第11回公判 2018年5月9日
「対策とれば事故起きず」地震本部 元部会長が証言
福島第一原発の事故をめぐり、東京電力の旧経営陣3人が強制的に起訴された裁判で、原子力規制委員会の元委員の島崎邦彦氏が証人として呼ばれました。島崎氏は、事故の9年前、政府機関の部会長として福島県沖の地震の可能性を公表したことに触れ、「これに基づいて対策をとっていれば原発事故は起きなかった」と述べました。
東京電力の元会長の勝俣恒久被告(78)、元副社長の武黒一郎被告(72)、元副社長の武藤栄被告(67)の3人は、原発事故をめぐって業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴され、いずれも無罪を主張しています。
9日、東京地方裁判所で開かれた11回目の審理では、原子力規制委員会の元委員で地震学者の島崎邦彦氏が証言しました。
島崎氏は、事故の9年前、平成14年に、政府の地震調査研究推進本部で部会長を務め、福島県沖を含む三陸沖から房総沖にかけて30年以内に20%の確率で巨大地震が発生するという「長期評価」を公表していました。
島崎氏は、法廷で、「長期評価」の信頼性について問われると、当時、部会の専門家の間で、信頼性を否定するような議論はなかったと証言しました。さらに、「長期評価」を災害対策に生かすよう国の中央防災会議で主張したものの反映されなかったと説明したうえで、「『長期評価』に基づいて対策をとっていれば、原発事故は起きなかった」と述べました。
一方、被告側の元会長ら3人は「『長期評価』には専門家の間で異論があった」として、津波は予測できなかったと主張しています。
島崎氏は、次回の今月29日にも証言する予定です。
島崎氏「『長期間地震が起きていない』も重要な情報」
法廷で証言した原子力規制委員会の元委員で地震学者の島崎邦彦氏は、平成14年に三陸沖から房総沖のどこでも大津波を伴う地震が起きるとする長期評価をまとめた理由について詳しく説明しました。
島崎氏は当時、地震調査研究推進本部の委員で長期評価を取りまとめた際、大津波を伴う地震などを評価する部会長を務めていました。
島崎氏は大地震は基本的にほぼ同じ場所で同じような地震が繰り返し起こるものだと説明したうえで、三陸沖から房総沖までの日本海溝では、海側の太平洋プレートが陸側のプレートの下に潜り込む構造をしていることからこの領域ではどこでも同じような地震が発生する環境にあると述べました。
長期評価を公表する際、防災対策を検討する内閣府の担当者から、「400年の間、福島県沖では津波が起きておらず、地震が起きることは保証できるのか」と指摘されたことを明らかにし、これに対し島崎氏は、「地震が起きていないということは全く起きないか、繰り返す間隔が長いかのどちらかだが、都合よく福島県沖だけ起きないということはない」と述べ、指摘は科学的なものではなかったという考えを示しました。
そのうえで、島崎氏は、東日本大震災では、大津波を発生させた地震の一部は福島県沖でも発生していたことに触れ、「地震が起きるべきところで400年間起きていないのは、次に起きるということで、地震が起きていないというのも重要な情報だ」と証言し、まだ起きていないところに断層があると仮定して被害を想定し、防災対策を取るべきだったと述べました。
詳報 第11回公判
福島第一原発の事故は、防げたのではないかー。
原子力規制委員会の委員も務めた地震の専門家の発言に、法廷は静まりかえりました。
11回目の審理で証言に立ったのは、島崎邦彦氏。地震学の第一人者で、日本地震学会の会長などを歴任し、平成26年まで原子力規制委員会の委員も務めました。
島崎氏は、かつて、政府の地震調査研究推進本部の専門家の部会で、地震の発生確率などを推計し、「長期評価」として取りまとめていました。
島崎氏が関わった平成14年の「長期評価」は、福島県沖を含む三陸沖から房総沖にかけての領域で30年以内に20%の確率でマグニチュード8クラスの巨大地震が発生するという内容でした。
裁判では、東京電力がこの「長期評価」に基づいて津波対策をとっていれば事故を防げたかどうかが大きな焦点となっています。
被告側の元会長など3人は、「『長期評価』には専門家の間で異論があった」として、その信頼性を争っています。
この日の法廷では、「長期評価」を取りまとめた本人がどう証言するのか、注目が集まりました。
島崎氏は、部会の専門家の間ではさまざまな意見が出たものの、信頼性を否定するような議論はなく、最終的にまとまった内容についても異論は出なかったと証言しました。 また、部会のメンバーは地震に詳しい専門家ばかりで、自分自身も「長期評価」の考え方は正しいと思っていたと述べました。
当時、島崎氏が疑問を感じたのは、防災を所管する内閣府の対応だったといいます。
