メガバンクが相次ぎリストラ計画を公表
金融・労働研究ネットワーク 田中均
決算説明におけるリストラ計画の概要
メガバンクのリストラ計画が相次いで報じられています
たとえば「日経」は 10 月 28日に「みずほフィナンシャルグループ(FG)など3メガバンクが大規模な構造改革に乗り出す。
デジタル技術による効率化などにより、単純合算で 3.2 万人分に上る業務量を減らす」(電子版)とし、朝日新聞は 10 月 29 日朝刊で「三菱 UFJ 銀店舗 2 割減へ メガ銀、進む業務削減」「3 メガ銀 スリム化急ぐ 低金利・人口減 収益頭打ち」と報じています。
その背景に何があるのか。「日経」系のインターネットサイト NIKKEI STYLE は「銀行大リストラで激震!」という記事で①「『マイナス金利」説』=マイナス金利の長期化や人口減など国内銀行業務の「構造不況化」、②「AI 変革説」=AI やフィンテックなど技術革新で銀行業務そのものが消滅しつつある、③「仮想通貨」説=ビットコインなどの仮想通貨の進展で伝統的な銀行は致命的なダメージを受ける、などの 3 要因をあげています。
現在金融機関が直面している問題を念頭に、今回浮上してきたリストラ計画を検討するなら、①の国内銀行業務の「構造不況化」=長期化する超低金利政策と地域経済の停滞が直接的な要因であり、AI(人工知能)を含む IT(情報技術)の活用でリストラを進めようとしているとみるべきです。
メガバンクの中間決算説明資料を見ると、三菱UFJフィナンシャルグループでは国内516 店舗のうち 2023 年度までに 70~100 店舗を「機械化店舗(仮称)」に転換し、「税金」「公共料金」「依頼書による振り込み」の受け付け機能を備えた ATM=STM(ストア・テラー・マシーン)の導入拡大など、これまでテラーが窓口で対応してきた業務を機械対応に切り替えていく。 RPA=ロボティクス(ロボティクス・プロセス・オートメーション)の活用を住宅ローンの書類点検そのほかに適用拡大する。などによって 9500 人分相当の業務量を削減し、6000 名程度の人員削減を行うとしています。
三井住友フィナンシャルグループは RPA=ロボティクスの活用で今年度 100 万時間(500人分)、3 年間で 300 万時間(1500 人分)の業務を削減、リテール(小口取引)店舗改革など合わせて 4000 人分の業務量を削減するとし、みずほフィナンシャルグループは2024 年度末までに、グループの銀行・信託・証券会社の営業拠点約 500 のうち 100拠点を削減し、2026年度末までに従業員 7 万 9 千人のうち約 1 万 9 千人を削減するとしています。
この 3 メガバンクグループのリストラ計画を評して、11 月 15 日付けの「日経」は三菱UFJと三井住友を「業務量削減派」とし、みずほを「人員削減派」として区別。その違いの理由として 17 年 4 月~9 月期でみずほだけが最終減益となり「決算に合わせて構造改革を打ち出す必要に迫られていた」という「金融庁幹部」のコメントを紹介しています。業務量削減派か人員削減派かはともかく、メガバンクが情報技術や人工知能の活用を表面に押し出しつつ、リストラを進めようとしていることは明らかです。
このリストラで影響を受けるのは銀行に働く人々の中でどのグループなのか。金融労働運動の基本的な対応はどうあるべきか。それを検討するためにも、これまでの銀行リストラがどう進められてきたかを振り返ってみる必要があります。
不良債権処理で半減した従業員数都市銀行の従業員数がピークだったのは1978 年で、全銀協の「全国銀行財務諸表分析」によると18 万 3219人でした。それが1990 年の 15万 2237人にまで削減されます。この時期は銀行オンラインシステムの 2次オンから 3次オンへの移行期で、営業店の後方事務を4~5カ店ごとにまとめて処理をする地区センターを各地に作るなど、それまで内部で処理していた業務の「外注化」が進められました。この時減らされたのは女性従業員で男性従業員はむしろ増加しています。業務の「外注化」を進め、女性行員を削減し「子会社」の従業員や非正規労働者にシフトしていく体制が作られました。都市銀行従業員数はこの1990 年以降、1994年の15万 8657人まで増加に転じます。そしてバブル経済崩壊後の金融再編・不良債権処理の中で削減され続け2006年には 8万5531名となっています。
