たんぽぽ舎です。【TMM:No3216】2017年11月7日(火)地震と原発事故情報
▼ 原子力規制委員会の5年間 規制委は「何をしなかった」のか
山崎久隆(たんぽぽ舎副代表)
震災による死者・行方不明者18456人(警察庁2016年12月9日)に対して震災関連死は3591人(復興庁2017年3月31日)であるが、福島県に限れば1810人に対して実に2147人に上る。
事故以前の原子力行政は、推進が原子力委員会(1960)、規制は原子力安全委員会(1978~2012)と原子力安全・保安院(2001~2011)が担当していた。
3.11を防げなかったこと、さらに安全委も保安院も原子力災害対策本部への助言などを行い、政府として事故収束活動を支援するはずだったが、助言どころか全く役に立たないことが露呈し、その後の組織解体へとつながった。
2012年9月、それまでの保安院などが資源エネルギー庁の下部組織だったのを環境省の外局として原子力規制委員会が設置された。
なお、初代の田中俊一委員長は原子力学会会長、原子力委員会委員長代理などを歴任しているから、原子力ムラの中心で推進をしてきた人物であることに批判が集まった。
では、その原子力規制委員会の5年間にどのような問題があったのか。
原発再稼働へのお墨付きを与え、現時点で4原発7基の「合格」を出したが、この項では「やらなかったこと」を上げてみる。
1.認可取り消しをしなかった
福島第一原発事故が発生した際、北は東通原発から南は東海第二原発まで15基の原発が地震と津波により被災した。そのうち福島第一原発で3基がメルトダウンした。他の原発でも深刻な事故になる危険性があった原発もある。
原発立地は大規模な自然災害がないところに、との立地指針を定めている。
政府の地震研究推進本部は、日本海溝沿いにマグニチュード8クラスの地震が発生することを2002年に公表、「30年間に20%程度」と、この種の予測では極めて高い価を示し、警告していた。
規制委は、これまでの安全神話に基づく原発の過酷事故対策を不十分と認め、新規制基準の策定を行った。しかし一基の原発の設置認可は一つも取り消さなかった。
原発の立地そのものが「失敗」だったのだから、まず日本中の原発の認可を一旦取り消すべきであった。
2.福島第一原発事故の原因究明をしなかった
政府事故調、国会事故調、民間事故調、東電の事故調と、事故の調査組織がいくつも乱立し、それぞれが独自に事故報告書をまとめていった。こんなことは異例だった。
しかもその中で政府事故調は700人以上の関係者から数多くの証言を集めておきながら、それをほとんど活用せず、結局津波で電源喪失をしたことが全ての原因とばかりに、極めて単純な事故報告書をまとめただけだった。
事故調査では、原発を運転していた東電の組織的欠陥はもちろんのこと、その背景にある許認可を行う組織、そしてその審査を行う専門家一人一人の審査の内容に至るまで調査すべきだ。国会事故調は、かなりの程度調査を行ったのだが、東電や国による事実上の調査妨害で尻切れ蜻蛉(とんぼ)に終わっている。
規制委はまずこれを引き継ぎ、全ての原発を止めてから事故の原因究明を徹底的に行うべきであった。
3.東京電力の責任を追及しなかった
今年10月に事実上の規制基準適合性審査「合格」とした柏崎刈羽原発6、7号機は、事故当事者が作り、運営してきた原発だ。その企業の審査を行う前にすることがあったはずだ。それは、東電の責任の追及である。
事故は「異常な天災地変である」として、原子力損害賠償法第三条ただし書きに基づき、事故責任を免責するべきだと考えていたのは勝俣恒久会長など東電の経営陣である。
しかし発生した地震や津波は、歴史的に何度も繰り返されてきた日本海溝沿いの地震の一つに過ぎなかった。規模も過去の事例と比べて遙かに大きかったとする証拠はない。「人類が経験したことが無いほどの」異常さではない。
この規模の地震や津波に耐えられない原発を運転してきたこと、そして原子炉がメルトダウンをしても有効な冷却手段を準備できなかったことなど、これまでの原子力行政で「あってはならない」事故を起こした責任を規制当局が追及するのは当然のことだった。
4.再稼働優先で安全性を重視しなかった
規制委により事故原因の究明や東電の責任追及が全くなされないまま、川内原発をはじめとして次々に再稼働を認める決定を下してゆくさまは、とても安全性を重視しているとは思えない。
例えば火山の噴火に伴い発生する火砕降下物(火山灰等)の影響について、つい最近になって従来の大気中の密度の100倍以上を想定すべきとの科学的知見が明らかになった。
ところがこれを規制基準に採用するのは1年後だという。1年間火山が噴火しない保証を規制委がするのだろうか。
5.防災体制を審査しなかった
規制委は防災体制が十分取られているかを「関知しない」。
防災は自治体の責任だとして押しつけるが、地方自治体に原子力防災を押しつけても何も出来ないことは福島第一原発事故で証明済みである。
こういうことも規制委が責任を放棄している重要課題である。(了)
※「思想運動」No1010号2017-10-15・11-1合併号より許可を得て転載
▼ 原子力規制委員会の5年間 規制委は「何をしなかった」のか
山崎久隆(たんぽぽ舎副代表)