平成14年に「長期評価」を公表する直前、内閣府の担当者から、メールが届きました。島崎氏の証言によると、メールには、「長期評価」について、「非常に問題が大きいので公表すべきでない」といった趣旨のことや、「もし公表するのであれば、信頼度の低い部分があることを記載すべきだ」といった内容が書かれていたということです。
島崎氏は、「圧力がかかった」という表現を使い、内閣府が求めていた説明文を付け加えるなら公表しないほうがよいと考え、最後まで反対していたことを明かしました。
さらに、内閣府に設置された中央防災会議の対応にも疑問を呈しました。島崎氏は、中央防災会議の専門委員として、「長期評価」を生かして対策を進めるよう主張しましたが、その意見は受け入れられなかったといいます。
法廷でその理由を尋ねられると、自分の想像だと断った上で、「中央防災会議の中には原子力施設の審査に関わっていた人もいて、10メートルを超える津波が来る可能性を指摘した『長期評価』は取り入れない方向にしたのではないか」と述べました。
「長期評価」公表の9年後。
東日本大震災が起き、東北や関東の沿岸に高さ10メートルを超える津波が押し寄せました。福島第一原発では3基の原子炉でメルトダウンが起きるという世界最悪レベルの事故が発生しました。
島崎氏は「『長期評価』に基づいて対策をとっていれば、何人もの命が救われ、原発事故も起きなかった」とはっきりとした口調で述べました。
そして、事故が起きたとき、自分を責めたことを明かしました。
その大きな理由は、震災の2日前、平成23年3月9日に公表される予定だった新たな「長期評価」について、公表の延期を了承していたことだったといいます。新たな「長期評価」は、平安時代に東北地方を襲った「貞観津波」の研究などをもとに、東北地方では内陸まで津波が押し寄せる可能性があると指摘する内容でした。
島崎氏は、公表が延期されたのは、事前に電力会社などに説明する必要があるという理由だったと証言しました。そして、「公表を延期したことで何人の命が救われなかったのかと自分を責めた。私に責任の一端があると思った」と述べました。
島崎氏の証言は夕方まで続き、今月29日に開かれる次回の公判でも引き続き質問が行われます。
大きな焦点となっている地震の「長期評価」。
その公表を受けてすぐに対策をとるべきだったのかどうか、今後の証言にさらに注目が集まりそうです。
今後の公判日程
5月 29日(火) 30日(水)
6月 1日(金) 12日(火) 13日(水) 15日(金)
7月 6日(金) 11日(水) 24日(火) 25日(水) 27日(金)
時間はいずれも午前10時からです。
第10回公判 2018年5月8日
福島県沖含む地震評価の担当者が証言
福島第一原発の事故をめぐり、東京電力の旧経営陣3人が強制的に起訴された裁判で、事故の9年前に福島県沖の地震の発生確率を取りまとめた政府機関の担当者が、当時の議論などについて証言しました。
「『長期評価』は防災対策上の危険度示す」
法廷で証言した気象庁の職員は、地震調査研究推進本部の役割について、「平成7年に起きた阪神・淡路大震災の教訓から今後の地震をめぐってさまざまな学者の意見があるのに対し、地震活動を客観的に学術的に評価し、国として一元的な見解を示すものだ」と説明しました。
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第9回公判 2018年4月27日
「地震予測 切迫感持っていなかった」元社員証言
福島第一原発の事故をめぐり、東京電力の旧経営陣3人が強制的に起訴された裁判で、当時、東京電力で津波対策の部署を統括する立場だった元社員が前回に続いて証言しました。元社員は、巨大な津波を伴う地震の予測が公表されていたものの、切迫感を持っていなかったと証言しました。
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第8回公判 2018年4月24日
「巨大津波の想定は信頼性低い」元社員が証言 東電刑事裁判
福島第一原発の事故をめぐり東京電力の旧経営陣3人が強制的に起訴された裁判で、当時、東京電力で津波対策の部署を統括する立場だった元社員が証言しました。元社員は、事故の3年前に社内でまとめられた巨大な津波の想定は信頼性が低いと考えていたと証言しました。
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第7回公判 2018年4月17日
「津波想定もとに防潮壁作っても浸水」東電社員証言
福島第一原発の事故をめぐり東京電力の旧経営陣3人が強制的に起訴された裁判で、東京電力の津波対策の担当者が先週に続いて証言しました。担当者は、事故の3年前にまとめた津波の想定をもとに防潮壁を作っていたとしても、浸水は防げなかったと説明しました。
告訴団「生々しい証言 立証の要に」
東京電力の旧経営陣3人が強制的に起訴されるきっかけとなった告訴や告発をしたグループは、審理が終わった後、会見を開きました。
