◆ 健康より優先「軍国主義的」
コロナ禍でも「君が代」都教委が指示 (東京新聞)
コロナ禍の中、全二百五十三校が「君が代」を斉唱していた都立学校卒業式。感染を防ぐため、時間を短縮し出席者を絞るなどした教職員からは、東京都教育委員会の指示に「異様」「合唱は削ったのに」と疑問の声が上がる。飛抹(ひまつ)感染のリスクも顧みず「君が代」だけを特別扱いする背景に、専門家は戦時中の軍国主義教育の影を指摘している。(石井紀代美)
◆ 教職員から疑問の声
「生徒自ら曲を選び、練習してきた合唱は取りやめになった。どうせ歌うなら『君が代』ではなく、思い入れのあるそっちを歌わせたかった」。今年三月、卒業生を見送った学級担任の男性教諭は、やりきれない思いをにじませる。
感染リスクを下げるため、保護者も在校生もいないさみしい卒業式だった。
都教委から時間短縮の指示を受け、式次第は卒業証書授与など必要最低限に圧縮したが、「君が代」は指示通りに斉唱することになった。
「感染リスクがあるから合唱を削ったのに、他のクラス担任も『えっ、何で』と驚いていた。生徒の健康より『君が代』を優先するということ。明らかに軍国主義的だと思う」
別の都立校の女性教諭は「一人ずつ卒業生の名前を呼ぶことすらしない学校もあったのに、『君が代』は歌う。異様だけど、都教委から言われたら管理職は逆らえない」と明かす。
現場が都教委を恐れるのには理由がある。卒業式や入学式の国歌斉唱時、起立しない教職員らを容赦なく懲戒処分してきたのだ。
歌詞が「天皇の世の永続」を願う「君が代」は、教育勅語とともに「大日本帝国」下の軍国主義教育に採り入れられた。そのため、斉唱に抵抗がある教職員は、起立せずに不服従の意思を示してきた。
都教委は、二〇〇三年十月二十三日、起立斉唱を強制する「一〇・二三」通達を出すなどし、従わない教職員に懲戒処分を繰り返してきた。
この都教委の方針は、新型コロナ感染拡大後でも変わらなかった。
一斉休校中の今年三月、国内の感染者は千人を突破し、東日本大震災追悼行事などのイベントは中止になっていた。卒業式でも、感染リスクを少しでも下げる必要があったのは明らかだ。
さらに問題なのは、飛沫対策が不十分だったこと。前出の教諭はいずれも「マスクをしていない生徒がいた」と証言した。
呼吸器内科医の倉持仁氏は「歌えばつばが飛ぶ。マスクをしても脇から後方へ漏れる。今年は歌わず、音楽を流して対応すべきだった」と話す。
重症化リスクが高い、障害のある子どもたちが学ぶ特別支援学校でも、「君が代」を斉唱した。元教諭・渡辺厚子氏は「呼吸器に疾患がある生徒も、鼻にチューブを入れていてマスクをしっかりできない生徒もいる。命を守るためにも、歌うべきではなかった」と断言する。
◆ おかしくても従う学校「民主主義育てられない」
中京大の大内裕和教授(教育社会学)は「今春の卒業式で、何よりも『君が代』が大事だというメッセージを子どもたちに送ってしまった。本来、生徒の卒業を祝う儀式が、国家主義イデオロギー注入の場になっている」と批判する。
「おかしいことでも、長いものに巻かれ強いものに従う先生を、子どもたちは見せつけられている。これでは、民主主義を育てる教育が期待できない」
大内氏は「思想・良心の自由を定めた憲法一九条を巡って、国歌斉唱の強制は議論されてきた。全校斉唱で新たに、子どもが安全に教育を受ける権利を侵害するという二六条についての議論が加わった」と指摘した。
『東京新聞』(2020年7月20日【ニュースの追跡】)
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