たんぽぽ舎です。【TMM:No3564】【TMM:No3566】【TMM:No3568】地震と原発事故情報
▼ 安倍政権の原発輸出政策は破綻した
日立の英国原発凍結・3000億円の損失
巨額の損失を招く原発-今後は日本の原発再稼働阻止がカギ
1.中西経団連会長の原発撤退発言
1月5日の東京新聞で、『原発 国民反対なら無理』と、中西経団連会長が語り、政権との同調姿勢を転換したという記事が出た。
『経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は年初に際しての報道各社とのインタビューで、今後の原発政策について「東日本大震災から8年がたとうとしているが東日本の原発は再稼働していない。国民が反対するものはつくれない。全員が反対するものをエネルギー業者や日立といったベンダー(設備納入業者)が無理につくることは民主国家ではない」と指摘。「真剣に一般公開の討論をするべきだと思う」として、国民の意見を踏まえたエネルギー政策を再構築すべきだとの見方を示した』
この直後の17日に、日立は英国アングルシー島での「『ウィルファ・ネーウィズ』(「新しいウィルファ」の意)原発」計画から撤退(報道では「凍結」)する意向であることが報じられている。
ちなみに昨年11月には、東芝が英西部カンブリアのムーアサイド原発計画から撤退し、子会社のニュージェネレーション(NuGen)を解散すると発表していた。
これで、東芝ほどではないが、日立も巨額損失を出すことになる。
この計画撤退により子会社の「ホライズン・ニュークリア・パワー社」の「のれん代」など、約2800億円の損失が生じるとみられ、2019年3月期に2000億~3000億円規模の損失を計上する可能性が高い。2018年度の利益4000億円を食い潰し、最終利益は1000億円程度に圧縮される。
それでも黒字だから、経営への影響は小さい。
2.日立の英国原発凍結の理由は建設費の高騰
英国で建設が予定されているのはABWR2基、合計290万キロワットで柏崎刈羽原発6、7号機や浜岡原発5号機、島根原発3号機と同型とされる。
しかし建設費用はとんでもなく高い。
柏崎刈羽原発6号機が約4180億円、最新の島根原発3号機が約4240億円に対し、ウィルファ原発は二基で3兆円、3倍以上だ。
実際は、これさえ過小で、欧州委員会は4.2兆円と見積もっているという。本当に日本のABWRなのか、疑問が湧く。安全対策の設計が異なるのかもしれない。
報道では、建設出資金を日本政府・日本企業、日立、英政府・英国企業のそれぞれが3000億円ずつ出資し、残りの2兆円あまりを英政府や英国の政府系機関が融資するという枠組みだったという。
日本とは異なり、英国では新しく原発を建設する際、メーカーは電力会社に一括で建設費用を請求するわけではない。
電力会社は発電した電気料金で建設費を支払うが、その間はメーカーの「立て替え」になる。言うならば、日立が発注した原発を日立が建設し、費用は電気料金で回収する。
英国では発電所ごとの買取価格が設定され、原発は発電を開始してから35年間、買取価格が保証される。再生可能エネルギーが15年だから、優遇されている。
その上で、設定された買取価格が電力市場価格を下回る場合、発電事業者が差額を調整機関に支払い、逆に市場価格を買取価格が上回る場合、その差額は調整機関が発電事業者に対して補填を行うが、財源は「供給者義務」を通じて小売から回収される。最終的には電力料金に上乗せされて回収されるので、消費者負担となる。
赤字にならないためには、一定の額以上で電気が売れなければならない。それを日立は「メガワットあたり92.5ポンド」と見積もっていた。
そのため日立は、交渉時の価格92.5ポンド/メガワットアワー(13688円・日本風に直せば13.7円/キロワットアワーに相当)で買い取るよう英国政府に求めていた。これは現在の市場価格約50ポンドの2倍ちかくにもなる。
競争相手の再生可能エネルギーは、英国の場合、洋上風力発電だが、2013~2015年度に140ポンドだったものが2017年では60ポンドまで下がっている。
既に原発を追い越している。再生可能エネルギーは今後も下がる一方なのに、原発は逆に上振れすると考えられるから、競争力はない。