3回の証人尋問 「現場と幹部の温度差」
第6回公判 2018年4月11日
巨大津波想定「『無視』に専門家から厳しい指摘」東電社員証言
福島第一原発の事故をめぐり東京電力の旧経営陣3人が強制的に起訴された裁判で、東京電力の津波対策の担当者が前日に続いて証言しました。担当者は、事故が起きる前に巨大な津波を伴う地震の可能性が指摘されていたことについて、「複数の専門家から、『無視するなら証拠を示す必要がある』という厳しい指摘を受けていた」と証言しました。
平安時代の「貞観津波」めぐる対応を証言
11日の裁判で東京電力の社員は、平安時代の869年に東北地方に押し寄せた「貞観津波」の研究の成果を福島第一原発の津波の想定に反映させるかどうか、東北電力との間で水面下の調整が行われていたことを証言しました。
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詳報 第6回公判
第5回公判 2018年4月10日
巨大津波の想定「元副社長の方針は予想外」社員が証言
福島第一原発の事故をめぐり東京電力の元副社長ら3人が強制的に起訴された裁判で、東京電力の津波対策の担当者が証人として呼ばれました。担当者は、巨大な津波が来るという想定を事故の3年前に報告したものの、元副社長から、さらに時間をかけて検討するという方針を告げられ、「予想外で力が抜けた」と証言しました。
告訴団「最も重要な証言」
東京電力の旧経営陣3人が強制的に起訴されるきっかけとなった告訴や告発を行ったグループは、10日の審理の後、会見を開きました。
長期評価「津波想定に取り入れるべき」と証言
法廷で証言した東京電力の社員は、福島第一原発の事故の20年近く前から原発に押し寄せると想定される津波の高さについての検討などに関わっていました。
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第4回公判 2018年2月28日
「『津波想定小さくできないか』と東電が依頼」グループ会社社員
第4回公判ではグループ会社の社員が証人として呼ばれました。社員は、事故の3年前に巨大な津波の想定をまとめた際、東京電力の担当者から「計算の条件を変えることで津波を小さくできないか」と検討を依頼されたことを証言しました。
津波想定 責任者の証言は…
法廷で証言した「東電設計」の社員は福島第一原発に押し寄せると想定される津波の高さを計算した責任者でした。
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第3回公判 2018年2月8日
被告側弁護士「防潮堤建設しても事故防げず」証拠提出
被告側の弁護士が防潮堤を建設していたとしても事故を防げなかったとするシミュレーションの結果などを証拠として提出しました。
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第2回公判 2018年1月26日
東電社員「巨大津波予測できず」公判で証言
およそ半年ぶりに再開された裁判で、東京電力の社員が、事故の3年前に幹部が参加した会議で巨大な津波の可能性を示す試算が報告されていたと証言しました。一方で、「試算には違和感をおぼえた」と述べ、津波は予測できなかったと説明しました。
東京電力の事故調査報告書とは
東京電力は、事故を起こした当事者として社員およそ600人からの聞き取りや、現場での調査などをもとに対応や経緯などを検証し、事故の翌年に「福島原子力事故調査報告書」をまとめました。報告書では、事故の原因について「津波想定は結果的に甘さがあったと言わざるを得ず、津波に対抗する備えが不十分であったことが今回の事故の根本的な原因」と結論づけています。
詳報 第2回公判
今後の公判日程
初公判 2017年6月30日
原発事故 東電旧経営陣3人 初公判で無罪主張
東京電力の旧経営陣3人が、原発事故をめぐって強制的に起訴された裁判が始まり、3人は謝罪したうえで「事故は予測できなかった」として無罪を主張しました。一方、検察官役の指定弁護士は、事故の3年前に東電の内部で津波による浸水を想定し、防潮堤の計画が作られていたとして対策が先送りされたと主張しました。
津波対策めぐるやり取り 一部明らかに
初公判では、東京電力の社内で津波対策をめぐって交わされたメールなどの具体的なやり取りの一部が明らかにされました。
指定弁護士(検察官役)が指摘したこと
検察官役の指定弁護士は、東京電力の社内で開かれた会議の議事録や津波対策の担当者がやり取りしたメールなど新たな証拠を示し、3人は事故の前に津波を予測できたのに津波への対策を取らなかったと主張しました。
旧経営陣の反論
東京電力の旧経営陣3人は、当時の津波の想定では事故が起きることを予測できなかったと反論しました。
