《労働情報-特集:各労組のコロナ現場報告》


 ◆ 弱小労働組合は都立病院独法化を止められるのか?
   ~コロナに翻弄される看護師書記長の毎日

 

大利英昭(都庁職病院支部書記長)


 2月21日(金)


 勤務病棟がコロナ対策のために閉鎖。それぞれのスタッフは、コロナ対応病棟を運営するために各病棟から引き抜かれたICTメンバー(感染症対策チーム)の穴を埋めのためバラバラに配属。午後、空っぽになった病棟で各病室に設置してあった手袋などを回収する。

 2月25日(火)


 朝、閉鎖された病棟のナースステーションに全員が集合する。配属先は、コロナ対応病棟、血液内科、外科病棟、HCU(ハイケアユニット)など様々。「とりあえず1月頑張ろう」と、それぞれ新しい配属先に。
 駒込病院は、それぞれの病棟は臓器別に特化していて専門性が高い。それが突然、思いもよらない診療科の病棟に配属され、スタッフのストレスは限りなく大きい。


 私はHCUへ。昼。閉鎖された病棟の休憩室にみんなが戻り昼食。話題は感染がいつまで続くのか。「これじゃオリンピックなんかできるわけないよ」と誰か。

 3月24日(火)


 東京オリンピックの延期が発表される。小池都知事が突然コロナモードに。違和感。

 3月26日(木)


 休憩室で都市伝説を聞く。「*区の病院で入院患者の呼吸状態が急激に悪化して。治療チームは当初からコロナ肺炎を疑っていたんだけどPCR検査は拒否られてた。呼吸器につないで始めてPCR検査できて陽性。感染症指定病院に転院させようとしたが、救急隊は、指定感染症患者は搬送できないって断られた。結局自分たちで手配して指定病院に搬送。付き添ってきた主治医は、自分たちのスタッフを感染から守ることもできないと悔しくて泣いてたって」

 3月27日(金)


 30日から新たにコロナ対応をする病棟に異動となる。
 日勤終了後、HCUのスタッフがお茶とお菓子で「送別会」、感謝。師長がケーキの差し入れ。いつもは食べないケーキを食べる。

 3月30日(月)
 コロナ対応病棟勤務初日。空っぽの病棟に患者さんを受け入れる。「こんにちは」と笑顔。鼻筋が痛くなるほどきつく留めたはずのN95の脇から息が漏れたような。笑顔の後に不安がよぎる。感染するかも。
 PPE(個人防護具)を身に着けていると30分ほどで汗だくになる。マニュアルに従って手袋から外していく。手はふやけてようになり指先から汗が滴り落ちる。
 コロナ病棟なので防疫手当が支給される。1日340円

 3月31日(火)


 都が「新たな病院運営改革ビジョン~大都市東京を医療で支え続けるために~」を決定する。聞こえの良いタイトルの実態は都立・公社病院の地方独立行政法人化
 感染症医療など不採算医療を担っている都立・公社病院を2年後には地方独立行政法人にするというもの。
 2年後に感染が収束している保証はない。
 今まで都立病院関係の決定は話題にするために事前にリークさせてすっぱ抜かせていたが、コロナ感染が拡大する中、今回の正式発表はひっそりと。姑息か。

 4月7日(火)


 緊急事態宣言
 やむを得ず執行委員会を中止する。
 もし自分が感染していたら病院支部執行委員会を通じて次々と都立病院に感染が。考えると戦標が走る。
 いくつかの分会が、コロナ対策の関係で新人オリエンテーションの機会を失う。痛い。

 4月8日(水)


 患者が増え続ける。N95マスクの使用制限開始。1日1個
 勤務中は、マスクを外すたびに昔駄菓子屋でくれたような茶色の紙袋に入れて保管。ビニール袋だと湿気でフィルターが目詰まりするそう。マスクの表面はウイルスで汚染されている。表面に触らないようにマスクを紙袋に滑り入れる。こんなことで感染が防げると思っている看護師はいない。
 自分のだとわかるように「だ」と袋に書く。

 4月20日(月)


 さらに患者を受け入れるために病床増。もう1病棟閉鎖される。
 こちらは閉鎖された病棟からのスタッフを受け入れ人員拡充。
 このように一般医療を制限すれば病院の収益は悪化する
 「人件費率は50%以内」の運営方針のため、収益が悪化すれば、懸命に働く職員の労働条件を切り捨てるこれが独法化
 PPEを外しながらスタッフが訊いてくる。「(独立採算では人も物資も必要なコロナ対応はできないから)独法化は止めるんでしょ」、これが現場の実感。
 都はやるつもりだよと答えると、N95が食い込んだ跡の顔を向けて「まじか……」と絶句。

 4月21日(火)


 組合員から相談。高齢の両親を介護しているので、感染が心配でコロナ病棟に勤務中は自宅に帰りたくないと。深刻。
 2週間ぶりに執行委員会。6月16日に都庁前での宣伝行動は感染予防の観点から中止。プランB検討開始。

 4月28日(火)


 「コロナ感染が収束するまで都立・公社病院の独法化の準備を凍結しろ」という要求書を衛生局支部(三多摩地区の都立病院等の組合)とともに病院経営本部に提出する。
 都立病院は精神科の松沢病院も含めてコロナ感染症の患者を受け入れている。都立病院の対応は100点満点とは言えないけれど合格点だろう。

 「医療環境が急速に変化する中でも、行政的医療の提供や都の医療政策への貢献、さらに持続可能な病院運営を行っていくためには」地方独法化が必要だという都の主張が、何の根拠もないことが今回の新型コロナ感染の拡大で明らかになった

 都立病院だったから、各病院は2から3病棟を閉鎖しコロナ感染症の受け入れを開始できた
 地方独法化されていたら、このような迅速な対応はできなかっただろう

 実際、都が2000床確保したコロナ受け入れ病床のうち、400床が都立・公社病院。
 医療従事者を励ますために都庁がブルーにライトアップされている。
 「誠実さのかけらもなく笑っている奴がいるよ隠しているその手を見せてみろよ」という歌を思い出す。

 5月12日(火)


 執行委員会で決定。「現場からの声コロナと闘う都立・公社病院忍び寄る独法化の影」を6月16日(火)21時からYOUTUBEで生配信
 出演は尾林芳匡さん(弁護士)、藤田和恵さん(ジャーナリスト)、放送中にツイッターで皆さんの意見を募集します。
 こうご期待。

『労働情報』(2020年6月)

 

 

パワー・トゥ・ザ・ピープル!! パート2

 今、東京の教育と民主主義が危ない!!
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