共謀罪法案国会審議・テレビニュースはどう伝えたか
―2017年3月1日~6月16日-
2017年9月3日 放送を語る会
はじめに
2017年6月15日早朝、共謀罪の趣旨を含む「組織的犯罪処罰法改正案」いわゆる共謀罪法案
が参議院本会議で強行採決され、成立した。
処罰対象の範囲のあいまいさへの批判、内心の自由が侵害されるのではないか、日本が監視社会になるのではないか、という懸念など、さまざまな問題を置き去りにしたままの成立であった。
衆議院での強行採決に続いて、参議院では、委員会での採決を省略して本会議で採決するなど、自公政権の強引な国会運営も批判を浴びた。
犯罪の実行前から処罰できるようにする共謀罪法は、日本の刑事法体系の大転換をもたらすものと指摘されている。捜査機関による市民の監視が拡大し、国家権力と市民の関係が大きく変化することは避けられない。
このような重大な法案の審議過程に対して、権力の監視を任務の核心とするジャーナリズムにとっては、単に事態の動きを伝えるだけでなく、これを批判的な姿勢で捉え、市民が判断できるような多様な情報を提供する義務があった。
放送を語る会は、これまで、重要な政治的な動きの度に、テレビニュースをモニターしてきたが、今回も市民に最も身近な日々のニュース番組が、国会審議の期間、どのようにこの問題を伝えたのか、その実態を解明するためのモニターを実施した。本報告はその結果をまとめたものである。当会のモニター活動はこれが18回目となった。
対象としたニュース番組は次の5番組である。
○NHK「ニュース7」
○NHK「ニュースウオッチ9」
○日本テレビ「NEWSZERO」
○テレビ朝日「報道ステーション」
○TBS「NEWS23」
モニター期間は、共謀罪法案の国会審議が始まる前の2017年3月から国会が事実上終了する6月16日までとした。
対象番組を上記のように限定しているので、本報告はこの期間中の共謀罪法関係テレビ報道の全体像を示すものではない。この報告書はあくまで上記デイリーニュース番組に限定したモニター結果であることを断っておきたい。
モニターは、放送を語る会の従来の方法で実施した。この間、対象としたデイリーニュース番組で、「共謀罪」を扱った日の内容をメンバーが分担して記録し全員に報告した。
以下、A4およそ300ページほどの記録から、次のような項目に従って整理し、報告することとする。
―――――――――――――――――――――――――――――――
1、共謀罪法案に関する対象ニュース番組全体の傾向
2、法案の問題点、争点は明らかにされたか
1)国会審議や、法案の内容はどのように伝えられたか。キャスターやコメンテーター、記者解説の姿勢はどのようなものだったか
2)言論人・研究者や市民の意見や発言が取り入れられていたか
3)視聴者の判断に役立つ独自の取材や調査報道は行われたか
3、市民や各界の反対運動の報道はどうだったか
4、共謀罪法施行後のテレビジャーナリズムに望むこと
~デイリーニュースのモニターが示したもの~
付属資料
◆デイリーニュースの共謀罪報道・放送回数、放送時間比較
◆共謀罪法案国会審議 「ニュースウオッチ9」 が伝えなかった事項
――――――――――――――――――――――――――――――――
1、 共謀罪法案に関する対象ニュース番組全体の
傾向
1) 報道の量はどうだったか
まず、各番組が、この期間どれだけの回数と時間量で伝えたかを比較してみる。
NHK「ニュース7」 26回 計1時間21分06秒
NHK「ニュースウオッチ9」 30回 〃1時間52分34秒
日本テレビ「NEWSZERO」9回 〃 27分30秒
テレビ朝日「報道ステーション」 33回 〃 4時間32分15秒
TBS「NEWS23」 18回 〃 1時間21分21秒
(※放送時間量は、モニター担当者が録画機器のタイマーによって手作業で計測した。
そのため数秒の誤差がありうることを断っておきたい。)
これでみると、5番組の放送回数は総計116回ということになる。
回数が多いか少ないかを判断する基準があるわけではないが、モニター担当者からは、法案の重要性からみて「少ないのではないか」という感想が多かった。
2015年の安保法案審議の際のモニター活動でも同じデイリ―ニュースを対象にしたが、記録した放送回数はおよそ390回、担当メンバーからの報告はA4で合計950ページに達した。
