たんぽぽ舎です。【TMM:No3222】2017年11月14日(火)地震と原発事故情報
 ▼ 10/12ジュネーブの国連で、福島のお母さんの訴え、
   原発事故による子どもと女性の人権侵害

レポートby 里信邦子(スイス在住のジャーナリスト)

 ジュネーブの国連人権理事会が行う全加盟国に対する普遍的定期審査(UPR)。日本はこの11月、3回目の人権状況を審査されることになる。
 この審査に先立ち設置されたNGO発表の場で12日、福島第一原発事故後に自主避難した園田美都子さんが、避難指示区域内外を問わず避難した母親たちを代弁し、「原発事故による女性と子どもの人権侵害」に焦点を当て、約20カ国の代表を前に7分間のスピーチを行った。

 「病気、貧困、自殺、家族内の亀裂、離婚、いじめ、地域の分断。これらは原発事故によって引き起こされた、目には見えにくい問題の数々だ」という部分を読み上げる園田さんの声に突然力がこもり、議長が思わず彼女を振り向いた。


 「避難先で成長した息子や他の多くの子どもたちの顔が頭に浮かんだ。子どもの命を犠牲にしても経済を優先させる国のあり方に、急に腹が立ってきて冷静に原稿が読めなくなった」とスピーチ後に園田さんは言った。

 園田さんは福島第一原発3号機が爆発した直後、当時8歳だった息子と関西に避難。時々福島県に戻りながら関西にとどまり、現在は国外に避難中だ。
 「でも息子は日本に帰りたがっている。関西では快く受け入れてもらえたが、東北弁から関西弁へ、さらに英語へ切り替えるという、15歳までの人生で2度の大きな変化を理由も理解できないまま強いられた」と語る。
 「福島県内で避難もできず低線量にさらされていることも分からない子どもの人権ももちろん侵されている…」
 福島は海や山の幸に恵まれ、地域のつながりも深かった。鍵をかけない家の玄関に採れたばかりの野菜が置いてあったりした。そんな生活が親も子どもも懐かしい。「何も悪いことしていないのに、なぜ難民にさせられたのか?」

 福島から逃げてきたたくさんのお母さんたちと関西で繋がった。
 「政府が大丈夫だと言っているのになぜ避難するのか?」と問い詰める夫や両親を振り切って避難した人。
 離婚に追い込まれた人。
 子どもが風邪をひくと「放射線のせいでは?」と落ち込む人。
 人権を侵されているのは、子どもたちだけではない。全ての福島の母親たちの人権も侵されていると、園田さんは思う。

 8月、NGOグリーンピース・ジャパンは、放射線に女性は男性より弱く、子どもはさらに弱いという調査結果を基に、原発事故で女性と子どもの人権が著しく侵されていることを、普遍的定期審査(UPR)を受ける日本に対し勧告してくれる国々にアピールできる場に招待されるという朗報を得た。
 そこで園田さんを国連に送ろうと立ち上げたクラウドファンディングは、5日目にしてすでに目標額150万円に達したのだと、グリーンピース・ジャパンの広報担当者は胸を張った。

 ▼ 女性と子どもの健康に対する権利
 園田さんの国連でのスピーチは大きく2つに分かれ、1つは「原発事故後の女性と子どもの健康への権利」だった。
 現在子どもの甲状腺がん患者が190人いることや、当時ヨウ素剤は配布されないまま子どもと女性は降ってくる放射性物質にさらされながら、食料や水を求め屋外で列を作って並んだこと。
 多くの国が自国民に日本を離れるよう勧告したその時、日本は「直ちに健康被害はない」と言い続けメルトダウンの事実を隠したこと。
 その後、子どもの尿や母乳の中にセシウムが発見されているにも関わらず、子どもの外部・内部被爆を心配する母親が、反対に批判された事実などを列挙した上で、政府に対する勧告を3点挙げた。
 イ.避難指示区域を超えて女性と子どもに対し、尿・血液・体内に取り込まれた放射性物質などの包括的健康チェックを行い、その結果を被験者に知らせること。
 ロ.低線量による健康被害が総合的に理解できるようあらゆる医学的統計を公表すること。
 ハ.食料・水・土に含まれる全ての放射性物質(セシウムのみならずプルトニウムやストロンチウムなど)を検査し、その結果を公表すること。
 ▼ 母親と子供の汚染された地域への帰還
 もう1つは、「避難した母親と子どもを汚染された地域へ帰還させようとする圧力」を問題にしている。
 今春の自主避難者への住宅無償支援の打ち切りに引き継ぎ、来年3月までには避難指示区域の補償も打ち切られること。
 福島第一原発2号機内では、ロボットさえ機能しなくなるほどの高線量を記録しているにも関わらず、ここから5キロしか離れていない地域へ子どもたちを帰還させようとしていること。
 また、年間放射線許容量の国際基準が1ミリシーベルトなのに対し、日本は20ミリシーベルトを許していること。
 こうした事実を踏まえ、政府に対し「年間放射線許容量を1ミリシーベルトに抑え、これを超える場合の避難をサポートすること。また避難住宅の提供や経済的または他の支援を避難者及び避難しなかった人にも同じように続けること」を勧告している。

 ▼ 勧告を行ってくれる国を説得
 今回の園田さんのスピーチが、多くのNGOや国の代表者に与えたインパクトは大きい。だが、わずか7分のスピーチで語ることのできない様々な事実や思いを、原発事故による人権侵害に興味を示してくれる他国の代表に会って説明することも、また大きな仕事の一つだ。こうした国が、勧告を日本政府に対し文書で出してくれるからだ。
 次のこうしたミーディングに出かけるため、スピーチ終了後の園田さんは、「たまたま英語が少しできたので福島のお母さんたちの代弁者としてここにきた。お母さんたちから『私たちの思いを伝えて欲しい』と期待されている」と言い残し、グリーンピースのスタッフとともに、国連の長い廊下を走って行った。