◆ 白衣の下は鎧~熱狂していたのは自衛隊中央病院だった
~ブルーインパルス”大歓迎”だけ報じたNHK (マスコミ市民)
永野厚男(教育ジャーナリスト)
自衛隊の病院だという事実を隠し、ブルーインパルス"大歓迎"を垂れ流した5月30日のNHK『おはよう日本』
航空自衛隊・入間基地(埼玉県)を飛び立った、曲芸飛行軍団・ブルーインパルス6機が、白色のスモークを引き編隊飛行する空に向け、全員が万歳するように両手を振り「ありがとー」と大声で叫ぶ。中には涙ぐむ者も。「救われる。皆で頑張っていて、これからも頑張る」と無邪気に語る女性へのインタビューも映し出す。
NHKは5月29日の『シブ5時』以降、30日6時台の『おはよう日本』まで、ニュースで計6回も、コロナ禍なのに、100名超で密着・密集する白衣の集団(黄色と緑色の床のヘリポートを兼ねた屋上なので、いわゆる3密のうち、密閉はないけれど)の”熱狂”を、どこの病院か明示しないまま放映し続けた。
だが白衣の集団は実は全員、ブルーインパルスの”身内”の自衛隊員、即ち自衛隊中央病院(以下、中病)の医官と看護師らだった。
◆ 自衛隊中央病院は戦時等、負傷した退院の治療が本務
中病は、東京都世田谷区と目黒区に跨(またが)る自衛隊三宿(みしゅく)駐屯地内に所在する。
同駐屯地の前身は旧日本陸軍駒沢(こまざわ)練兵場であり、同じ駐屯地内に、旧防衛庁技術研究本部当時から人々を殺傷するミサイルや支援戦闘機の設計・開発等をしてきた、防衛装備庁の電子装備研究所・先進技術センターもあるのだ。
中病は常に一定の空きベッドを確保し運営している。なぜなら、有事、即ち戦時に負傷した自衛隊員を収容・治療し、戦闘地域に復帰させるための施設だからだ。
中病のホームページの新年の「挨拶」で、病院長は・上部康秀(うわべやすひで)氏(病院長は自衛隊医官から転官の防衛技官)は「今年はいよいよ東京オリンピックが開催されます。大変楽しみな一年になりそうです。しかしながら、我が国を取り巻く安全保障環境は一段と厳しさを増しつつあり(略)強く懸念されて、います」と語る。
(略)の箇所には「地震、台風豪雨等の大規模自然災害の発生や新型インフルエンザの流行」も記述してはいるが、安倍首相らが集団的自衛権行使の戦争法の国会審議の答弁で繰り返した「安全保障環境の厳しさ」を「強く懸念する」と「挨拶」に明記することからも、普通の病院ではないのは明白だ。
中病のHPはコロナ禍の「ステイホーム」に関連し、「私達は病院で 皆様は家で 一緒に日本を守ろう!!」と書いたプラカードを手にした医官と看護師ら、15名(うち、2名は階級章付きの制服)の集合写真も掲載。
「人々の命を守ろう!!」でなく、「日本を守ろう!!」と国家を前面に出すのは、普通の市民・生活者の感覚とは、かなり違う。
中病のある三宿駐屯地の司令は、陸上自衛隊衛生学校の校長が兼務している。
衛生学校のHPは、「顔にドーラン(野外戦闘訓練で偽装するカモフラージュメイク)を塗った迷彩服・鉄帽の自衛隊員が自動小銃を構える写真」と並べ、医療部隊の訓練の写真も載せる。
その迷彩服の自衛隊員らは、上腕に「赤十字の腕章」を付け、カルテらしき紙を見たり担架で負傷者を運んだりしているが、顔はドーランを塗り、鉄帽には木の葉や草を大量に付けている。また三宿駐屯地にはカーキ色の大型救急車が多くある。
まさに戦争遂行のための施設なのだ。
◆ 都の病院経営本部が前夜、都立病院等に「来る」とメール
都庁・病院経営本部は28日夜、管轄する8つの都立病院等に「29日ブルーインパルスが来る」というメールを送信。
自衛隊出身の、〝ヒゲの隊長〟こと自民党・佐藤正久(まさひさ)参院議員は29日朝、ツイッターに「本日、12時40分からブルーインパルス東京上空へ、医療従事者への感謝表す。飛行ルートは、都立駒込(こまごめ)病院(文京区)、都立墨東(ぼくとう)病院(墨田区)、荏原(えばら)病院(大田区)、自衛隊中央病院(渋谷区。ママ、世田谷・目黒両区の誤記)、東京都庁(新宿区)の順に、2周飛行します。是非ご覧ください」と投稿した。
前記・都庁メールを受け都立病院のうち、駒込病院は3階の屋上を医師看護師等に開放し50人以上集結。墨東病院は看護部の公式ブログ『ぼっくんの墨東日記』に「ありがとう!ブルーインパルス!!」と題し、「墨東病院からの眺めです。ちょうどお昼休みだったので、窓から見ることができました! (略) 墨東病院のスタッフ、みんな元気をいただきました!本当にありがとうございます!」と載せた。両病院の少なからぬ職員は、自衛隊ファンクラブのようだ。