共謀罪法案国会審議のモニター期間は3か月半で、安保法モニターの期間の5か月半より約2か月短いが、そのような事情を勘案しても、今回の共謀罪報道が少ないという印象は否めない。
国家の骨格に関わる安保法と、重要度で差があるとされたことも考えられる。しかし、市民の基本的人権に広範にかかわるという点で、共謀罪法案も極めて重要な報道対象であったはずである。
2) 群を抜く「報道ステーション」の放送量
比較でわかるように、「報道ステーション」の時間量が5つのデイリーニュースの中では突出しており、その時間量は他の4番組の放送時間の合計に近い。
とくに公共放送NHKの代表的ニュース番組「ニュースウオッチ9」と比較すると、「報道ステーション」は2.4倍となっている。放送回数は大きな差がないので、これは「ニュースウオッチ9」の各回の放送時間が短い傾向にあることを示している。
特に6月に入ってから共謀罪法案について報じたのは「ニュースウオッチ9」はわずかに4回、「報道ステーション」は倍の8回であった。
放送時間量だけではなく、あくまで放送内容を検証しなければならないが、時間をかけて報じるかどうかは、法案に対する姿勢の表現でもある。CMを除けば、「ニュースウオッチ9」と「報道ステーション」は放送時間の長さには大きな差はない。その条件でのこの放送時間量の差は問題と言わねばならない。
もう一つ、注目されるのは「NEWS23」である。安保法の国会審議中、精力的に報道し続けた「NEWS23」が、放送回数で「報道ステーション」のほぼ半分、放送時間で3分の1以下となっている。
「NEWS23」の安保法報道と共謀罪報道を、国会最終盤の強行採決前の1か月に限って比較すると、安保法(2015.8.19~9.19)では放送日数17日、放送時間計 約3時間4分だった。これが共謀罪法(2017.5.15~6.15)では 放送日数8日 放送時間計約43分となっている。
「NEWS23」は、この二つの法案に対して、批判的な姿勢は共通している。しかし放送時間量において大きく後退した、という印象はぬぐえない。
「NEWS ZERO」は、モニター期間中、共謀罪法案について報じたのはわずか9回、このうち4回は「審議に入った」(4月6日)「実質審議が始まった」(4月14日)「衆議院法務委員会で可決した」(5月19日)「野党4党金田法相の問責決議案提出」(6月13日)という事実を1分前後で伝えるだけだった。
放送時間の総計も3か月半の期間を通して27分余にとどまっている。この番組の共謀罪法案に対する姿勢は消極的だった。モニター担当者は、そもそもこの番組は共謀罪法案を報道することを避けているのではないかと批判している。
3)法案の呼称の問題
法案の呼称は番組によって分かれた。どのようにアナウンスしていたかを比較する。
「ニュース7」「ニュースウオッチ9」……「共謀罪の構成要件を改めて、テロ等準備罪を新設する法案」
「NEWS ZERO」……「共謀罪の趣旨を盛り込んだ組織犯罪取締法改正案」
「報道ステーション」…… 「共謀罪法案」あるいは「いわゆる共謀罪法案」
「NEWS23」…………「共謀罪の構成要件を厳しくしたテロ等準備罪を新設する法案」
ただし、「NEWS23」は、画面では「テロ等準備罪」と「共謀罪」という表記が混在しており、キャスターが「共謀罪法案」と呼ぶケースもあった。
政治的な動向の報道では「テロ等準備罪」とし、スタジオで批判的に検討するときは「共謀罪」と呼ぶなど使い分けられている。
呼称の問題は重要である。今回問題となった法案は、通称「組織犯罪処罰法」に、合意(共謀)に基づく準備行為を罰する規定を盛り込むものであった。たとえ構成要件を変えたとしても、過去3回廃案になった共謀罪新設の内容と本質は変わるところはない。その意味では「報道ステーション」の呼称が正確である。
「テロ等準備罪」は、「共謀罪」の代わりに政府が示した名称である。この名称によって、共謀罪を新設するかどうか、という議論であるべきところが、「テロを準備する犯罪」を処罰するかどうかに議論がすり替えられることになった。
「テロ等準備罪」という名称は、テロを防ぐために必要という意図と価値判断を含む用語であり、世論を誘導する効果を持つ。共謀罪法案という呼称をひたすら避けてこの用語を繰り返し使用したNHKは、政府の意思を忖度したのではないか、と批判される余地を残した。
2、法案の問題点、争点は明らかにされたか
共謀罪法に対しては、法案審議前から数々の疑問や懸念が表明され、批判もされてきた。
