《『東京新聞』【こちら特報部】》
◆ 中学校近くの行動でビラ配り
副校長注意でトラブル、現行犯逮捕
東京都内の中学校の近くでビラをまいていた男性が、公務執行妨害容疑で逮捕された。制止しようとした同中の副校長の手にスマートホンをぶつけるなどしたという。男性がいた場所は公道で、身柄を拘束されるほど悪質な行為だったとは考えにくい。この件だけでなく、表現の自由が脅かされるような事態は各地であり、専門家は「他人の意見を認めない風潮が強まっている」と危ぶむ。 (大野孝志、佐藤直子)
目黒区南部の静かな住宅街。車1台が通れる程度の一方通行の路上で、ビラを配っていた男性(20)が8日に逮捕された。中学校の正門から50㍍ほど離れ、学校敷地には面していない。
弁護人を務める土田元哉弁護士らによると、男性は都内の単位制高校に在籍している。ビラは男性が所属する高校生らの自主組織「日本自治委員会」名で、生徒の健康を考えずにコロナ禍で水泳の授業をしようとしたとして、別の都立高の姿勢を批判。生徒の自治を呼び掛ける内容だった。
関係者によれば、男性は8日午前8時ごろ、周辺を巡回していた同中の50代の男性副校長からビラ配りを注意された。
その後、スマートフォンで撮影しようとした男性を遮った副校長の右手にスマホをぶつけ、職務を妨害したとされる。
現行犯なら一般人でも可能な「常人逮捕」の形で、副校長に身柄を拘束された。
同中の通報で警視庁碑文谷署員が駆け付け、男性の身柄を受けた。男性は黙秘。現在は署に拘留され、自宅を家宅捜索された。松本俊彦副署長は「黙秘したため拘留した」と説明する。
同中は水泳授業をやろうとした高校に近い。同委員会によると、進学する生徒も多いだろうと考えた男性は、高校の実態を伝えようと7日にもビラを配った。
8日は副校長に「公道でのビラまきは違法ではない」と主張。それでも注意が続き、抗議のための証拠を残そうと撮影を試みた。
土田弁護士は「中学校と直接関係ないビラを校門から離れた公道で配るのは、平穏な学校生活を妨害するものではなく、執拗な注意は教職員の適正な職務とは評価しがたい。憲法で保障された表現の自由を侵害している。何らかの身体接触を公務執行妨害とするでっち上げ事件ではないか」と問題視する。
17日に東京地裁であった勾留理由開示の手続きで、佐藤薫裁判官は「証拠の内容に関わる」として弁護士の質問にほとんど答えず、証拠隠滅と逃亡の恐れがあるとした。男性の拘留は10日間延長された。
男性は逮捕されるほどのことをしたのだろうか。
副校長は「申し上げることはない」と取材を拒否。同中の男性校長も「捜査中なのでコメントできない」と語るのみ。
目黒区教育委員会の片山順也統括指導主事は「表現の自由を侵害するつもりはない。副校長は学校前の道が狭いので、生徒の交通安全確保のために注意したと受け止めている」との見解を示した。
一方、捜査の在り方に詳しい清水勉弁護士は「学校は男性に話を聞き、生徒に実害がないと分かれば放っておけば良かった。公務執行妨害で逮捕するのは、やり過ぎ。そもそも事件性がなく、学校も警察も裁判所も、やっていることがめちゃくちゃだ」と指摘した。
(後略)
『東京新聞』(7月18日【こちら特報部】)