=たんぽぽ舎です。【TMM:No4020】【TMM:No4021】「メディア改革」連載第41回=
 ◆ 安倍「病気」投げ出し辞任を美化するメディア
   内閣記者会を殲滅しジャーナリズムの創成を

浅野健一(元同志社大学大学院教授、アカデミックジャーナリスト)


◎ 安倍晋三首相が消えると聞いて、少しは政治が変わるかと思っていたら、何と安倍官邸を仕切ってきた菅義偉官房長官が後継首相に決まったかのような事態になっている。安倍氏の辞任表明からまだ5日しか経っておらず、総裁選の告示もされていないのだ。
 菅氏が官邸の記者会見で見せる冷たい視線と、まっとうな質問をする記者を小ばかにする回答ぶりも耐えられなかった。その菅氏が2日午後5時から国会内で会見し、総裁選出馬を表明した。

 菅氏は秋田県の農家の長男として生まれた出自から述べ、2年遅れで大学に入り、会社員を経て議員秘書となり、横浜市議になり、47歳で衆議院議員になったと71年の人生を振り返った。その後は、安倍政治を継承すると繰り返しただけだ。


 苦労した人間の中に冷酷になり、ファシストになる者も少なくない。元大阪府知事の橋下徹氏もその典型だ。

◎ 自民党の党員投票がなくなったが、自民党の党員はいい加減な手続きで入党する。同志社大学の教授時代(1994~2014年)に、私は学部の1年生から4年生までゼミを持っていたが、2005年ごろの1年ゼミの学生が「先生、私はいつの間にか自民党の党員になっていて、総裁選挙の投票用紙が郵便で送られてきた。市会議員の祖父が私を党員にしていた」と言ってきたことがあった。学生は大阪府に住んでおり母親も市議を務めていた。

◎ 自民党の党員は、党の綱領や党則を読んでなるような人はほとんどいないのだろう。会社や業界団体で有力者に頼まれて「入党」する。政治理念なんか関係ない。
その自民党は14年に「党員120万人」の目標を定め、今年3月には、二階俊博幹事長が国会議員に「党員1000人獲得」のノルマを課した。
 ノルマ未達の衆院議員は小選挙区で公認しても比例名簿に入れないというペナルティまで科した。自民党員の唯一の権利は「総裁選で投票できる」ことらしい。その権利が奪われた。

 ◆ 密室の派閥談合で菅官房長官・後継を煽る罪

◎ 安倍晋三首相が8月28日、健康問題を挙げて、「国民の負託に応えられる状態ではなくなった」「病気と治療を抱え、大切な政治判断を誤ってはならない」などの理由で、任期を1年残して辞任を表明した。
 ただし、首相は次期首相が決まるまで、首相臨時代理は置かず、首相として執務を続けると表明した。

 安倍氏は28日夕の記者会見で6月の定期健診で持病の潰瘍性大腸炎の再発の兆候があると指摘され、7月中旬から体調に異変が出たと述べたが、この期間、安倍氏は報道関係者、財界人、側近政治家などと高級飲食店で飲食を重ねていた
 本当に深刻な病気なのか分からない。重病なら、後継首相が決まるまで在任するというのもおかしい。

 安倍氏は総裁選の直前までに国家安全保障会議で「敵基地攻撃」を可能にする決定を行うと意欲を示している。
 総裁選の投票は2週間もあれば準備が整う。当然、全党員による総裁選挙があると思っていたら、安倍氏から総裁選びについて一任された二階幹事長は早々と、党員投票を省いて両院議員総会で決めると表明し、9月1日の党総務会で押し切った。
 空白期間を作れなという理屈だが、小泉進次郎環境相が「党員投票は時間がかかるというのはウソだ」と反論している。

◎ 安倍氏は8月28日正午過ぎ、自民党本部を訪れ、二階幹事長に辞意を伝えた。安倍氏は、石破茂元幹事長の総裁就任だけは阻止したかったのだろう。
 党員の間で圧倒的に人気の高い石破氏を落とすために、両院議員総会での選出にするよう要請したと思われる。党員の民意も聞かないとんでもない党なのだ。
 党員投票なしが決定的になると同時に、「(次期首相について)全く考えていない」と繰り返し表明してきた菅義偉官房長官を次期総裁に推す動きが表面化し、派閥領袖が次々と菅氏支持を表明し、テレビ、スポーツ紙はもう菅氏に決まったような報道になっている。菅氏は2日の官房長官会見で、「今日夕方。出馬表明する」と述べた。

 ◆ 安倍「病気」投げ出し辞任を美化するメディア

◎ 田原総一郎氏は8月31日、テレビ朝日の「ワイドスクランブル」に出演、「集団就職で上京し、働きながら大学夜間部を卒業したたたき上げの苦労人で、自民党で世襲でない議員が首相に就任するのは海部俊樹氏(1989~91年)以来だ」と持ち上げた。「昨年訪米しており、外交もしっかりできる」(平井文夫フジテレビ解説委員)など菅氏賛美が始まっている。
 苦労した人間が困窮する民衆に敵対し、ファシストになることもある。