犯罪の実行前の計画・準備段階を処罰するためには広範な捜査が必要で、市民への監視がこれまで以上に拡大するのではないか、という懸念もある。
政府は、対象を組織的犯罪集団と限定したので一般人は対象にならない、と主張してきた。
しかし、組織的犯罪集団かどうかは捜査当局が判断するとしているので、その判断によっては政府に批判的な団体や市民、また一般人が権力からの監視の対象になる可能性も否定できない。
すでに市民団体が調査、監視の対象になっている事例もあり、そうした監視にお墨付きを与えるのではないか、などの懸念も繰り返し語られている。
また、日常生活と類似する「準備行為」が犯罪を目的としたものかどうかは、心の中を捜査しなければわからない。このため、法案は内心の自由を侵害するのではないか、という重大な批判もあった。
このほか、国際条約に加盟するために必要、という政府の主張は正しいのか、なぜ対象犯罪が277もあるのか、という疑問も解消されていない。
民主主義の根幹が脅かされかねないこの法案について、テレビニュースは、その問題点や法案をめぐる争点を十分に伝えてきただろうか。そうした視点で、対象ニュース番組のモニター内容を整理し、次のような項目にしたがって報告したい。
1)国会審議や、法案の内容はどのように伝えられたか。キャスターやコメンテーター、記者解説の姿勢はどのようなものだったか
2)言論人・研究者や市民の多様な意見や発言が取り入れられていたか
3)視聴者の判断に役立つ独自の取材や調査報道は行われたか
1)国会審議や、法案の内容はどのように伝えられたか。キャスターやコメンテーター、記者解説の姿勢はどのようなものだったか。
◆「ニュース7」
「ニュース7」の共謀罪関係報道は各回の放送時間が短く、国会の動きを簡単に伝える、というのが支配的だった。期間中の26回の放送のうち、5分以上の回は7回にとどまり、1分以下、数十秒の放送が7回もあった。
国会審議の内容が質疑の形で紹介されることは極めて少なく、審議内容よりも法案をめぐる動きの報道が「ニュース7」の大半を占めている。
たとえば5月16日の放送で紹介されるのは、自公維新の3党の会合、日本維新の会の会合、
自民・竹下亘国対委員長、法務委員会の自民・古川俊治筆頭理事、民進・逢坂誠二筆頭理事、維新の会馬場伸幸幹事長のインタビューである。翌17日も、民進・逢坂筆頭理事、自民・古川筆頭理事、自民・竹下国対委員長、公明・井上義久幹事長の談話紹介が中心の放送だった。同じような内容の回は他にも何回もあった。
国会内の動きをどれだけ伝えても、法案の内容は伝わらない。与党側の動きについては維新
も含めて手厚く伝えるが、野党側については民進だけの動きしか伝えないという姿勢も偏っていた。
法案の内容の解説の放送は2回ほどにとどまっている。そのうち、3月21日、閣議決定の日は、アナウンサーが、法務省が示す具体例として、テロ組織が飛行機を乗っ取るケース、サリン製造、暴力団の拳銃購入などの例を丁寧に紹介した。その上で、277の犯罪については「政府は組織的犯罪集団が関与することが現実的に想定されるものに限定したとしている」と解説した。
このあと日本ペンクラブと日弁連の見解が短く紹介されているが、全体としては法務省見解を効果的に伝えるものになっていた。
記者の解説でも疑問が残るケースがあった。6月14日、中間報告という形で参院本会議の採決を目指した与党の動きについて、解説の政治部記者は、与党側の思惑について、会期の期限が迫っているのに、与野党の対立で円満な採決の見通しが立たないこと、公明党所属の法務委員長が委員会採決で矢面に立たないよう配慮したなどの理由を挙げた。
しかし、世論の批判が高まっていて、審議が長引けば法案の欠陥がさらに明らかになること、加計学園問題の闇が明らかになるのを恐れたことなど、真の理由と思われる事情には触れていない。採決もやむをえない、とする政府与党側の言い分に近い解説であった。委員会を飛ばして採決する不正常な国会運営についても、批判的なコメントもなかった。
「ニュース7」は、NHK・民放を通じ、もっとも視聴率の高いニュース番組である。放送時間が30分と短く、その日発生したニュースを伝えなければならない、という制約はたしかにあるものの、法案の重大性を考えれば、時間量でも内容でも工夫のしようがあったはずである。
しかしこの番組では、法案の問題点を、政府側、野党側双方の主張や識者の見解をもとに視聴者に提示するという点で不十分と言わざるをえず、視聴者に不満が残った。
