シェアハウス投資集団訴訟 旗振り役の銀行に責任はないのか〈AERA〉

シェアハウスの融資をめぐる構図(AERA 2018年4月9日号より)

「賃料保証」をうたって億単位のカネを借りさせ、割高な物件を買った途端に賃料を払わなくなる。そんなトラブル続出のシェアハウス投資。推進した銀行の責任は──。

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 東京地裁に近く提出される陳述書に、気になるセリフが盛り込まれている。

「銀行の担当者も承知している。形式的なことだから大丈夫です」

 昨年春に自己資金ゼロでシェアハウスを買った会社員男性(45)が、仲介業者の従業員にそう言われた、と書いたものだ。融資審査の申込時に「通帳コピーの残高を多くする」と言われ、「まずくない?」と心配したときに言われたという。

 物件は今年2月に完成したが、保証された賃料は一度も受け取れず、空っぽのシェアハウスと億単位の借金が手元に残った。不正を持ちかける業者ならすぐ断るべきだったが、男性は「銀行も知っているならいいか」と鵜呑みにしたという。

 この男性を含む30~50歳代の会社員ら計13人が3月27日、計約2億円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。約700人に保証した家賃支払いを一方的に打ち切った不動産会社スマートデイズに加え、フューチャーイノベーションなどの勧誘業者も相手取った。原告全員がスルガ銀行で融資を受け、うち2人はフューチャー社に渡した通帳コピーなどの改竄で貯金や年収などが水増しされていた、と主張している。

 資料改竄についてフューチャー社の社長に電話で聞いたところ、「そういうことは回答を控えます」と電話を切られた。

 スルガ銀はこれまでの取材に「不正に行員が関与した事実は確認していない」と回答している。

 不正を誰が主導し、どう行われたかはまだ不明で、冒頭の発言も、顧客を納得させるための方便だった可能性がある。

 ただ、原告代理人の加藤博太郎弁護士は、

「融資資料の改竄を見逃し、割高な不動産物件への投資に融資した銀行の責任も大きい。関与の程度が濃いとわかれば法的措置を検討する」

 と話す。

そのスルガ銀がシェアハウスへの融資に積極的だったことが、明らかになってきた。

 静岡県沼津市に本店を置くスルガ銀は、地銀の中でも異色の存在だ。全国に133店舗を構え、個人向けローンや不動産融資に注力して収益を向上。メガバンク並みの高給を誇り、金融庁の森信親長官が昨年5月の講演で名前を挙げて高評価したことも話題になった。

 複数の関係者によれば、スマート社とは2012年からの付き合いだ。当初は中古ワンルームに2段ベッドを詰め込み、5年の「家賃保証」をつけて売り出した。会社員を誘い、スルガ銀がお金を貸すビジネスモデルはこの頃から育まれていた。

 13年にスマート社は国土交通省からマンション・シェアハウスの違法性を指摘され、土地を仕入れて法令上の「寄宿舎」を建てて売るビジネスに転換。融資額は億単位に膨らみ、賃料保証も30年に延びたが、スルガ銀は「融資役」を担い続けた。銀行の支店内でシェアハウス投資のセミナーを開くこともあったという。

 スマート社のシェアハウスは17年末までに計約1千棟、約700人の顧客を集めた。類似業者も次々参入し、それぞれが数十~100棟ほど物件を売りさばいたが、多くは年明けまでに行き詰まった。大半のオーナーがスルガ銀で億単位の金を借りており、返済猶予などの交渉をするうち、貯蓄や年収を偽った融資資料が次々と発覚。金融庁も銀行法にもとづく報告徴求命令を出し、詳しい事情の説明を求めている。

 会社員らを勧誘した不動産業者からは「スルガ銀の行員に勧められてシェアハウスを売り始めた」「行員からスマート社を紹介された」といった証言も聞かれる。スルガ銀は取材に「(詳細は)把握していないが、現在調査を行っている」と回答した。

 ブーム拡大の一翼を担った銀行として、不正行為がこれほど横行した理由や責任の所在について明らかにすべきだ。(朝日新聞記者・藤田知也)

※AERA AERA 2018年4月9日号