日立は損失を出した場合の被害を小さくしようと、子会社への出資比率を下げたがっている。年明け早々に中西経団連会長とメイ首相が会談したのは英国政府に出資比率を高めることを求めるためだった。
しかし既に3000億円の出資を予定している政府も、EU離脱問題を抱え大混乱に陥っている時に、出資拡大どころではない。政権の窮地に、そんな交渉を持ってこられても、まとまるはずがなかった。
2018年5月8日にメイ首相は英国政府が日立に対し、金融機関からの借入金に対し債務保証を行うことを伝えたと報じられている。これで国策原発のリスクが英国民に転嫁された。そのうえ、日本政府100%出資の国際協力銀行(JBIC)および日本貿易保険(NEXI)による融資と保証も検討されていた。これはリスクを日本国民の負担へと転嫁するものであった。
メーカーとしてはリスクの全てを日英政府にかぶせたつもりだったが、そのような意図は見え透いていた。
世界でも早い時期から原発を推進してきた英国は、核燃料サイクル・再処理事業も進めていた。
しかし現在では再処理工場も閉鎖し、原発は老朽化に伴い停止し続けている。
今では15基の原発で、880万キロワットの設備容量しかない。ちなみに日本は柏崎刈羽原発7基だけで821万キロワット。再稼働した9基で913万キロワットだ。
15基中、炭酸ガス冷却炉が14基、加圧水型軽水炉が1基、118.8万キロワットである。このままいけば2035年には最新の原発が止まり、脱原発国になる。
3.安倍政権の原発輸出政策は破綻した
安倍政権が成長戦略と位置づけた原発輸出。
しかし原発輸出を推進した東芝は、それがもとで買収したウエスチングハウスの経営破綻で巨額損失を生じ、会社そのものの存続を危うくした。
リトアニア、ベトナムはいずれも政府間での原発輸出交渉がまとまり、調印も終えた後に、リトアニアは住民投票で、ベトナムは国会決議で原発建設を中止している。
トルコでも三菱重工がフランスのフラマトムと合弁で設立したアトメア社の「アトメア1」4基を売り込んだが、当初2.5兆円から5兆円に開発費が膨らんだため三菱側が撤退することになった。
米国のサウス・テキサス・プロジェクトについては計画に参加をしていたウエスチングハウスの経営破綻から、親会社の東芝の経営危機にいたり、撤退が決定している。
なお、このプロジェクトには東電も出資をすることになっていたが、福島第一原発事故の後に撤退している。
福島第一原発事故の前から続いていた案件は台湾第四原発だが、こちらは日立製ABWRを2基建設したが、運転をしないまま凍結されている。
これら全ての原発輸出が失敗に終わったことから、現政権の責任が問われなければならない。
福島第一原発事故の後始末さえ終わらないうちから、原発輸出を推進すること自体が、国際社会に対する極めて重大な裏切り行為である。
世界中に放射性物質をまき散らした責任があるのに、依然として原発を売り続けることなど認められるはずがない。
しかし政府も経団連も、まだあきらめたわけではないようだ。これからも強力に「原発輸出を止めろ」との声を上げ続ける必要がある。
4.九州電力、玄海原発2号機が廃炉
巨額の費用に耐えられないのは日本も同じ。
2019年1月16日、時事通信などが九州電力の「玄海原発2号機の廃炉決定」と報じた。理由は「九電、玄海原発2号機の廃炉検討 対策費2000億円、採算合わず」というのだが、さらに加えるならば「発電設備の過剰」も理由だ。
九電は既に、川内原発と玄海原発合わせて4基を再稼働させている。
玄海原発2号機は55.9万キロワットで、巨額の安全対策工事費を投じても発電量は3、4号機(各118万キロワット)の半分以下でしかない
2011年1月29日から定期検査で運転を停止したまま、2021年3月には新規制基準の制限「40年」を迎える。
そのため2020年3月までに規制委に再稼働と延長運転の申請を行い、認可を得なければならず、それでも20年間延長できるだけだ。
そのうえ九電管内では、電力消費量が少ない年末年始やゴールデンウイーク、太陽光発電電力が最大になる時期の発電設備が過剰となっており、太陽光発電設備からの受電を拒否している。これも重大な問題だ。
(了)