福島原発告訴団「無罪主張に疑問」
東京電力の旧経営陣の告訴や告発を行った「福島原発告訴団」の団長の武藤類子さんは裁判の後で会見を開きました。
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「事故の真相知りたい」 遺族の思い
原発事故から避難する途中で亡くなった被害者の遺族は、「事故の真相を知りたい」と願っています。
指定弁護士 冒頭陳述 全内容
問われているもの
福島第一原子力発電所の概要等
非常用電源設備等の設置状況
福島第一原子力発電所における事故の経過
本件事故の原因
事業者の注意義務
被告人らの立場とその責任
本件の争点
国による津波防災対策
文部科学省地震調査研究推進本部による長期評価の公表
社団法人土木学会による「重み付けアンケート」
内部溢水・外部溢水勉強会の開催と報告
原子力安全・保安院による「耐震バックチェック」の指示と東京電力の津波対策
想定津波水位の計算結果とこれに対する被告人らの対応
土木学会第3期、第4期津波評価部会における検討
福島地点津波対策ワーキング会議の開催
長期評価の改訂
原子力安全、保安院による東京電力に対するヒアリング
まとめ
旧経営陣弁護側 冒頭陳述 全内容
3人の共通の主張
勝俣元会長の主張
武黒元副社長の主張
武藤元副社長の主張
基礎知識
最大の争点は「津波の予測」
裁判では、原発事故を引き起こすような巨大な津波を事前に予測することが可能だったかどうかが最大の争点になります。
旧経営陣3人の立場と関与は
検察審査会の議決によって強制的に起訴された東京電力の旧経営陣3人は、いずれも津波対策を判断する上で極めて重要な立場にいました。
検察が不起訴にした理由は
検察は平成25年9月、告訴・告発されていた旧経営陣全員を不起訴にしました。どのような理由だったのでしょうか。
検察審査会の判断のポイントは
検察審査会は、平成27年7月、原発事故が起きる前の東京電力が経営のコストを優先する反面、原発事業者としての責任を果たしていなかったと結論づけました。
東電内部資料「津波対策は不可避」
東京電力が行っていた津波の試算は、別の民事裁判で当時の内部資料が提出され、具体的な内容が明らかになっています。
事故調からも厳しい指摘
東京電力福島第一原子力発電所の事故をめぐっては、政府や国会などさまざまな組織で検証が行われ、津波への対応について「対策を立てる機会があった」とか「不十分だった」などと指摘しています。
民事裁判では「予測可能」の判断も
原発事故をめぐる民事裁判では、裁判所が「東京電力は津波を予測できた」と判断したケースもあります。
強制起訴 きっかけは1万人の告訴・告発
東京電力の元会長ら3人が強制的に起訴されたきっかけは、福島県の住民などによる告訴や告発でした。
年表
原発事故 強制起訴をめぐる動き
平成14年(2002) 7月
政府の地震調査研究推進本部 長期評価 公表
福島県沖含む日本海溝沿いで30年以内にM8クラスの地震が20%程度の確率で発生する可能性があると予測
平成20年(2008) 3月
東京電力 福島第一原発の敷地に最大で15.7メートルの津波が押し寄せるという試算をまとめる
6月
東京電力 最大15.7メートルの津波試算を武藤副社長に報告
7月
武藤副社長
津波対策を保留 さらに時間をかけて専門の学会に検討を依頼するという方針を示す
平成23年(2011) 3月
東日本大震災 福島第一原発事故発生
平成24年(2012) 6月
福島県の住民グループなどが東京電力旧経営陣などの刑事責任を問うよう求める告訴・告発状を検察当局に提出
平成25年(2013) 9月
東京地検 東京電力旧経営陣など40人余りを全員不起訴処分
10月
住民グループ 旧経営陣6人に絞り検察審査会に審査申し立て
平成26年(2014) 7月
検察審査会 勝俣元会長ら3人を「起訴すべき」と1回目の議決
平成27年(2015) 1月
東京地検 改めて3人を不起訴処分
7月
検察審査会 3人を「起訴すべき」と2回目の議決
8月
裁判所 指定弁護士を選任
平成28年(2016) 2月
指定弁護士 3人を業務上過失致死傷罪で起訴
平成29年(2017) 6月
勝俣元会長ら3人の初公判
平成30年(2018) 1月
第2回公判 証人尋問(東京電力社員)
平成30年(2018) 2月
第3回公判 追加証拠提出
第4回公判 証人尋問(東電設計社員)
平成30年(2018) 4月
第5回公判 証人尋問(東電社員 津波対策担当)
第6回公判 証人尋問(東電社員 津波対策担当)
第7回公判 証人尋問(東電社員 津波対策担当)
第8回公判 証人尋問(東電元社員 津波対策統括)
第9回公判 証人尋問(東電元社員 津波対策統括)
平成30年(2018) 5月
第10回公判 証人尋問(地震調査研究推進本部 元事務局職員)
第11回公判 証人尋問(地震調査研究推進本部 元部会長)