◆ 五輪メリットは「国威発揚」
   NHKが憲章と真逆の仰天解説
 (日刊ゲンダイ)


 ビックリ仰天した視聴者も多かっただろう。21日のNHKの番組「おはよう日本」。オリンピックを扱ったコーナーで、「五輪開催5つのメリット」としてナント!「国威発揚」を挙げていたからだ。

 「リオ五輪 成果と課題」と題し、刈谷富士雄解説委員が登場。刈谷解説委員は、まず、過去最多の41個のメダルを獲得したリオ五輪の日本勢の活躍について「目標を達成した」と評価。そして、2020年の東京五輪に向け、競技人口の底上げやスポーツ環境を整える必要性を訴えた。驚いたのは次の場面だ。

 「何のためにオリンピックを開くのか。その国、都市にとって何のメリットがあるのか」と投げ掛けると、五輪のメリットとして真っ先に「国威発揚」を示したのだ。


 オリンピックを国威発揚の場にしたのがナチス・ドイツだ。聖火リレーの導入やサーチライトを使った光の演出など、ヒトラーは権力を世界に見せつけるため、徹底的に政治利用した。
 その反省から生まれたのが、オリンピック精神の根本原則を示した「オリンピック憲章」だ。
 JOC(日本オリンピック委員会)のホームページでも「オリンピズムってなんだろう」と題したコーナーで、こう記している。
〈『人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会を奨励する』というオリンピック憲章の精神は、戦争や独裁政治、国威発揚とは相いれない
 つまり、NHKの解説はオリンピック憲章の理念とは真逆なのだ。ついでに言うと、同憲章は〈オリンピック競技大会は、個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない〉ともある。
 JOCもわざわざ、
〈みんなはメダルの数を国別で数えたりして、ついついオリンピックを国同士の競争のように見てしまいがちだろう? でも、オリンピックで勝利をおさめた栄誉は、あくまでも選手たちのものだとオリンピック憲章では定めていて、国別のメダルランキング表の作成を禁じているんだよ〉
 と説明している。

 NHKを含む大メディアが「メダル41個で過去最高」と大ハシャギしているのも、本来であればオリンピック精神に反する行為なのだ。スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏はこう言う。
NHKがオリンピック憲章を理解していないことがハッキリした。そもそも国威発揚で国家間競争を煽るような勝利至上主義が、五輪のドーピングの問題を生み、スポーツ競技そのものを壊している。メディアならば、それをきちんと認識する必要があります。影響力があるテレビ、それもNHKが先頭に立って国威発揚をメリットに挙げてどうするのか。許されません」
 リオ五輪で、柔道の日本選手が「銅メダル」を獲得したにもかかわらず、「すみません」と謝罪していた姿に違和感を覚えた人は少なくなかったはず。これも勝利至上主義が招いた悪しき慣習だ。メディアがその片棒を担いでどうするのか。

『日刊ゲンダイ』(2016年8月22日)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/188253


※ オリンピズムの根本原則
1. オリンピズムは肉体と意志と精神のすべての資質を高め、 バランスよく結合させる生き方の哲学である。 オリンピズムはスポーツを文化、 教育と融合させ、 生き方の創造を探求するもの である。 その生き方は努力する喜び、 良い模範であることの教育的価値、 社会的な責任、 さらに普遍的で根本的な倫理規範の尊重を基盤とする。

2. オリンピズムの目的は、 人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会を奨励することを目指し、 スポーツを人類の調和の取れた発展に役立てることにある。

3. オリンピック ・ ムーブメントは、 オリンピズムの価値に鼓舞された個人と団体による、 協調の取 れた組織的、普遍的、恒久的活動である。その活動を推し進めるのは最高機関のIOCである。 活動は 5 大陸にまたがり、 偉大なスポーツの祭典、 オリンピック競技大会に世界中の選手を 集めるとき、 頂点に達する。 そのシンボルは 5 つの結び合う輪である。

4. スポーツをすることは人権の 1 つであるすべての個人はいかなる種類の差別も受けること なく、オリンピック精神に基づき、スポーツをする機会を与えられなければならない。 オリンピッ ク精神においては友情、 連帯、 フェアプレーの精神とともに相互理解が求められる。

5. スポーツ団体はオリンピック ・ ムーブメントにおいて、 スポーツが社会の枠組みの中で営まれ ることを理解し、 自律の権利と義務を持つ。 自律には競技規則を自由に定め管理すること、 自身の組織の構成と統治について決定すること、 外部からのいかなる影響も受けずに選挙を 実施する権利、 および良好な統治の原則を確実に適用する責任が含まれる。

6. このオリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、 政治的またはその他の意見、 国あるいは社会のルーツ、 財産、 出自やその他の身分など の理由による、 いかなる種類の差別も受けることなく 確実に享受されなければならない
7. オリンピック ・ ムーブメントの一員となるには、 オリンピック憲章の遵守および IOC による承認 が必要である。