※月刊「たんぽぽニュース」(たんぽぽ舎発行)2019年1月号No277より転載
▼ 安倍政権の原発輸出政策は破綻した
日立の英国原発凍結・3000億円の損失
巨額の損失を招く原発-今後は日本の原発再稼働阻止がカギ
山崎久隆(たんぽぽ舎副代表)
1.中西経団連会長の原発撤退発言
1月5日の東京新聞で、『原発 国民反対なら無理』と、中西経団連会長が語り、政権との同調姿勢を転換したという記事が出た。
『経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は年初に際しての報道各社とのインタビューで、今後の原発政策について「東日本大震災から8年がたとうとしているが東日本の原発は再稼働していない。国民が反対するものはつくれない。全員が反対するものをエネルギー業者や日立といったベンダー(設備納入業者)が無理につくることは民主国家ではない」と指摘。「真剣に一般公開の討論をするべきだと思う」として、国民の意見を踏まえたエネルギー政策を再構築すべきだとの見方を示した』
この直後の17日に、日立は英国アングルシー島での「『ウィルファ・ネーウィズ』(「新しいウィルファ」の意)原発」計画から撤退(報道では「凍結」)する意向であることが報じられている。
ちなみに昨年11月には、東芝が英西部カンブリアのムーアサイド原発計画から撤退し、子会社のニュージェネレーション(NuGen)を解散すると発表していた。
これで、東芝ほどではないが、日立も巨額損失を出すことになる。
この計画撤退により子会社の「ホライズン・ニュークリア・パワー社」の「のれん代」など、約2800億円の損失が生じるとみられ、2019年3月期に2000億~3000億円規模の損失を計上する可能性が高い。2018年度の利益4000億円を食い潰し、最終利益は1000億円程度に圧縮される。
それでも黒字だから、経営への影響は小さい。
2.日立の英国原発凍結の理由は建設費の高騰
英国で建設が予定されているのはABWR2基、合計290万キロワットで柏崎刈羽原発6、7号機や浜岡原発5号機、島根原発3号機と同型とされる。
しかし建設費用はとんでもなく高い。
柏崎刈羽原発6号機が約4180億円、最新の島根原発3号機が約4240億円に対し、ウィルファ原発は二基で3兆円、3倍以上だ。
実際は、これさえ過小で、欧州委員会は4.2兆円と見積もっているという。本当に日本のABWRなのか、疑問が湧く。安全対策の設計が異なるのかもしれない。
報道では、建設出資金を日本政府・日本企業、日立、英政府・英国企業のそれぞれが3000億円ずつ出資し、残りの2兆円あまりを英政府や英国の政府系機関が融資するという枠組みだったという。
日本とは異なり、英国では新しく原発を建設する際、メーカーは電力会社に一括で建設費用を請求するわけではない。
電力会社は発電した電気料金で建設費を支払うが、その間はメーカーの「立て替え」になる。言うならば、日立が発注した原発を日立が建設し、費用は電気料金で回収する。
英国では発電所ごとの買取価格が設定され、原発は発電を開始してから35年間、買取価格が保証される。再生可能エネルギーが15年だから、優遇されている。
その上で、設定された買取価格が電力市場価格を下回る場合、発電事業者が差額を調整機関に支払い、逆に市場価格を買取価格が上回る場合、その差額は調整機関が発電事業者に対して補填を行うが、財源は「供給者義務」を通じて小売から回収される。最終的には電力料金に上乗せされて回収されるので、消費者負担となる。
赤字にならないためには、一定の額以上で電気が売れなければならない。それを日立は「メガワットあたり92.5ポンド」と見積もっていた。
そのため日立は、交渉時の価格92.5ポンド/メガワットアワー(13688円・日本風に直せば13.7円/キロワットアワーに相当)で買い取るよう英国政府に求めていた。これは現在の市場価格約50ポンドの2倍ちかくにもなる。
競争相手の再生可能エネルギーは、英国の場合、洋上風力発電だが、2013~2015年度に140ポンドだったものが2017年では60ポンドまで下がっている。
既に原発を追い越している。再生可能エネルギーは今後も下がる一方なのに、原発は逆に上振れすると考えられるから、競争力はない。
