◆凍結8カ月効果出ず 福島第一の凍土遮水壁公開
345億円投入減らぬ汚染水 規制委「対策 主役は井戸」
東京電力は21日、福島第一原発1~4号機の周囲に造られた凍土遮水壁の地中の様子を初めて報道陣に公開した。見せられた地点の土は確かに凍っていた。しかし、凍結が進むにつれ、減っていくはずの建屋地下への地下水の流入は一向に減らない。運用開始から8カ月、345億円の税金を投じた対策の効果は表れていない。 (小川慎一)
○マイナス1度
(前略)公開された現場は、冷却液が流れる太いパイプから1.5メートル離れた場所に掘られた幅2メートル、深さ1.2メートルの穴だ。(中略)表面温度はマイナス1度。ハンマーで5,6回たたくと、カンカンと音が響き、土は崩れなかった。確かに凍っている。(後略)
○壁造れぬ場所
(前略)しかし、現実は厳しい。建屋への地下水流入量(推計値)は凍結開始前とほぼ同じレベルで推移している。(中略)検証中の山側は壁の一部が開いているため、ある程度の流入は仕方ないとしても、全面的に凍らせている海側で大量の地下水が壁を抜けているのはおかしい。(後略)
○変わる説明
(前略)原子力規制委員会の更田豊志(ふけたとよし)委員長代理は「汚染水対策の主役はサブドレン(建屋周りの井戸)のくみ上げ」と、凍土遮水壁の効果には期待しない考えを明言している。
「全く水を通さない」という触れ込みで、反対意見を振り切って導入された凍土遮水壁。東電も最近は「完全に凍らせても、地下水流入を完全に止めるのは困難」と説明を変えてきている。このまま大量の電気を使って凍結を続けるのか、別の道を模索するのか。まだ汚染水問題を終わらせる道は見えない。
(11月22日東京新聞朝刊2面より抜粋)
◆原発と地震 やはり不安は消えない 【社説】
夜明け前の東北地方をマグニチュード(M)7・4の地震が襲った。東日本大震災以降最大の津波も観測した。被害は小さかったが、原発が地域の安全と安心を脅かしている姿があらわになった。
震源は福島県沖だった。福島第一、第二原発の前に広がる海だ。
大震災の際、原発の近くを通る国道6号は一部浸水した。堤防工事が行われているが、まだ完成していない。国道は朝夕、作業員を乗せた車で渋滞する。津波が高くなくてよかった。
福島県いわき市ではガソリンスタンドに車の列ができた。原発からは数十キロも離れているが、原発から放射性物質が放出されるのを恐れた人たちが、遠くに避難できるように給油したのである。
最近の同県沿岸部は、新しい商業施設や宿泊施設ができ、一見、日常生活が戻ったような印象を与える。しかし、原発事故のときの混乱や不安を忘れていなかった。それを象徴する給油の列だった。
第二原発で一時、核燃料プールの冷却が止まった。安全には問題ないと言うが、不安を訴える住民はいる。今回の地震は、住民にとって、原発事故はまだ終わっていないことを示した。
東京電力は福島県知事らが繰り返し廃炉を要望しているのにもかかわらず、第二原発の廃炉を決めていない。福島の復興を言うのなら、廃炉の決定が望まれる。
気象庁は今回の地震を東日本大震災の余震としている。最近、話題にならなくなっていたが、M7前後の余震は、12年12月、13年10月、14年7月、15年2月と続いていた。「今後も年一回程度はM7クラスの余震が起きてもおかしくない」と言う。余震だけではない。大震災を起こした日本海溝よりもさらに東側で、アウターライズ地震という巨大地震の発生を警告する専門家もいる。
日本は地震と火山の国だ。海底で地震が起きれば津波も発生する。首都直下や南海トラフ地震が話題になるが、予想もしない場所で大地震が起きることも珍しくない。福島県沖の地震は、私たちへの警告と考えたい。
まずは家族や職場、学校で、もしものときの対応を話し合おう。旅行先だったら、といった想像力も働かせよう。
原発は地震などの自然災害の際、複合災害となって被害を大きくする。原発事故のつけは、推進した政治家や企業ではなく、国民に回ってくる。全原発を廃炉にすることが国土強靱(きょうじん)化につながる。
(11月23日東京新聞より)