アップルの空飛ぶ魔術―失われた 2000 億円余の税収―
合田 寛
(公財)政治経済研究所 理事
公正な税制を求める市民連絡会 幹事
第 1 回
魔法から抜けられない日本アイフォーンやアイパッドなどは日本でもなじみの深い身近な商品ですが、それらの商品を提供しているアップル社はアメリカのカリフォルニアに本社を置く巨大多国籍企業です。
本連載はアップル社を例にとり、巨大多国籍企業がどのように税を逃れているかを検証したいと思います。
アップル社は、同社の最新の年次報告書(2016 年)が示すように、世界の販売高が 2156億㌦(約 23.7 兆円)、営業利益が 600 億㌦(約 6.6 兆円)に上り、世界の企業ランキングのトップ 10 に入る巨大企業です。
日本のトップ企業であるトヨタ自動車と比べると、販売高(28.4 兆円)では肩を並べる一方、営業利益(2.9 兆円)ではトヨタの 2 倍以上の高収益企業です。
アップルは日本でも存在感が大きく、年次報告書(2016 年)によれば、日本での売上は169 億㌦(約 1.9 兆円)、営業利益は 71.65 億㌦(約 7882 億円)となっています。
もし日本で生まれたこの利益に対して法人税率 30%で課税したとすれば、2300 億円程度の税収が得られたはずです。
しかしその税収は日本の国庫には入っていないようです。
アップル社の世界的なスケールの税逃れ戦略によって、他の多くの国と同様、日本でもこの巨額の税収が失われていることがこのほどわかりました。
アップル社の世界的規模での税逃れについては、2013 年に開かれたアメリカの上院の常設調査小委員会の公聴会で初めて詳細に解明されました。
これを受け、ニューヨークタイムスなど欧米の主要メディアでも大きく取り上げられました。
アップルの世界的な税逃れは、後で述べるように、アメリカ以外で得られた利益をタックスヘイブンとして知られるアイルランドに移転して税を逃れるという手法で行われました。
ヨーロッパ諸国では市民の抗議の声が高まり、各国政府は自国にあるアップル子会社に対する課税を強めようとしています。
昨年 8 月には欧州委員会がアイルランド政府に対して、アップル社への税優遇は欧州連合(EU)が禁止する個別企業に対する国家補助にあたるものとして、130 億ユーロ(約 1.6兆円)の追徴課税を行うよう指示するに至っています。
またアップルなど多国籍企業による税逃れを封じることが国際的な優先課題として合意「公正な税制を求める市民連絡会」の HP で連載中http://tax-justice.com/2され、OECD による BEPS(Base Erosion and Profit Shifting 税源浸食と利益移転)プロジェクトが具体化され、現在、各国でその取り組みが始まっています。
アップル社の税逃れはまさに BEPS(ベップス)プロジエクトが問題にしている、多国籍企業の利益移転による税逃れの典型例であり、ここに手を付けない限り、BEPS プロジェクトも絵に描いた餅にすぎなくなります。
わが国ではこれまで、アップルなど多国籍企業の税逃れがほとんど野放しで、ヨーロッパ諸国の取り組み比べても大きく後れを取っています。
BEPS プロジェクトを主導することが期待されている日本にとって、この問題は真っ先に取り掛からなければならない課題です。
次回以降で述べるように、アップル社は税を逃れるために、法をかいくぐるいくつかの魔法を使ってきました。
まずはその魔法を解くことから始めなければなりません。