世田谷区教育委員会の「弾道ミサイル発射時の学校対応について」の保護者宛印刷物配布につての法的問題についての学者弁護士有志の教育長・教育委員会への意見書


                  新倉修(青山学院大学名誉教授)

                  片岡輝(元東京家政大学学長)

                  清水雅彦(日本体育大学教授)

                  山本由美(和光大学教授)

                  内藤隆(東京弁護士会)

                  森孝博(東京弁護士会)

                  児玉勇二(東京弁護士会)

 

1, 連休前の4月28日世田谷区教育委員会は区立小中学校長名で、保護者あてで、「弾道ミサイル発射時の学校対応について(お知らせ)」を全生徒に配布しました。

「北朝鮮からミサイルが飛んで来るんですか」と質問したり、不安に怯え泣く子もいました。親からも心配する声も上がりました。

人権・子どもに係る市民団体は、5月12日区教委に配布経緯を質しました。


配布は4月21日付けの東京都教育長の事務局からの事務連絡「弾道ミサイル発射時の注意事項の周知についての依頼」により、区教委の事務局は、区教委と各校長・各園長の連名で28日午前の小中学校長連絡会に諮り配布したとのことでした。教育委員会委員には、配布後の5月9日に事後報告したとのことです。しかも配布は、世田谷区長は知らず東京23区で全校にプリントを配布した世田谷区の対応は突出していました。


上記市民団体は、7月3日区教委に①文書配布決定の経緯を明らかにすること②学校教育では紛争解決に武力に頼らず相互理解、対話の重視に基づく「平和教育」を徹底すること、在日外国人も含め「人権」を重視した世田谷区の方針を提示することとの陳情を区民の賛同署名とともに提出しました。


陳情は7月14日の区教委で審査されました。

720日、区教委から回答が送られてきました。

陳情には正面から答えず、国民保護計画に関わっては、今後区の危機管理室が中心となり、危機連絡会議を速やかに開催し検討を行うなど、情報連絡体制同管理体制の迅速化で戦争にも備えようとする内容でした。


そこで上記市民団体の方々が9月26日に区教育委員長と協議を持つことになった次第で世田谷区在住在勤関連の学者・弁護士が本件の法的問題について協議しまとめた次第です。


以下その法的問題につてその理由を以下述べます。

2,今回の通知によって世田谷区のすべての学校等に「弾道発射時における注意事項」として多くの子供たち、保護者たちなどに多くの不安と戦争の恐怖を必要以上にもたらしました。


このような通知はまず客観的、かつ科学的なものでなければならず方法も冷静で実効的なもので今回のように何回も繰り返すようなものであってはなりません。

今回のような子どもたちへの不安感・恐怖感を煽るような行為は、子どもたちに憲法13条の平穏生活人格権、憲法前文の平和的生存権があることからも妥当、相当とはいえません。


子どもたちには子どもの権利条約で規定されている多くの生命、身体、精神、生活、平和を守られる権利があり、憲法13条の個人の尊厳、平穏に生きる人格権、名古屋高裁岡山地裁でも判示で認められた憲法前文の平和的生存権を持っており、今回の世田谷区の行政措置によるミサイル発射時の注意の通知によって、これらの権利が侵害されたことになります。


これはまた教育現場での通知からも、民族差別を助長することにもなります。しかもこのような行政措置は、下記のように国の安全に関すること、また重大な憲法問題も抱えいることであり、地方自治法、地教行法からも、教育委員会だけで決められるものではありません。

区長・議会・区民にも相談し民主的手続きにそって決めていくものです。

今回の世田谷区教育委員会の「弾道ミサイル発射時の学校対応通知印刷物配布」は憲法9条、前文、13条等、地方自治法、地教行法、子供の権利条約などにも違反した行為で違法・無効といえます。

そのためこれを反省し、見直し二度とこのような行為をしてはならないものといえます。


2,①政府は2017年4月21日都道府県の危機管理担当者を集めた説明会で、「北朝鮮」の弾道ミサイルの着弾を想定した住民避難訓練を行うよう要請しました。詳細は「武力攻撃やテロなどから身を守るために」と題する内閣官房のHPに掲載されています。(毎日新聞4月22日朝刊)


また実際に「北朝鮮」のミサイル発射の報道が流れた4月29日早朝、には一部の新幹線、地下鉄はその運行を停止しました。東京メトロ内では「北朝鮮が弾道ミサイルを発射しました」との機内アナウンスが流れ、運転を見合わせました。こうした状況の中で「いつどこから何が落ちてくるのか」と恐怖感を口にした市民がいる」と報じられています。(東京新聞4月30日朝刊)世田谷の今回のケースもこの一環です。しかし本件は子どもたちも対象になっている特徴も考えなければなりません。


