《労働情報-特集:各労組のコロナ現場報告:飲食》
◆ 富士そばアルバイトが全額給与補償を獲得
栗原耕平(首都圏青年ユニオン事務局次長)
新型コロナウイルスの影響が広がるなか、飲食産業が大きなダメージを受けています。
観光客の減少、外出自粛要請により来客数が激減し、また休業要請も出され、店舗の休業や時短営業を余儀なくされています。
これらが労働者にしわ寄せされ、労働者の労働時間・シフトが大幅にカットされているにもかかわらず給与補償がされない例が多く、生活困難が広がっています。
雇用調整助成金を企業が活用すれば給与補償の大部分について助成金が支給されますが、手間を嫌って給与補償をせずに済ましている企業がほとんどです。
しかし、労働者がユニオンに加入して企業と交渉すれば、給与補償を勝ち取ることが可能です。
首都圏青年ユニオンは飲食産業の上記のような状況を受け、飲食業分会として「飲食店ユニオン」を設置していますが、飲食店ユニオンは富士そばとの交渉で、全従業員への全額の給与補償を勝ち取りました。
富士そばで働くアルバイトの男性が相談に来たのは3月頭でした。
もともとは週40時間働いていたものの、2月末から、コロナウイルスの影響による売り上げ悪化への対応としての人件費削減のために、大幅なシフトカットがされ始めました。
最終的には4割ほどシフトカットされ労働時間は週24時間となりましたが、給与補償は一切されませんでした。
もともと時給1100円という低賃金で働いており、月収は額面で約17万円です。これが10万円前後にまで落ち込むことが予想されました。
男性は1人暮らしであり、このアルバイト収入だけで生活していたため、生活不安を感じて相談に来たのです。
飲食店ユニオンはその男性が勤めていた店舗を経営するダイタンキッチン株式会社に、シフトカットされた分の全額の給与補償を求めて団体交渉を申し入れました。
すると、即座に富士そばで働く全従業員への全額の給与補償が決定しました。
また、富士そばでは食券の受け渡しが手渡しで行われ、さらにカウンターで食事をするお客さんと従業員との距離が非常に近いなど、店内での感染リスクが高いという問題もありました。
この点についても飲食店ユニオンが要求し、ビニールシートの設置や食券手渡し禁止などという感染対策が全店で行われました。
飲食業は非正規労働者の割合が非常に高い産業であり、現場の店舗に立つ労働者のほとんどが非正規労働者です。
富士そばでも正社員は2人であとは全て非正規労働者でしたし、勤続年数は概して非正規労働者の方が長くなっています。
非正規労働者が店舗の主要な担い手なのであり、この非正規労働者が、現在、感染リスクと貧困化リスクの双方に晒されているのです。
しかし、ユニオンを使えば、こうした状況を抜本的に変革することが可能です。
飲食店ユニオンは、労働者、とりわけ非正規労働者の生活と生命を守るため、引き続き交渉に取り組んでいきます。
『労働情報』(2020年6月)