◆「ニュースウオッチ9」
3月1日から6月18日までのモニター期間中、「ニュースウオッチ9」の放送回数は78日、共謀罪法案関係報道があったのは30日であった。そのうち法案や審議の内容を扱ったのが14回で半分程度、残る16回のうち、13回は与党協議・与野党会談・日程の紹介などを短く伝えるだけで、法案の内容までは踏み込んでいない。あと3回は世論調査の結果だけの報道になっている。
総放送時間は前章で見た通り1時間52分余、「報道ステーション」の約4時間半の5分の2程度である。この規模については、さまざまな見方はあるとしても、やはり回数・時間、内容とも不十分という印象はぬぐえない。
この番組は、審議の重要な局面で、野党や反対運動の動きや意見も比較的丁寧に取り上げてはいた。しかし、モニター記録全体から、この番組の次のような特徴が浮かび上がってくる。
第一の特徴は、前述のように、多くの放送で、法案をめぐる政治の動きの紹介が主となっていたことである。これは「ニュース7」と共通する特徴である。
法案内容に関しては、言論人や専門家の意見によって問題点、争点を解明する手法がほとんど採られなかったこと、法案の論点に関わる独自の取材、調査報道がほとんどなかったことなど、共謀罪法案の問題点を、多様な意見をもとに深める姿勢が乏しかった。
たとえば衆院本会議で強行採決があった5月23日、「報道ステーション」は12分以上の時間で、ケナタッチ国連報告者の政府宛の書簡内容を交えて報じ、審議不足を指摘して批判したが、「ニュースウオッチ9」はその半分以下の5分20秒で、各党の反応中心の報道だった。強行採決という重大な時点で、法案のどこが問題なのかを改めて問う内容は見られなかった。
第二は、国会審議の伝え方で、一問一答の編集がよく見られ、政府答弁が印象づけられていた。また、全体に政府側の見解の紹介の分量が大きい傾向があった。
4月19日の放送では、民進党の質問と安倍首相、金田法相の答弁が連続するが、法案の必要性
についての質問、安倍首相答弁、国際条約についての質問、安倍答弁、一般人が対象になるか、という質問に金田法相答弁、と一問一答で進行しており、再質問による追及は見られない。これは「ニュースウオッチ9」に特徴的な国会審議の報道スタイルである。
5月29日の参院本会議の論戦の報道では、3分10秒の短い内容の中で、政府与党の説明、発言時間が約2分、野党側の説明、発言44秒となっている。国会論戦全体の報道を計測した結果では、政府与党発言と野党側発言の時間配分は70.5%対29.5%だった。
また、論戦も自民・民進が中心で、他の野党に対する扱いは公平とは言えなかった。
6月14日、「中間報告」による採決の動きについて記者が解説したが、政府与党の思惑の解説が中心で、この非民主的な動きについての批判があることをきちんと伝えていない。
重要な審議内容の脱落
第三の、そして最大の問題は、「ニュースウオッチ9」が重要な審議内容や、法案に対する国際社会からのメッセージを伝えず、ネグレクトした例がかなりあった、ということである。
もっとも放送時間の長かった「報道ステーション」が伝えた事項を参照するだけで、「ニュースウオッチ9」が報じなかった幾つかの事例をあげることができる。
① 4月17日、衆院法務委員会。民進党山尾志桜里議員の質問「保安林でキノコを採るのもテロの資金源か」とそれを肯定する政府答弁。
② 4月19日 民進党山尾議員の質問に金田法相が答えられず、刑事局長が答弁。民進党逢坂誠二議員の「捜査が一般人に及ばなかったら犯罪集団かどうかはわからないのではないか」という質問にたいして金田法相の「犯罪集団が関与していることについての嫌疑が必要」というズレた答弁。(「報道ステーション」の後藤謙次コメンテーターが「呆れてものが言えない」とコメントした答弁)。
③ 4月21日、 金田法相が「一般人は捜査の対象にならない」と繰り返し答弁したのに対し盛山法務副大臣が「対象にならないとは言えない」と相反する発言。「組織的犯罪集団に該当するかどうかは捜査当局が判断する」という金田法相の答弁。
④ 4月25日 衆院 法案についての参考人質疑の内容。(小林よしのり、高山佳奈子、小澤俊朗、井田良、早川忠孝氏らが出席)
