▲ 国連人権機関の勧告に強硬姿勢で臨む日本政府 (出版労連 教科書レポート)
-子どもの権利条約第4・5回政府報告で教科書検定制度とその実態を正当化-
▲ 拒否と開き直りの政府報告
本誌前号で、国連人権理事会特別報告で、デヴィッド・ケイ特別報告者が日本の教科書検定制度の問題点を指摘し、是正を勧告したことを報告した。その後、昨2017年6月、日本政府は子どもの権利条約第4・5回報告(以下「報告」)を国連子どもの権利委員会(以下「委員会」)に提出した。教科書検定制度にも言及している。
報告は、全体として、第3回報告に対する委員会の総括所見(以下「総括所見」。外務省仮訳では「最終見解」)に対する反論と拒否に加え、開き直りという表現が相応しい内容であった。有り体にいえば、委員会に「喧嘩を売った」といえるような内容である。
「総括所見」では、全91パラグラフ(パラ)中、「歓迎」(文字どおりの「外交辞令」も含めて)を示したものが5、「留意」「懸念」「勧告」が83に上る。
たとえば「高度に競争的な学校環境」(パラ70)の是正勧告に対し、こう述べて開き直っている。
日本政府のいう「グローバル化」の中には、人権のグローバル化は含まれていないらしい。
▲ 教科書検定は正しい、問題記述は発行者の責任
教科書については、「総括所見」はパラ74、75で述べていた。「報告」はこれに反論して、パラ128で述べている。長くなるが、正確を期すため、全文引用することにする。
▲ 出版労連、委員会に情報を提供して反論
この政府報告があまりに教科書検定の実態とかけ離れているため、出版労連は国際人権活動日本委員会を通じて委員会に情報提供を行った。その要点は次のとおりである(原文は英語)。
(1)検定制度の実際と問題点の紹介
①教科書記述は「法的拘束力を有する」とされる学習指導要領に適合していなければならないこと、
②そのために検定が行われ、合格しなければ教科書として発行できないこと、
③その検定に実質的にあたっているのは文部科学省の職員である教科書調査官であるため中立性を欠いていること、
④検定基準には「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」という条項が存在すること、など。
(2)実際に直近の検定で、関東大震災後に引き起こされた日本人による中国人・朝鮮人の虐殺被害者数、南京虐殺事件の虐殺被害者数を原記述より少なくさせる、中国や韓国との間に領土問題は存在しないと記述を変更させたなどの実例がある。
(3)これらは、子どもの権利条約第13条、第14条、第17条などに違反している。
(4)よって検定制度の是正を総括所見で日本政府に勧告するよう貴委員会に要請する。
▲ 政府報告の中の教科書
過去の政府報告では、教科書はどう扱われてきたのか、また委員会は総括所見でどう応じてきたのかは下表(略)をご覧いただきたい。
第1回報告では、言及したのは無償措置のみだった。
第2回報告は、教科書に言及しなかったが、総括所見では「検定手続きの強化」としている。これは歴史修正主義的な記述を排除すべきだということであって、表現の自由を侵害するような政府の統制を強化せよという意味ではない。
いずれにしても、第4・5回報告と合わせて、次第に教科書への言及が増えてきていることは見て取れよう。
現時点では、総括所見の発表がいつになるかは不明だが、あえて喧嘩を売った以上、厳しい批判がなされる可能性大である。
こうした強硬姿勢は、安倍政権になってから顕著になっている。国連の人権諸機関の勧告を無視し続けることは、それこそ「国益に反する」のではないだろうか。
『出版労連 教科書レポート No.61』(2018)
-子どもの権利条約第4・5回政府報告で教科書検定制度とその実態を正当化-
▲ 拒否と開き直りの政府報告
本誌前号で、国連人権理事会特別報告で、デヴィッド・ケイ特別報告者が日本の教科書検定制度の問題点を指摘し、是正を勧告したことを報告した。その後、昨2017年6月、日本政府は子どもの権利条約第4・5回報告(以下「報告」)を国連子どもの権利委員会(以下「委員会」)に提出した。教科書検定制度にも言及している。
報告は、全体として、第3回報告に対する委員会の総括所見(以下「総括所見」。外務省仮訳では「最終見解」)に対する反論と拒否に加え、開き直りという表現が相応しい内容であった。有り体にいえば、委員会に「喧嘩を売った」といえるような内容である。
「総括所見」では、全91パラグラフ(パラ)中、「歓迎」(文字どおりの「外交辞令」も含めて)を示したものが5、「留意」「懸念」「勧告」が83に上る。
たとえば「高度に競争的な学校環境」(パラ70)の是正勧告に対し、こう述べて開き直っている。
