新型コロナ 用意周到だった台湾の学校再開
3/22(日) 10:00配信毎日新聞
新型コロナ 用意周到だった台湾の学校再開
校門で子供たちの体温を測定する教師や保護者ら=台北市中山区の長安小で2020年3月11日、福岡静哉撮影
世界各地で新型コロナウイルスの感染拡大に伴い学校の休校が相次いでいる。感染を抑え込んでいる台湾では、小中高校で通常と同様の授業を続けることができている。台湾政府は、早い段階で中国からの人の流れを止めて感染拡大を防ぐと同時に、授業再開の準備を着々と進めていた。【台北特派員・福岡静哉】
◇徹底した防疫教育と、オンライン授業の準備を並行
「36・5度、平熱ですね」
「忘れずに手を消毒しましょう」
3月11日早朝、台北市中山区の長安小学校(児童数約500人)を訪ねると、校門で教師らが児童たちのおでこに体温計を当てていた。続いて児童たちは校門を入ったところにある消毒場所で手を念入りに消毒する。体温測定は教師だけでは足りないので、保護者が交代で協力する体制だ。
校門の柱にはこんな掲示がされていた。「保護者は校内に入らないで」「訪問客はマスクをつけて体温を測定した後、手を消毒しない限り立ち入りできません」
「記者さんもお願いします」。保護者に促されて私も体温測定と消毒を済ませ、校内に進んだ。廊下に設置されたテレビには、日本でも幼児教育教材でおなじみのキャラクターが手洗いの方法を教える映像が流れていた。この映像は一日中、再生されているという。
長安小の登校ルールは、台湾政府が策定した学校での防疫に関する基準に基づいている。自宅での検温で38度以上の発熱があれば登校はできない。登校後、校門での体温測定で37・5度以上の発熱があれば、校内に用意した休憩室で待機。保護者に連絡し、病院に行くよう促す。休憩室は教室から離れた場所にあり、5人分の座席を用意してある。各座席の間は十分な間隔が空けられている。
各教室には「防疫検査表」と記した紙が張り出されている。始業前の換気と、机や学用品などの消毒▽始業前と昼食前の手洗い▽発熱やせきの有無など健康状態の確認▽食器共用の禁止▽ドアノブや水道の蛇口などをこまめに消毒――といった項目を守れているかどうかを確認し、毎日、チェックマークをつける。また児童たちは登校前と夜の体温を記録し、連絡帳に挟んで担任に毎日、提出する。長安小の厳淑珠校長は「児童たちはきちんと規則を守っています。防疫や衛生の習慣を身につけるいい機会にもなっており、子供たちの今後の人生にも有益でしょう」と指摘する。
台湾政府は2月20日、1クラスで1人が新型コロナウイルスに感染したと確認されたら学級閉鎖▽1校に2人以上の感染が14日以内に確認されたら休校――とのルールを発表した。3月20日、北部の高校が初の休校措置となった。厳校長は「万が一、学級閉鎖や休校となっても対応できるよう、オンライン授業をできる準備もしました」と話す。
◇防疫と「教育を受ける権利」の両立を図る
台湾の学校は2学期制だ。1学期は9月~旧正月前まで。冬休みを挟んで、2学期は旧正月明けから6月末まであり、2カ月にわたる長い夏休みに入る。中国で新型コロナウイルスの感染が拡大した時期、学校は冬休み中で、2月11日に2学期が始まる予定だった。台湾政府は衛生、教育の部局が緊密に連携して対応を協議。2月2日、「学校の防疫体制を整えるために時間が必要」と始業を2月25日に遅らせると発表した。2週間の間に政府はマスク、消毒液、体温計など必要な備品を各学校に配布。また学校では防疫チームを結成し、教職員への防疫指導などを行い、授業再開に備えた。
長安小では、旧正月明けの仕事始めに当たる1月30日から防疫の準備を始めた。防疫を統括する頼美雪・学務主任は「政府が早めに決定したおかげで、教職員や各家庭に防疫の方法や再開後の注意点などを伝える時間が確保できました」と言う。