⑤ 4 月28日、共産党藤野保史議員の「花見をしているのか犯罪の下見をしているのかどう見分けるのか」という質問に対し「花見なら弁当やビールを持ち、下見であれば双眼鏡や地図を持っているという外形的事情がありえる」などという金田法相の答弁。
⑥ 5月9日、民進党蓮舫代表の「ラインやメールなどで合意したとどうやって確定するのか」という質問に対して金田法相は「嫌疑がある場合には捜査を行う」としたが、直後に「そういうデジタル情報については監視しない」と答弁。議場は、答弁になっていない、と騒然となった。
⑦ 衆院法務委員会5月16日。パレルモ条約について公明推薦の椎橋隆幸中央大名誉教授と民進党推薦海渡雄一弁護士が意見を述べた。この専門家の意見聴取の内容。
⑧ 6月1日参院法務委員会。民進党小川議員の質問に対する林刑事局長の答弁「組織的犯罪集団の構成員でなくても計画主体になりうる」。金田法相の答弁「構成員でなくても計画に関与した周辺者についてはテロ等準備罪で処罰はあり得る」など。この日「周辺者」という概念が示された。
これらの審議内容は、いずれも法案のあいまいさや危険性を浮き彫りにするものであった。これだけの情報の脱落は大きな問題と言わなければならない。
加えて、国連人権理事会のプライバシーに関する特別報告者、ジョセフ・ケナタッチ氏の安倍首相宛書簡についての報道は、「ニュースウオッチ9」には見当たらない。
ケナタッチ特別報告者の意見は、市民が共謀罪を考えるうえで重要な提起であり、テレビメディアがこぞって紹介しているのに、「ニュースウオッチ9」での無視は問題であった。
控えめに過ぎるキャスターコメント
「ニュースウオッチ9」のキャスターのコメントについては、国会審議の報道のあと、毎回のように、「中身があるかみ合った議論を」、「国民に分かりやすい本質的な議論を」、などという発言があり、6月15日の放送では、キャスターが、「今も懸念や疑問が残っている」、「市民一人一人がこれからもこの法律の運用をチェックしていく必要がありそうです」と指摘するなど、姿勢としては評価できるものがあった。
しかし、ニュース本体が共謀罪法案の問題点を浮き彫りにする姿勢に欠けている中で、キャスターコメントはごく常識的で、控えめなものにとどまっており、一般的な「願望」の表現に終始した、という見方がモニター担当者から寄せられている。
ただ、有馬嘉男キャスターと桑子真帆キャスターは、時に率直な発言で注目されることもあった。5月19日、衆院法務委員会で強行採決が行われた日、桑子キャスターは「単純に何時間審議したらいいというものでもないですしね」と抗議に近い発言をし、有馬キャスターも「政府は説明をしてほしいし、国会での議論を尽くしてほしい」、と受けている。
4月6日、衆院で審議入りした日、有馬キャスターが法案の内容を解説しているが、ここでは法案のもつ危険性が基本的にピックアップされ、指摘されていた。
有馬キャスターは、犯罪の準備かどうか事前に察知するために、捜査当局が会話やメール、電話など日常的に集める恐れがあること、正当な団体でも、捜査当局が「一変した」と判断すれば捜査の対象になること、それが恣意的に行われるおそれがあること、などの論点を、政府の主張紹介と同程度の時間をかけて伝えている。
このようなキャスターであれば、法案審議の実態からみて、もっと踏み込んだ批判的なコメントがその力量からして可能であっただろうし、必要だったと言える。
◆「NEWS ZERO」
この番組は、時間量比較で見た通り、そもそも共謀罪関係報道で見るべきものが乏しかった。
わずかながら報じられた国会審議の内容は、金田法相の答弁態度に絞られていた。特徴的なのは、金田法相の態度を引き出した議員の質問の核心部分を伝えなかったことである。
たとえば、4月19日、共産党の藤野議員の質問を取り上げたが、番組の結論は金田法相が答弁能力を欠いているということだけだった。確かに金田法相の答弁態度は問題だが、この日藤野議員は「共謀罪」そのものの危険性を厳しく質問している。番組はその核心部分には向かわず、金田法相の姿勢を伝えることで終わっていた。
同様の例は他にもあり、この番組は、野党議員の質問を金田法相の態度を伝える手段としてのみ利用した、という感があり、共謀罪法案の本質の追求が行われたとは言い難い。
村尾信尚キャスターの発言にも不満が残った。「277の犯罪をもっと絞り込めないものかどうか」「…議論が展開できないのかどうか」といったコメントが繰り返されたが、番組の共謀罪報道が貧弱なだけに、まるで他人事のコメントのような印象を与えている。