不良債権処理の中で、ピーク時の半分以下にまで削減されました。その後、緩やかな増加に転じて 2017年には 9万7601人にまで戻っています。正規労働者の関連会社従業員と非正規労働者への置き換えこの時、1990 年代後半から 2000 年代半ばまでの不良債権処理で、ピーク時の半分以下に削減されたのは正規従業員です。正規従業員を削減して、事務子会社など連結子会社の従業員や非正規労働者への置き換えが行われました。
有価証券報告書によって、銀行本体の正規従業員に事務子会社などの従業員数と臨時・嘱託を含めた都市銀行の労働者総数を算出すると、2017年 3月では 24万5285 人となります。有価証券報告書で都市銀行の正規労働者数を算出すると10 万 6096 人となり上記の「財務諸表分析」の2017 年の従業員数より多く出てきます。また、労働者総数 24 万 5285 人の中には、三菱東京UFJがタイのアユタヤ銀行と経営統合したことによる 2 万人弱の従業員数が含まれていますが、それを差し引いても、銀行本体の人員削減が子会社の従業員と非正規労働者による置き換えだったことは明らかです。
表 1 都市銀行従業員数の変化 :人
男 女 計
1977 年 100,374 82,845 183,219
1992 年 104,328 50,486 154,814
2000 年 80,469 38,855 119,324
2005 年 86,764
2010 年 94,613
2015 年 93,416
2016 年 95,107
2017 年 97,601
「全国銀行財務諸表分析」から2001年以降男女別記載なし
表 2 メガバンクの労働者総数と正規従業員数
2017 年 3 月 正規 総数
みずほ 29,848 54,600
三菱東京UFJ 34,276 109,912
三井住友 29,283 0,184
りそな 9,450 14,561
埼玉りそな 3,239 6,028
106,096 245,285
正規は正規従業員総数は連結従業員プラス臨時
三菱東京UFJの総数にはアユタヤ銀行従業員を含む
有価証券報告書による
この点を小泉政権下で強行された不良債権処理期の結果をメガバンクについてみると、2006 年時点で労働者総数に対する正規従業員の比率は、三菱東京UFJ銀行で 34.4%、三井住友で 35.0%、みずほ銀行で 36.3%となっていました。
メガバンクでは、正規行員は銀行で働いている労働者総数の 3 割台にまで削減されていたのです。(田中均「金融機関における雇用の重層化・不安定化の実態」金融労働調査時報 08 年 10 月号、田中均「激変した金融労働者の雇用構造」金融・労働研究ネットワークホームページ「論文とレポート」2014年 8 月 up 参照)
今後のリストラ 店舗の再編・統合 新技術の導入今後の銀行リストラはどのように進むか。
上記のようにロボティクスの利用など IT 技術の活用と、「機械化店舗」への転換(三菱 UFJ)、「リテール店舗改革」(三井住友)、「100営業拠点の削減」(みずほFG)など営業店の機械化と、店舗そのものの削減の方向を打ち出してます。
三菱東京UFJ銀行は説明資料で、営業店への来店客数が 2007 年度比で 4割減っていると説明しています。銀行の ATM の設置状況を全銀協のデータでみると 2001年に都銀で設置店舗数 2630 ヶ所、設置台数 2 万 9447 台が 2016 年には 1926 ヶ所、2 万 6294台と減少し、地銀など他業態も同様です。
これは、コンビニやスーパーなどでの ATM 設置が 2000 年代に急拡大した結果でしょう。例えば、みずほ銀行の都内の現在の状況をホームページで見ると、支店と出張所が計 197 に対して、営業店以外の場所に設置した店外ATM557ヶ所、イオン・みずほ共同設置のATM が 615 ヶ所となっています。店外 ATM とイオンとの共同設置 ATM の合計で 1172 ヶ所となっています。これに加えてコンビニのATMがある。さらに、インターネットバンキングの拡大があります。
