不登校12万人――なぜ子供たちは「フリースクール」に通うのか

4月8日(金)Yahoo!ニュース

日本の小中学校では今、およそ12万3000人が不登校だという。東京都国分寺市や大分県別府市などの人口に匹敵する数字だ。これほどの数の子供たちが義務教育の「学校」に通っておらず、しかも1997年以降、10万人を下回ったことがない。中学校では36人に1人、つまりクラスに1人は不登校の生徒がいる計算だ。とうに不登校は珍しいことではなくなっている。教育の専門家は「このような国は世界に類例を見ない」と声を枯らす。何がどう歪んでいるのか。不登校の児童生徒が集う埼玉県のフリースクールを訪ねて考えた。(Yahoo!ニュース編集部)


東京・浅草から東武スカイツリーライン(伊勢崎線)に乗ると約40分で、埼玉県越谷市のせんげん台駅に着く。駅から徒歩数分の場所に、目指す雑居ビルはあった。1階は飲食店や衣料品店、3階には空手道場。フリースクール「りんごの木」はその2階だ。通勤通学のざわめきが消えた午前10時ごろから三々五々、子供たちが集まってくる。
「りんごの木」の子供たちは、なぜ学校に行かないのだろう。一人一人にそれぞれの理由や事情がある。




「このような国は世界に類例がない」

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ある中学校の門。子供たちが学校に通えなくなるのはなぜか(撮影:苅部太郎)
不登校の児童生徒が12万人を超す現状を教育制度の専門家は、どう考えているのだろうか。国立教育政策研究所の名誉所員、結城忠(ゆうき・まこと)さんは「このような国は世界に類例を見ません」と警告を発している。
結城さんによると、世界の義務教育制度は「教育義務」と「就学義務」に分かれている。「教育義務」は子供が教育を受ける権利を保障するもので、「就学義務」は文字通り、学校に子供を通わせる義務を指す。日本は明治時代以降、「就学義務」を続けてきた。これに対し、例えば、ヨーロッパの多くの国では「就学義務」ではなく、「教育義務」にのっとっている。
「ですから」と結城さんは言う。「子供たちはフリースクールで堂々と教育を受ける権利がある。(教育の)場所はどこでもかまわない。学校以外でもかまわない。これらのヨーロッパの国には『不登校』という概念もありません」
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ネット越しに眺める校舎。不登校の子供たちには遠い存在だ(撮影:苅部太郎)
文部科学省(旧・文部省)は1992年に特例措置を設け、学校長の判断で学校以外の活動を出席扱いできるようにした。子供たちは、学校に籍を置いたままフリースクールに通い、小中学校の卒業資格を得てきた。さらに現在、国会では、「超党派フリースクール等議員連盟」が活動し、フリースクールへの財政支援などを求めている。
しかし、それでは足りないと、結城さんは指摘する。
「対処療法はもう限界」と言い、国が学校教育を独占してきた時代に終止符を打つべきだ、と考えている。インターナショナル学校や世界に1000校以上あるシュタイナー学校、その他の様々な私学なども対象とした法的・財政的制度を整え、義務教育として、それらを小中学校と同じ枠組みの中に取り込むべきだ――。それが結城さんの主張だ。実際、現状では、フリースクールなどに通う児童生徒は不登校の3%に過ぎない。

フリースクールでは、子供たちの自主性が尊重される(撮影:長谷川美祈)

フリースクールは「自分らしく居られる場所」

埼玉県の「りんごの木」には、科目ごとの明確な時間割がない。フリースクールでは、曜日ごとに料理や音楽、運動などのプログラムを提供している。参加するかどうかは、子供たちしだい。その中で、自由に考え、動く。
中嶋杏さん(17)=仮名=は、中学1年から卒業まで不登校だった。しかし、母の貴子さん=仮名=は、それほど否定的に感じることはなかった。
「学校に行かないことが良い、悪いではない。(学校を)不快に感じたり、違和感を感じたりする感覚は良いんじゃないの、って。何事も感じることなく生きている人たちも大勢いるけれども、そこを過敏に感じるのは素晴らしいことじゃないかな、って。そういう話はしました。世間一般の考えに潰されないように、自分で選択できるのは良いいことだよね、って」
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壁際の棚には、参考書とおもちゃが並んで置かれていた(撮影:長谷川美祈)
杏さんは今、通信制高校に通いながら、「りんごの木」にやってくる。アルバイトもしている。アルバイト先には「そこにしかいない人がいて楽しい」と言う。
「勉強は常にやっておかなきゃなって。高校の勉強を家でやって、分からないことがあれば、りんごのスタッフさんに教えてもらう」。将来は動物看護師になりたい。そのために専門学校への進学を考えている。
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中嶋杏さん。制服を着たかった。自分で好きな服を購入した(撮影:長谷川美祈)
「学校」以外を選ぶことができない日本の制度をどう思いますか、と尋ねてみた。杏さんは「フリースクールも学校だと思っているし、家で勉強できるんだったらそれもいいと思うし。学校だけなのは、嫌ですね」と明快だった。そして、こう言った。「学校は、行けなかったのではなく、行かなかったんです」と。
最後にOBの声も聞こう。現在、旅行会社で働く上月健太朗さん(31)。小学2年から中学卒業まで不登校で、「りんごの木」に通い始めたのは18歳になってからだった。22歳で大学に進んで心理学を学び、26歳で卒業した。
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フリースクールのドアは、さまざまな子供に向けて開かれている(撮影:長谷川美祈)
上月さんにとって、ここはどんな場所だったのだろう。
「学校が居場所だ、という子がいると思うんですよね。それと一緒。(居場所が)家しかないと苦しくなっちゃう。『家以外の場所があればいい』ということでフリースクールに焦点が当たっていると思うんですが、本来は『自分らしく居られる場所』だと思います」