◆ 日本は人権に「真剣」か
   個人通報制度 検討内容公表せず
 (しんぶん赤旗)


 「謙虚に、丁寧に」と言いながら、国民の声に耳を傾けようとしない安倍内閣。日本政府がこの8月、国運人権理事会に提出した報告書も、人権保障についての国連の救済制度「真剣に検討」と言いながら、検討の中身は隠し続けています。日本の人権状況についての国連審査が14日からジュネーブで始まるのを機に「議論のべースになる情報は公開してほしい」との声があがっています。(武田恵子)

 ◆ きょうから国連審査
 隠し続けているのは、国連の人権救済制度「個人通報制度」についての研究会の内容です。
 個人通報制度は、人権条約に書かれた人権を侵害された個人が、国内の裁判などで救済されない場合、国連の自由権規約委員会や女性差別撤廃委員会などの機関に直接訴えて救済を求める制度です。
 100を超える国々が個人通報制度を受け入れていますが、日本は受け入れ手続きをしていません。


 ◆ 検討具体性なく
 日本政府は、国連人権理事会の人権審査(普遍的定期的審査、UPR)で、1回目(2008年)から個人通報制度の受け入れについて、検討を約束しています。
 ところが、政府報告書は、前回と同じく「真剣に検討」という文字が躍るだけで、相変わらず具体性がありません。
 しかも、今回の政府報告書では、前回何も触れていなかった「研究会」が登場します。
 「16年8月には、第19回個人通報制度関係省庁研究会を開催した」との文言です。なぜ、「第19回」が唐突に?

 個入通報制度を担当する外務省人権人道課に聞きました。
 「研究会は平成11(1999)年から開催。外務省、法務省による研究会を40回。平成17(2005)年12月から外務、内閣、法務、文科、厚労、国交、農水、総務、防衛の各省庁による研究会を19回開催」「開催時期は不定期で公にしていない。毎回、すぺての省庁から参加するわげではなくメンバーも固定していないく、議事録も毎回作るわけではない」
 ただ「第19回研究会」については「16年8月2日に林陽子弁護士を講師に開催した」と答えました。林弁護士は女性差別撤廃委員会の委員長です。
 また14年4月10日の参院法務委員会で山田滝雄外務大臣官房参事官が「今年1月にも、東大の岩澤先生においでいただきまして検討会を開催」したと答弁しています。
 「検討会」とは「研究会」のことです。岩澤雄司氏は長く自由権規約委員会の委員で、今年3月同委員長に就任しています。

 ◆ やる気問われる
 これだけの專門家を含み、18年間に59回も開いている研究会の内容を政府は、「検討結果を明らかにできる段階ではない」(16年6月2日、糸数慶子参院議員の質問主意書に対する政府答弁書)と言って、公表を拒み続けているのです。
 今回の人権審査に向けてのNGOリポートに「個人通報制度の着実な実現」を盛り込んだ、国連人権活動日本委員会の議長、鈴木亜英さん(弁護士)は、「日本政府のやる気が問われます。日本は個人通報制度が導入されていないため、裁判所で条約の趣旨に反する判断がまかり通っている」と指摘します。
 たとえば、15年12月の夫婦別姓訴訟で夫婦別姓を定めた現行民法を合憲とした最高裁の判決。女性差別撤廃委員会が現行の民法規定を改め、選択的夫婦別姓制度導入を何度も勧告していました。
 「個人通報制度ができれば、国際的な孤立から抜け出すことができます」と鈴木さんは強調します。
 mネット・民法改正情報ネットワーク理事長の坂本洋子さんは、「個人通報制度の受け入れは、日本の国際人権保障・男女平等への積極的な取り組みの姿勢を国際社会に示すものです。安倍政権が“女性活躍”と言うなら、率先してとりくむべきです」と話します。

 ◆ 透明性を高めて
   日弁運国際人権問題委員会委員長 大村恵実さん

 「日本政府は、日本の人権状況について、改善のための具体的な経過を明らかにして、透明性を高めていくことが大事です」。こう話すのは、日本弁護士連合会(日弁連)の国際人権問題委員会委員長、大村恵実さんです。
 日弁連は国連経済社会理事会との協議資格をもつNGO(非政府組織)の一つです。
 国連人権理事会の人権審査(普遍的定期的審査、UPR)に向けて作成される政府報告書。その作成の過程で、政府がNGOと協議することが奨励されていますが、「日本政府は市民社会と十分な協議をしたとはいえない」と大村さん。
 政府は、今年3月、一般市民やNGOとの意見交換会を開催したことなどをもって、「市民社会の関与を得た」と報告していますが、NGOの意見が反映されているとは言えません。

 政府が第1回目の審査(08年)および第2回目(12年)の審査で検討を約束した国際人権条約に関する「個人通報制度」の受け入れについての報告も、NGOとの協議を踏まえたものになっていないと言います。
 日弁運は、個人通報制度を受け入れている韓国を調査して、その結果を関係省庁や国会議員などに情報提供してきました。「政府は、ただ検討しているというだけでなく、議論のべースになる情報を公開していくことが求められる」と指摘します。

 大村さんは国債水準に比べて遅れが目立つ分野として、死刑制度、女性差別、人種差別の問題をあげています。
 また、共謀罪特定秘密保護法といった基本的人権にかかわる立法、原発避難者にかかわる問題が国際的に関心を持たれると見ています。
 人権審査は国連のすべての加盟国を対象に08年に始まり、4年に1回行われます。日本は今回で3回目。政府報告書に加え、人権条約機関などの国際文書、NGOのリポート(要約)を踏まえて審査され、勧告が出されます。すべての国が意見を言うことが可能です。
 大村さんは、「いろいろな国がコメントする仕組みそのものがユニークです。その中で出される勧告は私たち一人一人が関心を持っていかなければならない問題です。日本政府は受け止めてほしいですね。私たちも勧告に結びつけるための情報提供をNGOとして努力していきたい」と話します。

『しんぶん赤旗』(2017年11月14日)

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