官邸からNHKへの「クレーム電話」
※ETV2001問題
NHK番組改変問題(エヌエイチケイ ばんぐみかいへんもんだい)とは、NHKが2001年1月30日に放送したETV特集シリーズ「戦争をどう裁くか」の第2夜放送「問われる戦時性暴力」(慰安婦問題などを扱う民衆法廷(模擬法廷)の日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷(略称:女性国際戦犯法廷、主催:VAWW-NETジャパン))に関する一連の騒動のこと。
経緯
「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」(略称:女性国際戦犯法廷)とは、VAWW-NETジャパンが主催した民衆法廷である。ここでは、従軍慰安婦など日本軍の戦時犯罪の責任は昭和天皇および日本国家にあると提訴され、2000年12月12日、「天皇裕仁及び日本国を、強姦及び性奴隷制度について、人道に対する罪で有罪」との判決を言い渡した。
番組放送前後(2001)
2001年1月27日、西村修平(当時「維新政党・新風」代表)、日本世論の会、大日本愛国党がNHKに押しかけ、女性国際戦犯法廷は「反日・偏向」の政治集会だとして、放送中止を求める抗議行動を行った(街宣車による抗議あり)。
2001年1月28日、秦郁彦が取材を受ける(秦は番組内で「法廷」の様々な問題を指摘して批判を行う)。
2001年1月30日、番組放送。
2001年2月2日、中川昭一が伊藤律子・番組制作局長に会い、この番組について「実は内部で色々と番組を今検討している最中です」との報告を受ける。
2001年2月6日、VAWW-NETジャパンが番組内容について、「主催団体名や肝心の判決内容が一切紹介されなかったばかりか、法廷に対する不正確な誹謗や批判が一方的に放送された」とする公開質問状をNHKに渡す。
2001年2月26日号の週刊新潮が「NHKが困惑する特番『戦争をどう裁くか』騒動」なる記事を掲載。記事中では、放送時間が第2回だけ40分に短縮されたことや、放送直前の右翼の抗議行動、秦への急な取材、伊藤律子・番組制作局長が自民の大物議員に呼び出され釘を刺されたという噂などを取り上げ、「もしNHKが “外圧”に屈して番組内容を差し替えたとしたら、公共放送として大変な汚点だ」と批判。
VAWW-NETジャパンは、NHKが当初の企画通りに放送しなかったとして、NHKを訴えた。NHKは外注先(孫請けサイド)の制作に問題があるとも主張し、外注先会社はNHK制作者から提示された企画だとしてここでも争いがあった。
2005年1月12日、朝日新聞は、「NHK『慰安婦』番組改変 中川昭・安倍氏『内容偏り』前日、幹部呼び指摘」との見出しで、この番組の編集・内容について、経済産業相・中川昭一と内閣官房副長官・安倍晋三からNHK上層部に圧力があったとする報道を行った。
2005年1月13日、この番組作りにかかわったNHK番組制作局の長井暁チーフプロデューサー(当時。のちNHK放送文化研究所主任研究員を経て2009年に「家庭の事情」で退職)から、NHKのコンプライアンス推進委員会に対して、「政治介入をうけた」という内部告発があった。
それによれば、安倍・中川が番組内容を知り、「公正中立な立場でするべきだ」と求め、やりとりの中で「それが出来ないならやめてしまえ」という発言もあったという。これに対しNHKは調査を行い、「NHKの幹部が中川氏に面会したのは放送前ではなく放送の3日後であることが確認され、さらに安倍氏についても放送の前日ごろに面会していたが、それによって番組の内容が変更されたことはなかった。この番組については内容を公平で公正なものにするために、安倍氏に面会する数日前からすでに追加のインタビュー取材をするなど自主的な判断で編集を行なった」と主張。同日、長井はNHKトップの海老沢会長がすべてを承知であり、その責任が重大だと指摘した。
数日後、任期切れの近い海老沢は退任の意向を示し、技術系出身の新会長の下で従来の拡大路線を継続することを発表。
なお、NHKの永田浩三プロデューサーは、安倍がNHKの放送総局長を呼び出し、「ただではすまないぞ。勘ぐれ」と言ったとする伝聞を紹介。永田は「『作り直せ』と言えば圧力になるから『勘ぐれ』と言ったのだ」と明言している。
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現代ビジネス2/14(日) 7:02配信
NHKスペシャル「異例の放送中止」にチラつく官邸の影…局内の疑心暗鬼が止まらない
「『Nスペ』のような大きな番組が、放送される前の週に丸ごと差し替わるなんて考えられない」(NHKベテラン局員)
【写真】総理が怒っていますよ…官邸からNHKへの「クレーム電話」その驚きの中身
NHKでまた不可解なことが起こった。1月24日放送の『NHKスペシャル』の内容が急遽、大幅に変更されたのである。
当初、放送が予定されていたのは『令和未来会議 どうする? 何のため? 今こそ問う 東京オリンピック・パラリンピック』と題する特集だった。今夏の五輪開催が危ぶまれる中、タイムリーな企画と言える。
しかし1月15日、異変が起きる。番組担当者に、理由も示さず「放送中止」の命令が下ったのだ。代わりに、近視の人が急増していると報じる『わたしたちの"目"が危ない』が流されることになった。
「昨年10月には、総理が出演した『ニュースウオッチ9』の内容をめぐって官邸幹部が抗議してくる騒動がありました。まして、総理が神経を尖らす五輪がテーマとなれば、今回も干渉があったとしても不思議じゃない。
『Nスペ』の全面差し替えなんて、理事にもできません。前田晃伸会長が総理に言われたか、忖度したかのどちらかでしょう」(NHK中堅局員)
局内では「前田会長は政権の圧力に屈して、中期経営計画に受信料値下げを明記することを決めた」とも言われ、疑心暗鬼が広がる。
NHK広報に経緯を聞くと、番組変更があったことは事実と認めたが、理由については「総合的な判断」と言うのみ。ちらつく官邸の影に、NHKへの国民の不信は募る一方だ。
『週刊現代』2021年2月13日号より