また、中国大陸に帰省した子供たちの防疫にも「2週間」は効果的だったという。台湾では祖父母や両親のいずれかが中国大陸出身の子供が多い。このため1月下旬の旧正月休みに里帰りし、始業前に戻る児童が一定の割合でいる。頼主任によると、政府は学校を通じてこうした家庭に対し、なるべく授業再開の2週間前までに台湾に戻るよう求めたという。頼主任は「児童が潜伏期間の2週間を経て始業することで、リスクを十分に抑えることができた。とても賢明な対応だ」と話す。
さらに2月25日の始業前までに、IT担当職員が全生徒の海外滞在履歴や健康状態などをデータ化して全教職員で共有するシステムを整備。その後も毎日、担任を通じて情報を更新し、全児童の健康状態を完璧に把握できるよう努めている。
新型コロナウイルスのため世界各地で休校が相次ぎ、国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、3月17日現在、100カ国以上で計8億5000万人以上が学校に通えない事態となっている。全世界の子供の約半数に当たるという。ユネスコは「教育を受ける権利が損なわれる恐れがある」と警鐘を鳴らす。台湾政府は、7月初旬から始まる夏休みの開始時期を7月中旬に遅らせて2週間の授業の遅れを取り戻し、防疫と教育権の保障を両立させる方針だ。
日本では、政府による唐突な休校要請に伴い、小さな子供がいる共働き家庭や一人親家庭の対応を巡り混乱に陥った。台湾政府は伝染病予防法に基づき、子供がいる親のうち1人が2週間にわたり休暇をとれる制度を導入した。企業が親の要請を断ったり欠勤扱いにしたりすれば罰金刑を科される厳格な制度だ。とはいえ企業側にしてみれば、小さな子供がいる社員が一斉に休むと、業務が立ちゆかなくなる懸念がある。
台湾では2週間にわたり始業が遅れたが、目立った混乱は報じられていない。問題は起きなかったのだろうか。この点を長安小保護者会の劉敬文会長(42)に聞いた。劉会長は「台湾は共働き家庭が多いのでもともと『安親班』がとても多く、核家族で共働きだという家庭の多くは安親班で対応しています」と解説する。「班」は「学級」のことで、安親班は「親が安心できる学級」という意味に近い。学習塾と託児機能を兼ね備えた施設だ。政府が2日2日に始業を遅らせると発表した後、各地の安親班では防疫対策をして子供たちを受け入れた。一部ではスタッフを増員するなどして需要増に対応した。劉会長は「2週間の始業延期について保護者から苦情はありません」と話す。
◇SARSの教訓を生かした先手の対応
台湾の小学校には、日本の学校の保健室と同様の部屋があり、看護師資格を持つ職員が常駐している。長安小の学校看護師、陳美玉さんが痛感するのは、重症急性呼吸器症候群(SARS)が起きた時と比べて、政府の対応がとても信頼できるということだ。2002~03年にSARSが大流行した際、台湾でも37人が犠牲となった。
当時から長安小で学校看護師として働いている陳さんはこう振り返る。「SARSの時、政府は防疫の経験が浅かったため、走りながら対策を考え、学校現場への指示を出していた。私たち現場もどうすればいいか分からず戸惑った。しかし今回は、政府が先手先手で次々と明確な方針を打ち出し、私たちはそれに基づいて学校での防疫を実行できている。今回の政府の対応はとても周到で素晴らしく、私たち教職員は安心して防疫対策ができる」
またSARSの経験を経て、保護者を含む市民にも防疫意識が根付いたという。陳さんは「SARSの前は、市民の間にマスクをする習慣があまりありませんでした。以前は周囲をはばからずに、せきやくしゃみをする人も多くいましたが、今はかなり改善されています。社会全体の防疫意識がとても高まったと感じます」と話した。
世界保健機関(WHO)は11日、新型コロナウイルスの感染拡大について「パンデミック(世界的な大流行)」の状態だと表明した。今後もさらに感染が拡大する恐れがある。学校現場にも大きな負担がかかるだろう。台湾の取り組みから学べる教訓は多い。
■イタリア、生活必需品除く全産業の生産停止
3/22(日) 読売新聞【ローマ】
イタリアのコンテ首相は21日、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、生活必需品以外の全産業の生産活動を停止すると発表した。