123.なお、仮に今次報告に対して貴委員会が「過度の競争に関する苦情が増加し続けていることに懸念をもって留意する。委員会はまた、高度に競争的な学校環境が、就学年齢にある児童の間で、いじめ、精神障害、不登校、中途退学、自殺を助長している可能性がある」との認識を持ち続けるのであれば、その客観的な根拠について明らかにされたい。新学習指導要領総則(義務教育・高校とも)では「グローバル化」への対応を基調の一つとしているが、実際の対応はこのような強硬姿勢で、いわば国連に「喧嘩を売った」に等しい。
日本政府のいう「グローバル化」の中には、人権のグローバル化は含まれていないらしい。
▲ 教科書検定は正しい、問題記述は発行者の責任
教科書については、「総括所見」はパラ74、75で述べていた。「報告」はこれに反論して、パラ128で述べている。長くなるが、正確を期すため、全文引用することにする。
128.(最終見解パラグラフ74、75)我が国で小・中・高等学校等の教科書について採用ざれている教科書検定制度は、国が特定の歴史認識、歴史事実を確定するという立場に立って行うものではなく民間が著作・編集した図書の具体の記述について、政府外の有識者をメンバーとする教科用図書検定調査審議会が、検定の時点における客観的な学問的成果や適切な資料等に照らして、明らかな誤りや著しくバランスを欠いた記述などの欠点を指摘することにより実施されている。900字以上を費やして主張しているのは、要するに、教科書検定はまったく正しいものであり、問題のある記述はすべで発行者に責任があるということにすぎない。これがいかに事実を偽っているかは、誰の目にも明らかだろう。
その際、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うことを目標に掲げる教育基本法や、近隣のアジア諸国との国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がなされていること等を内容とする教科用図書検定基準等に基づいて審査が行われている。
そのため、「日本の歴史教科書が、歴史的事件に関して日本の解釈のみを反映しているため、地域の他国の児童との相互理解を強化していない」との懸念は当たらない。
日本政府としては、歴史教育の適切な実施等を通じて、児童生徒が我が国及び世界に対する理解を深めるよう努力するとともに、近隣諸国をはじめ諸外国との相互理解、相互信頼の促進に努めている。
▲ 出版労連、委員会に情報を提供して反論
この政府報告があまりに教科書検定の実態とかけ離れているため、出版労連は国際人権活動日本委員会を通じて委員会に情報提供を行った。その要点は次のとおりである(原文は英語)。
(1)検定制度の実際と問題点の紹介
①教科書記述は「法的拘束力を有する」とされる学習指導要領に適合していなければならないこと、
②そのために検定が行われ、合格しなければ教科書として発行できないこと、
③その検定に実質的にあたっているのは文部科学省の職員である教科書調査官であるため中立性を欠いていること、
④検定基準には「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」という条項が存在すること、など。
(2)実際に直近の検定で、関東大震災後に引き起こされた日本人による中国人・朝鮮人の虐殺被害者数、南京虐殺事件の虐殺被害者数を原記述より少なくさせる、中国や韓国との間に領土問題は存在しないと記述を変更させたなどの実例がある。
(3)これらは、子どもの権利条約第13条、第14条、第17条などに違反している。
(4)よって検定制度の是正を総括所見で日本政府に勧告するよう貴委員会に要請する。
▲ 政府報告の中の教科書
過去の政府報告では、教科書はどう扱われてきたのか、また委員会は総括所見でどう応じてきたのかは下表(略)をご覧いただきたい。
第1回報告では、言及したのは無償措置のみだった。
第2回報告は、教科書に言及しなかったが、総括所見では「検定手続きの強化」としている。これは歴史修正主義的な記述を排除すべきだということであって、表現の自由を侵害するような政府の統制を強化せよという意味ではない。
いずれにしても、第4・5回報告と合わせて、次第に教科書への言及が増えてきていることは見て取れよう。
現時点では、総括所見の発表がいつになるかは不明だが、あえて喧嘩を売った以上、厳しい批判がなされる可能性大である。
こうした強硬姿勢は、安倍政権になってから顕著になっている。国連の人権諸機関の勧告を無視し続けることは、それこそ「国益に反する」のではないだろうか。
『出版労連 教科書レポート No.61』(2018)