◆ アイヌの誇り (東京新聞【本音のコラム】)
鎌田 慧(かまたさとし・ルポライター)
スッキリ立っている。こそげ落とした清涼感がただよっていて、皺(しわ)のない頬が輝いている。
八十七歳。宇梶静江さんにお会いして、わたしはその若々しさに目を瞠(みは)った。二年前、トイレに這っていくほど足が弱っていた、というのだが、いまは杖なしで歩いている。
アイヌ女性としてどう生きてきたのか。たまたま藤原書店のちいさな集まりでお会いしたあと、出版されたばかりの自伝『大地よ!』を読んだ。
山の中でキノコに出合うと「キノコさん、あなたを頂いて食べさせて頂きます。そしてあなたと生きるのです」といって歌ったり、踊ったりする、と宇梶さんは書く。
私もアイヌの国会議員萱野茂さんのお宅に伺った際、女性たちと野原を歩き、「アイヌはキノコとを発見しても全部は穫らない。後の人に残しておく」と聞いて感動したことがある。
「和人は全部穫る」とは批判しなかったが、自然と人間、人間と人間同士の共生の文化は、「コロナ後」の世界にますます必要だ。
日本人に「あっ、犬が来た(アイヌが来た)」と差別され、アイスクリームの「アイ」にさえおびていたという宇梶さんが、「アイヌだ」とカミングアウトして、同胞と連絡を取り合い、六十五歳から「古布絵」(アイヌ刺繍(ししゅう))の作者として、新境地を拓(ひら)く。
「アイヌから逃げていた子どもたちが、もどってきた」。喜びの報告だ。
『東京新聞』(2020年1月1日【本音のコラム】)
今、東京の教育と民主主義が危ない!!
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