営業店の位置づけが大きく変化しつつあり、顧客と銀行サービスの接点の多様化が銀行業務量の変化・リストラの条件を形成しています。
「ロボットによって多くが職を失う」
ドイツ銀行CEOメガバンクのリストラ計画では、「ロボティクス」に象徴される新技術による労働者の労働の機械による置き換えが、新時代を象徴する構想となっています。英紙「ガーディアン」は、9月6日の電子版でドイツ銀行のジョン・クライアンCEOが「非常に多くのスタッフがロボットによって職を失う」と発言したことを報じています。クライアン CEOは「将来我々は人間のように行動するロボットに業務を行わせるだろう」「銀行がこの変化にかかわるかどうかに関係なく、それは進行している」とも述べています。ロボットや人工知能が人間の労働にとって代わり労働者は職を失うことになるかどうか。これは金融に限った問題ではありません。
ILO のガイ・ライダー事務局長は国際公務労連(PSI)の第30 回大会(10月30日~11月3日)でこの問題について発言しています。ガイ・ライダー事務局長は「労働の未来に関する議論が、新技術が果たしうるよりも過剰に重視されて、どれだけの職が失われどれだけの職が創造されるかに集中している」ことに懸念を表明し、次のように続けています。「我々の活動や社会の様々な要因が、この数値を変えていくのである」。「技術が未来の労働の在り方を変えていくことは事実だ。重要なのは、我々が何が起きようとしているかを把握し、労働市場や労働市場の規制を変革していくことであり、後からキャッチアップすることではない。我々は技術変化の傍観者になるのではなく、新技術の導入を我々自身の目標実現に利用するべきなのだ」(グローバルな労働組合情報放送「ラヂオ・レイバー」11 月 2 日放送から。英語の日本語訳は筆者)。
はじめて労働組合出身者から選ばれたILO事務局長の、この発言は注目されます。企業間競争と効率化の視点から、新技術の導入が論じられるなら、機械や人工知能がどれだけ人間にとって代わることができるか、それがどれだけ利益増大をもたらすかに議論が集中するでしょう。しかし、労働過程に新技術を導入するときにまず考えるべきは、新技術が人間の社会にどのような利益をもたらすことができるかであるべきです。営業店の機械化・省力化にしても、金融機関営業店の存在が地域社会においてどんな役割を果たすかがまず考えられるべきでしょう。
関連子会社・非正規労働者の業務グループごとの集団雇止めの懸念ここでは大手銀行のリストラの流れを見てきました。特に 1990 年代後半以降の銀行リストラは、正規従業員をより賃金の低い子会社従業員と非正規労働者に置き換える形で進められてきました。それは、正規労働者の労働条件引き下げを伴いました。
たとえば、銀行・信託労働者の一時金の年間支給額は 92 年を 100 とすると 05 年には 60%台にまで引き下げられています(厚労省「賃金構造基本調査」から算出)。そして、非正規労働者は一時金さえ支給されず、仮に無期雇用になっても雇用契約に「銀行の業務がなくなった時は雇止め」という条項が入っているなど不安定なままです。
この間の不安定雇用の増大を反映して、金融労組には雇止めや差別待遇への訴えが多数寄せられました。これからのリストラでは正規労働者への労働条件改悪・「自発的退職」強要と、非正規など不安定雇用層や関連会社従業員の雇止めに対抗する構えが求められます。特に警戒すべきは新技術導入に伴いシステムの変更が行われるとき、関連子会社や非正規従業員の特定の業務グループをグループ全体で雇止めをするなどの危険性があることです。関連会社従業員や非正規労働者は、正規従業員と異なり業務ごとの雇用として雇用されているためです。
これまでにも、三菱東京UFJ銀行が店頭のカード販売スタッフの丸ごと雇い止めを打ち出し、当該労働者の激しい抵抗にあっています。
国民の視点からの金融の在り方や営業店の在り方を提起し、地域・住民のための金融の実現と正規従業員、関連会社従業員、非正規労働者の均等待遇実現を含むディーセントワーク実現に向かって人工知能は何ができるのかを標榜すると同時に、正規・非正規労働者への攻撃を許さない取り組みが求められています。
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