<見出し>2011年3月11日に発生した東日本大震災は、世界でも例を見ない3基の原子炉のメルトダウン、最大時16万人の避難、さらに6年半を経た現在も5万人を超える人々が故郷に帰れず、生業を奪われている。
1.認可取り消しをしなかった
2.福島第一原発事故の原因究明をしなかった
3.東京電力の責任を追及しなかった
4.再稼働優先で安全性を重視しなかった
5.防災体制を審査しなかった
震災による死者・行方不明者18456人(警察庁2016年12月9日)に対して震災関連死は3591人(復興庁2017年3月31日)であるが、福島県に限れば1810人に対して実に2147人に上る。
事故以前の原子力行政は、推進が原子力委員会(1960)、規制は原子力安全委員会(1978~2012)と原子力安全・保安院(2001~2011)が担当していた。
3.11を防げなかったこと、さらに安全委も保安院も原子力災害対策本部への助言などを行い、政府として事故収束活動を支援するはずだったが、助言どころか全く役に立たないことが露呈し、その後の組織解体へとつながった。
2012年9月、それまでの保安院などが資源エネルギー庁の下部組織だったのを環境省の外局として原子力規制委員会が設置された。
なお、初代の田中俊一委員長は原子力学会会長、原子力委員会委員長代理などを歴任しているから、原子力ムラの中心で推進をしてきた人物であることに批判が集まった。
では、その原子力規制委員会の5年間にどのような問題があったのか。
原発再稼働へのお墨付きを与え、現時点で4原発7基の「合格」を出したが、この項では「やらなかったこと」を上げてみる。
1.認可取り消しをしなかった
福島第一原発事故が発生した際、北は東通原発から南は東海第二原発まで15基の原発が地震と津波により被災した。そのうち福島第一原発で3基がメルトダウンした。他の原発でも深刻な事故になる危険性があった原発もある。
原発立地は大規模な自然災害がないところに、との立地指針を定めている。
政府の地震研究推進本部は、日本海溝沿いにマグニチュード8クラスの地震が発生することを2002年に公表、「30年間に20%程度」と、この種の予測では極めて高い価を示し、警告していた。
規制委は、これまでの安全神話に基づく原発の過酷事故対策を不十分と認め、新規制基準の策定を行った。しかし一基の原発の設置認可は一つも取り消さなかった。
原発の立地そのものが「失敗」だったのだから、まず日本中の原発の認可を一旦取り消すべきであった。
2.福島第一原発事故の原因究明をしなかった
政府事故調、国会事故調、民間事故調、東電の事故調と、事故の調査組織がいくつも乱立し、それぞれが独自に事故報告書をまとめていった。こんなことは異例だった。
しかもその中で政府事故調は700人以上の関係者から数多くの証言を集めておきながら、それをほとんど活用せず、結局津波で電源喪失をしたことが全ての原因とばかりに、極めて単純な事故報告書をまとめただけだった。
事故調査では、原発を運転していた東電の組織的欠陥はもちろんのこと、その背景にある許認可を行う組織、そしてその審査を行う専門家一人一人の審査の内容に至るまで調査すべきだ。国会事故調は、かなりの程度調査を行ったのだが、東電や国による事実上の調査妨害で尻切れ蜻蛉(とんぼ)に終わっている。
規制委はまずこれを引き継ぎ、全ての原発を止めてから事故の原因究明を徹底的に行うべきであった。
3.東京電力の責任を追及しなかった
今年10月に事実上の規制基準適合性審査「合格」とした柏崎刈羽原発6、7号機は、事故当事者が作り、運営してきた原発だ。その企業の審査を行う前にすることがあったはずだ。それは、東電の責任の追及である。
事故は「異常な天災地変である」として、原子力損害賠償法第三条ただし書きに基づき、事故責任を免責するべきだと考えていたのは勝俣恒久会長など東電の経営陣である。
しかし発生した地震や津波は、歴史的に何度も繰り返されてきた日本海溝沿いの地震の一つに過ぎなかった。規模も過去の事例と比べて遙かに大きかったとする証拠はない。「人類が経験したことが無いほどの」異常さではない。
この規模の地震や津波に耐えられない原発を運転してきたこと、そして原子炉がメルトダウンをしても有効な冷却手段を準備できなかったことなど、これまでの原子力行政で「あってはならない」事故を起こした責任を規制当局が追及するのは当然のことだった。
4.再稼働優先で安全性を重視しなかった
規制委により事故原因の究明や東電の責任追及が全くなされないまま、川内原発をはじめとして次々に再稼働を認める決定を下してゆくさまは、とても安全性を重視しているとは思えない。
例えば火山の噴火に伴い発生する火砕降下物(火山灰等)の影響について、つい最近になって従来の大気中の密度の100倍以上を想定すべきとの科学的知見が明らかになった。
ところがこれを規制基準に採用するのは1年後だという。1年間火山が噴火しない保証を規制委がするのだろうか。
5.防災体制を審査しなかった
規制委は防災体制が十分取られているかを「関知しない」。
防災は自治体の責任だとして押しつけるが、地方自治体に原子力防災を押しつけても何も出来ないことは福島第一原発事故で証明済みである。
こういうことも規制委が責任を放棄している重要課題である。(了)
※「思想運動」No1010号2017-10-15・11-1合併号より許可を得て転載
パワー・トゥ・ザ・ピープル!! パート2