黒川スキャンダルが提起したもう一つの問題


   黒川検事長と記者の賭け麻雀はキシャクラブの産物だ
   キシャクラブ体制を維持して権力犯罪の迫及はできない
 

 浅野健一(ジャーナリスト)

 黒川検事長の賭けマージャンスキャンダルは、同席していたのが新聞記者だったことが暴かれたことで、もう一つ大きな問題を提起した
言える。従来から指摘されてきた「記者クラブ」問題だ。
 新型コロナウイルスの感染拡大で、緊急事態宣言が出ている時に、安倍晋三自公政権の守護神とされる黒川弘務東京高検検事長と産経
新聞(2人)・朝日新聞(1人)の記者3人が賭けマージャンをしていたことが5月20日、『週刊文春』電子版で報じられた。その後
法務省などの調査で、4人は5年前から、毎月数回賭けマージャンを行い、非常事態宣言下で計5回行っていたことがわかった。
 黒川氏は22日、訓告処分を受け、自己都合で辞職した。検察ナンバー2の犯罪行為の仲間が大新聞の記者だったことで、マスメディア不信が強まっている。

《辞表を受理せず徹底調査すべきだった》 (略)
《『週刊文春』のネタ元は産経新聞関係者》 (略)

《「公人中の公人」の記者3人はなぜ仮名か》

 文春記事によると、賭博の場を提供したA記者は事件当時、司法記者クラブーキャップ。B記者は、今年初めまで同キャップで、社会部次長(デスク)。朝日新聞のC記者も元司法担当で特別報道部デスクを経て経営企画室次長だった。

 

 朝日新聞も産経新聞も、「実名報道が原則」という事件事故報道ガイドラインを持っている。黒川氏と一緒に賭けマージャンをした
3人の氏名、年齢、肩書き、住所、経歴を公表すべきではないか。
 また、法務省、マスメディアも3人を揃って仮名(実名の対語は仮名)にしているのも不可解だ。テレビ、週刊誌など報道陣は黒川氏の
自宅取材はしているのに、共犯者の記者3人に取材しようとしないのはダブルスタンダードで不公平だ。
 賭けマージャンをした記者たちは公人中の公人ではないか。
 犯罪報道で匿名報道主義(公人の職務上の嫌疑は顕名=匿名の対語=、一般市民は匿名)をとる北欧でも、間違いなく顕名になる
ケースだ。(後略)

《「取材源秘匿」の産経、「個人的な行動」とする朝日》 (略)
《「元記者の社員」は正確な表現か》 (略)

《産経新聞、朝日新聞の広報部が回答》

 私は5月26日、朝日・産経新聞の広報部に
 1.記者の氏名、役職などをなぜ発表しないのか
 2.田中稔氏が5月21日にFBで公表した3人の氏名は正確か
 3.法務省から何か調査依頼、記者への聞き取りなどはなかったか
 4.調査メンバーを法律家市民代表に選んでもらい、各界の代表、
   識者を入れた調査委員会をつくる考えはないか
 5.警察・検察などの取材対象者に対して行っている「夜討ち
   朝駆け」取材、取材対象者に、「食い込み」「懐に飛び込み」、
   仲良くなり、信頼関係を結びながら、「一線を越えない」
   「書くべきことは書き、批判する」という伝統的な取材手法に
   無理はないか、また、今後どういう記者教育をするのか-などを
   聞いた。  (中略)
 両社とも、内容のある回答ではなかった。両社の広報部が記者3人
仮名扱いについて回答を避けたのは極めて残念だ。

《キシャクラブでの癒着関係が事件の要因》
  (前略)
 今回の事件は日本にしかないキシャクラブ制度と、記事に署名を載せずに政治家・官僚・財界人から得た官製発表やリーグ情報を垂れ流す構造の産物である。
 日本の高級官僚(多くが東京大学出身)など政財界の幹部とキシャクラブメディアのエリート記者(早慶・旧帝大出身者が多数を占める)
は、ウイークデーも含めしばしば、飲食、ゴルフ、マージャン、山登り、釣りなどを楽しんでいる。
 黒川氏は産経、朝日新聞以外の司法担当記者とも付き合っている。
   (後略)

《こういう状況では権力犯罪の追及はできない》
  (前略)
 キシャクラブ体制を維持して、捜査官、政治家の「懐に飛び込み」「相手に食い込み」、仲良くなり、信頼関係を結ぶ取材・報道を続けていては、違法な閣議決定など権力犯罪の迫及はできない。


      (月刊『創 The Tsukuru』7月号、2020年6月発行より抜粋)

 

 

 

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