日立は損失を出した場合の被害を小さくしようと、子会社への出資比率を下げたがっている。年明け早々に中西経団連会長とメイ首相が会談したのは英国政府に出資比率を高めることを求めるためだった。
しかし既に3000億円の出資を予定している政府も、EU離脱問題を抱え大混乱に陥っている時に、出資拡大どころではない。政権の窮地に、そんな交渉を持ってこられても、まとまるはずがなかった。
2018年5月8日にメイ首相は英国政府が日立に対し、金融機関からの借入金に対し債務保証を行うことを伝えたと報じられている。これで国策原発のリスクが英国民に転嫁された。そのうえ、日本政府100%出資の国際協力銀行(JBIC)および日本貿易保険(NEXI)による融資と保証も検討されていた。これはリスクを日本国民の負担へと転嫁するものであった。
メーカーとしてはリスクの全てを日英政府にかぶせたつもりだったが、そのような意図は見え透いていた。
世界でも早い時期から原発を推進してきた英国は、核燃料サイクル・再処理事業も進めていた。
しかし現在では再処理工場も閉鎖し、原発は老朽化に伴い停止し続けている。
今では15基の原発で、880万キロワットの設備容量しかない。ちなみに日本は柏崎刈羽原発7基だけで821万キロワット。再稼働した9基で913万キロワットだ。
15基中、炭酸ガス冷却炉が14基、加圧水型軽水炉が1基、118.8万キロワットである。このままいけば2035年には最新の原発が止まり、脱原発国になる。
3.安倍政権の原発輸出政策は破綻した
安倍政権が成長戦略と位置づけた原発輸出。
しかし原発輸出を推進した東芝は、それがもとで買収したウエスチングハウスの経営破綻で巨額損失を生じ、会社そのものの存続を危うくした。
リトアニア、ベトナムはいずれも政府間での原発輸出交渉がまとまり、調印も終えた後に、リトアニアは住民投票で、ベトナムは国会決議で原発建設を中止している。
トルコでも三菱重工がフランスのフラマトムと合弁で設立したアトメア社の「アトメア1」4基を売り込んだが、当初2.5兆円から5兆円に開発費が膨らんだため三菱側が撤退することになった。
米国のサウス・テキサス・プロジェクトについては計画に参加をしていたウエスチングハウスの経営破綻から、親会社の東芝の経営危機にいたり、撤退が決定している。
なお、このプロジェクトには東電も出資をすることになっていたが、福島第一原発事故の後に撤退している。
福島第一原発事故の前から続いていた案件は台湾第四原発だが、こちらは日立製ABWRを2基建設したが、運転をしないまま凍結されている。
これら全ての原発輸出が失敗に終わったことから、現政権の責任が問われなければならない。
福島第一原発事故の後始末さえ終わらないうちから、原発輸出を推進すること自体が、国際社会に対する極めて重大な裏切り行為である。
世界中に放射性物質をまき散らした責任があるのに、依然として原発を売り続けることなど認められるはずがない。
しかし政府も経団連も、まだあきらめたわけではないようだ。これからも強力に「原発輸出を止めろ」との声を上げ続ける必要がある。
4.九州電力、玄海原発2号機が廃炉
巨額の費用に耐えられないのは日本も同じ。
2019年1月16日、時事通信などが九州電力の「玄海原発2号機の廃炉決定」と報じた。理由は「九電、玄海原発2号機の廃炉検討 対策費2000億円、採算合わず」というのだが、さらに加えるならば「発電設備の過剰」も理由だ。
九電は既に、川内原発と玄海原発合わせて4基を再稼働させている。
玄海原発2号機は55.9万キロワットで、巨額の安全対策工事費を投じても発電量は3、4号機(各118万キロワット)の半分以下でしかない
2011年1月29日から定期検査で運転を停止したまま、2021年3月には新規制基準の制限「40年」を迎える。
そのため2020年3月までに規制委に再稼働と延長運転の申請を行い、認可を得なければならず、それでも20年間延長できるだけだ。
そのうえ九電管内では、電力消費量が少ない年末年始やゴールデンウイーク、太陽光発電電力が最大になる時期の発電設備が過剰となっており、太陽光発電設備からの受電を拒否している。これも重大な問題だ。
(了)
※月刊「たんぽぽニュース」(たんぽぽ舎発行)2019年1月号No277より転載