②今回の世田谷区教育委員会の行為は、米国と「北朝鮮」の対立・緊張関係が高まる中、自衛隊が米軍と、「北朝鮮」近海に向かうカールビンソン空母打撃群との共同訓練を繰り返し、「北朝鮮」に軍事圧力を加え続け、その一環として米軍を防護するための自衛隊法95条の2が今年の5月1日発動されたことにまず憲法上の視点から考えなければなりません。


新安保法制によって改正・新設された自衛隊法95条の2は「自衛官は、アメリカ合衆国の軍隊その他の外国の軍隊その他これに類する組織(事項において「合衆国軍隊等」という)の部隊であって自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動(共同訓練を含み、現に戦闘行為が行われている現場で行われるものを除く)に現に従事しているものの武器等を職務上警護するに当たり、人又は武器等を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合は、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条又は第三十七条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。この95条の2は今までの自衛隊の武器等を自衛官が警護するためまた、武器使用するためのむしろ警察官が行うべき任務を自衛官に委ねた例外的な規定であり、日米共同軍事体制強化のため米軍等に広げたものです。


2004年8月4日の政府答弁にあるように、憲法9条からも事前回避義務、事後追撃禁止などの極めて受動的・限定的必要最小限度の使用のみが許されるものとされてきました。

宮崎元法制局長官もこれを米軍にも認めることは安易に違憲の武力行使に至ると安保国会で述べており、首相の私的諮問機関の「安保法制懇」でも指摘されていたことです。

これは集団的自衛権の行使として憲法9条に違反するからです。

もし武力行使に至らない外国軍隊に侵害行為があって、自衛官が武器使用がなされた場合、相手国は自衛隊が反撃してきたことになり、実質的な集団的自衛権の行使となり、閣議決定も総理大臣の防衛出動命令も、ましてや国会承認もなく、情報もなく、突然戦争になる、極めて危険な条文で、憲法9条違反の疑いのあるものです。


今回米艦防護とされた「いずも」は日本最大級の護衛艦で、イージス艦でなく防護能力は低く、防護の実績よりは最初の「武器使用」の実績作りと言われています。「北朝鮮」に対して日米の一体化を誇示したものです。「北朝鮮」の軍事危険性を最大限強調し、憲法9条に違反して、自衛隊が米軍を支える戦力軍隊として武力行使の危険性、「北朝鮮」の反撃が日本にも向けれるようになっています。


「北朝鮮」の今回の核実験や弾道ミサイル発射は国際法からも許されるものではありません。しかし冷静に第二次世界大戦の6000万以上の死者の悲惨な体験を踏まえ国連の国連憲章は紛争の平和的解決を基本とし、制裁は経済制裁を主とし、軍事的制裁は例外的で、今回日米で行われた「北朝鮮」に対する軍事的威嚇行為は国際法から見て許されない行為といえるのです。


そして、日本の平和憲法のおかげで今まで日本が戦争に巻き込まれずに来たこと、軍事的武力行使による解決でなく、平和憲法に基づいた平和的解決・外交努力でリーダー性を発揮していくこと、世界にもこれを示していくこと、国連での核兵器禁止条約・平和への権利宣言などの動きを示して実現していくことに力を投入していくことが最も重要な時期を迎えていることを考えなければなりません。


③「世田谷区国民保護計画」は内閣府国民保護ポータルサイトによれば国民保護法にもとづいて行われることの記載があります。

今回の世田谷教育委員会の行政措置もこれによっているものと思われます。

内閣府のポータルサイトによれば、武力攻撃事態等において武力攻撃から国民の生命・身体及び財産を保護し、国・地方自治体・指定公共機関団体の責務役割分担を明確にし、国の方針の下で国全体の万全措置を講ずることができるよう保護実施に際しては基本的人権への配慮がなされるよう説明されています。


この有事立法である武力攻撃事態法によって、いわゆる日本国が武力攻撃を受ける場合の専守防衛によって個別的自衛権戦争の場合、国民保護法で自衛官だけでなく、公務員、指定公共機関の労働者も一般市民も戦争に動員されることに対して、多くの国民の反対運動が起きたが強行成立してしまったものです。


このことからもあくまでも武力攻撃事態に至って初めて国民保護法の戦争への動員がなされるもので、今回の事態のように全くその要件に該当しないケースで、すぐこの国民保護法を出して種々の戦争危機を煽る行為は前記に述べた米艦防護の憲法9条違反の行為からも許されません。


 以上の通リ今回の世田谷区教育委員会の区長、区議会、区民に相談なく「弾道ミサイル発射時の学校対応について」の保護者あて印刷物配布については多くの憲法、地教行法(地方教育行政の組織及び運営に関する法律)地方自治法、子どもの権利条約に反し子どもの権利、平和的生存権、平穏人格権を侵害したもので反省見直ししなければなりません。

区民の方々との対話をぜひ実現して下さい。

以上意見を述べさせていただきます。