一方、同じ都立病院でも、広尾(ひろお)病院は筆者が電話取材すると、「屋上は緊急時以外、開放しておらず、1階部分も含め、少なくとも敷地内で医師・看護師が集結し手を振るようなことは、一切なかった」と回答。
大塚病院は、前記・都庁メールを職員に転送し、屋上を開放したが、職員を組織的に動員することはなく、集まった人数は「そこそこだった」という。
◆ 「ブルーインパルス大歓迎は自衛隊病院=身内だ」という事実を伝えないNHK
中病のHPからリンクで見られた、複数のYouTube(テレビ朝日等が出資し設立した、ネットニュース・アベマTVのLIVE中継を含む)は、冒頭のNHKと同種の中病屋上の〝熱狂〟を放映する際、迷彩服や階級章付き制服(半袖白)の自衛隊員少なくとも5名を映し出した。
だがNHKは、筆者が現認した29日の『ニュース7』、前記『おはよう日本』では、①画面に中病だというテロップを一切出さず、アナウンサーも、「(場所は)中病だ」と一切読み上げないまま、冒頭の〝熱狂〟ぶりを垂れ流し、②迷彩服や制服は1名も映さず、白衣の〝軍人〟っぽくない医官と看護師らだけを映し出した。
そこで筆者はNHKに6月2日早朝、次の趣旨の質問・取材メールを送信した。
①NHKが5月29日の『ニュース7』等で、「コロナ患者を受け入れてきた病院の上空を、ブルーインパルスが飛んだ」とするうち、「特に手を振る人がいなかった都立広尾病院」等を取材せず、「ブルーインパルスと同じ軍事組織の中病」の屋上ヘリポートに貴局の取材陣が上がり、〝軍医〟や隊員たる看護師が、仲間(身内)である自衛隊機に大はしゃぎしている映像だけを放映したのは、視聴者に自衛隊に親しみを持たせようと謀(たくら)む意図、政治目的があるのでは?
②「自衛隊中央病院」というテロップを、画面に正直に出さなかった理由は?
③ ②は「軍事組織でない普通の病院の医師・看護師がブルーインパルスに感謝している(中病屋上に数名いた迷彩服等の自衛隊員を撮さず白衣の人を前面に撮し、普通の病院である)かのように装う意図」はないか?
これに対しNHKは同日夕刻、次の趣旨の回答を送信するに留まった(回答者の職・氏名は不記載)。
ご指摘のような意図や目的は全くありません。ブルーインパルスが都心上空を飛行したニュースに関しては、自衛隊中央病院のほかに、都立墨東病院、都立駒込病院、川崎市立井田病院で、飛行の様子を見る人たちの姿などをそれぞれ取材しました。
29日のシブ5時、ニュース7、ニュースウオッチ9では、いずれの放送とも、取材した複数個所の映像を使用してお伝えしています。
だが、墨東・駒込等は中病と同じ自衛隊歓迎派なので、ブルーインパルスに手を振らなかったり特に関心を持たない医療関係者の姿は、視聴者に伝わらない。
これでは「政治的に公平であること。報道は事実をまげないですること。意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と規定した放送法第4条に違反する。
この放送法違反を、筆者はNHKに電話で伝えた上で、6月3日以降、数日に分け3回ほど、
① 報道の常識である「5W1H明示」に反し、貴局が今回「場所」は「中病だ」とアナウンサーも言わず、テロップも出さなかった理由は?
② ①は事実だけでも認めるか?
などと、メールで問うた。
だがNHKは、「いずれも自主的な編集判断で放送しており、個別の編集判断や、取材や制作の過程に関することは、お答えを差し控えさせていただきます」などと、質問・取材に正対せず、はぐらかす回答を繰り返すだけだった。
◆ ブルーインパルスは〝大歓迎〟以外に、危険性も報道を
河野(こうの)太郎防衛相は6月1日のブログに、今回の飛行は自ら指示し「約360万円」もの税金を投入したと明記した。
一方、ブルーインパルスの起こした墜落事故は、00年7月4日、宮城県牡鹿(おじか)半島で隊員3名が死亡、1982年11月14日の浜松基地航空祭では、隊員1名が即死、住民ら14人がやけどなどの重軽傷を負い、全部で28棟が被害に遭い(うち民家1棟は全焼、工場2棟は半壊)、自動車修理工場にあった新車350台のうち250台もが被害を受けている。だがNHKも河野氏も、これらの危険性には一切言及しなかった。
今回の軍事問題での防衛省・自民党の施策に偏したNHKの報道は、文科省が社会科等の学習指導要領や教科書検定で、小中高校生に政府・自民党の政策を是と教え込ませようと介入している問題と同根。立憲野党や私たちは厳しく監視し、是正させていきたい。
『マスコミ市民』(2020年7月号)
今、東京の教育と民主主義が危ない!!
東京都の元「藤田先生を応援する会」有志による、教育と民主主義を守るブログです。