に注力すべきではない か」と提言する。

 

【井川諒太郎、内橋寿明】