 30日のTBS「サンデーモーニング」で横江公美東洋大学教授は「トランプ大統領の就任前に会いに行き、誰もできなかった信頼関係をつくった」と安倍氏の外交を賛美し、
 31日のTBSラジオ「セッション22」で、TBS解説委員の川戸恵子氏は「アジアの事を知らないトランプ氏にアドバイスし、サミットで宣言をまとめるなど大きな成果をあげた」と解説した。
 こんな御用学者の戯言を公共の電波に乗せていいのか。

◎ 安倍氏の“鮨友”田崎史郎氏は、首相の辞任表明直前に、首相の「続投か辞任かは5対5」と予測したのが、テレビ界では評価されて、いい気になっている。「五分五分」というのが、予想的中ということになるのか。
 田崎氏は民放ネット局をはしご出演し、安倍路線を引き継ぐ菅氏をヨイショし、「石破さんは同僚議員と飲み食いせず、議員の面倒をみてこなかった」「岸田さんはアピールがあまりに遅かった」など適当なことを言っている。
 9月2日のテレビ朝日「モーニングショー」では羽鳥慎一キャスターが次期首相は菅氏に決まったと何度も繰り返し、田崎氏は「菅さんは携帯料金値下げを言うなど、改革派だ」と解説していた。恥を知れと言いたい。

◎ 小選挙区制の導入、政党交付金などで、自民党には派閥がなくなったはずなのに、NHKが「派閥の会合」と普通に報じている。
 菅氏の総裁選に臨む政見もまったく発表されていないのに、派閥の談合、数の論理で、菅氏圧勝は確実と報道される。自民党員には自由主義者も民主主義者もほとんどいないのだろう。

 ◆ 菅氏は安倍政治の共犯者・言論弾圧の首謀者

 菅氏は、安倍政権が強行採決した戦争法などの違憲立法、モリ・カケ・サクラ疑獄の共謀共同正犯だ。安倍晋三記念小学校疑獄で、財務省の赤木俊夫さんを自死に追い込んだのは安倍氏と菅氏だ。
 安倍首相は2017年2月17日の国会で、「私や妻がこの認可あるいは国有地払い下げに、もちろん事務所も含めて、一切かかわっていない。私や妻が関係していたということになれば、私は、それはもう、間違いもなく総理大臣も国会議員も辞める」と答弁した。

◎ 菅官房長官は同月22日、財務省の佐川宣寿理財局長、中村稔総務課長(当時、現駐英公使)、太田充審議官(理財局長・主計局長を経て事務次官)らを官邸に集めて会合を持った。
その後、佐川氏が24日、国会で国有地売却に関わる交渉記録は既に廃棄したと答弁。26日(日曜日)、赤木さんは近畿財務局の上司に呼び出され、文書改竄を命じられ、3月にも数回、改竄を強制された。真面目な公務員だった赤木さんはメンタルを病んで18年3月、自宅居間で自死した。

 安倍首相が辞意を表明した日、赤木さんの妻で今年3月に日本国と佐川氏を相手に国賠訴訟を起こした赤木雅子さんは「次の首相は、有識者による第三者委員会を立ち上げ、公正中立な調査を実施してほしい。私が起こした裁判でも、夫がなぜ自死に追い込まれたかが明らかになるような訴訟活動をしてほしい」というコメントを出した。

 伊藤詩織さんの告訴で逮捕されるはずだった山口敬之元TBSワシントン支局長の逮捕状の執行を2015年、直前に止めた中村格刑事部長(現警察庁次長)は2012年から15年まで菅長官の秘書官だった。

◎ 菅氏は加計学園獣医学部疑獄事件で、国会で安倍氏らの関与を告発した前川喜平・元文科次官を「文科省天下り問題で責任があるのに、恋々と地位にしがみついた」とウソを述べた。
 また、読売新聞が17年5月22日、社会面で<前川前次官 出会い系バー通い>という8段見出し記事について、菅氏は報道当日の会見で、「女性にお金を渡している。国家公務員というのは国民全体の奉仕者であって、公共の利益のために勤務し、かつ職務の遂行にあたっては全力でこれに専念しなければならない」と前川氏を非難した。

◎ 前川氏は16年秋頃、菅氏の側近、杉田和博・官房副長官に「君、そんなところ(出会い系バー)に行っているのか。今後注意しろ」と言われたことがあった。菅氏はその事実をつかんで読売に書かせたと私は見ている。
前川氏は、出会い系バーへ行った理由はあくまでも「彼女たちと食事をして身の上話を聞いた」と語っており、女性たちも話を聞いてくれ、自分を見つめ直したと話している。

◎ 菅氏による望月衣塑子東京新聞記者に対する質問妨害は常軌を逸している。
 菅氏が次期衆院選の「党の顔」になるのは、政権反対党にとっては歓迎だ。選挙で安倍政治を問えるからだ。菅氏には、裏社会とのつながり、怪しい人間関係も疑われており、キシャクラブメディアには期待できないが、文春砲に期待が高まる。
 安倍政権のメディア弾圧の首謀者だった。
 安倍政権が7年8カ月も続いたのは、菅氏を中心として、公安警察官僚で固めた内閣人事局による恐怖・威嚇政治のおかげだ。
 報道界は菅氏の首相就任を座視していいのか。

 

 

パワー・トゥ・ザ・ピープル!! パート2

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