なぜ不正、募る疑問 専門家「犯罪に近い」 横浜・マンション傾斜

 傾いていることが発覚した横浜市都筑区のマンションは、施工時にくいの一部が固い地盤(支持層)まで届いていなかった上、検査データの改ざんだけでなく、16日にはコンクリート量に関するデータの改ざんも明らかになった。建物の基礎になる重要な工事だけに、専門家は「理解しがたい」と口をそろえる。一度建ってしまえば、不具合が出るまで見抜くことは困難で「犯罪に近い」との声も上がった。

 東北学院大の山口晶教授(地盤工学)は「数本であっても、くいの位置次第では建物に不具合が生じる可能性がある。基礎工事をおろそかにすると、いずれ問題になるのは明らか。その重要性を知っていれば、考えられないことだ」と疑問を呈する。

 さらに「大量のくいを使う工事だったので、少しなら良いだろうという甘い考えがあったのかもしれない」と推測した。

 山口教授によると、発注する側には技術者への信頼がベースにあり、通常はデータが改ざんされるという想定をしていない。完成後にくい打ち工事の不備に気付くことも難しいという。

 1級建築士でNPO法人「建築Gメンの会」の田岡照良副理事長も「くいの施工中でなければ、第三者が後になって見抜くことは不可能だ」と断言した。

 だからこそ、責任は重い。基礎工事を実施した会社の親会社「旭化成」によると、データ確認を担当した現場管理者の男性は、虚偽データの使用について「覚えていない」と話したという。

 東海大の藤井衛教授(建築基礎工学)は「通常では考えられない。データを改ざんしたのなら、犯罪に近い」と憤りの声を上げた。

◆「見抜くの難しい」 データ虚偽で市

 三井不動産グループが販売した横浜市都筑区のマンション傾斜問題で、明らかになったくいの施工不良や虚偽データの使用。市は住民説明会が終わるのを待って、週明け早々にも事業主らから内部調査の進捗(しんちょく)状況を聞き取る考えだ。市の担当者は「今回だけの特殊なケースなのか他にも波及するのかわからない。原因が特定された上で対応策を検討していく」としている。

 市建築局によると、市内の建築確認申請数は年間約1万3千~1万5千件。そのうち98~99%を民間の指定確認検査機関が担っており、今回のマンションも民間の検査機関が担当した。

 検査機関は、施工前に建築計画が建築基準法などに適合しているかどうか書類で確認。着工後に中間検査として1~2回工事の進捗状況を目視確認する際にはすでに工事が進んでおり、くいは見ることができない。

 くいを打ち込んだ際の詳細なデータは施工記録として施工者が保管。民間検査機関や行政に提出する義務はない。検査機関が求めれば確認できるが、「今回のようなデータ転用は見抜けないのでは」と市担当者は推測する。

 民間検査機関が担当した物件でも建築計画の概要書は市に提出される。しかし、建築主や住所といった項目に限られ、くいの施工状況がわかる内容ではない。市が担当した場合は独自にくいの施工報告書を中間検査前に任意提出するよう要請するが、細かいデータの添付は求めていない。担当者は「例え市が担当していたとしても虚偽を見抜くのは難しかっただろう」と話す。

 林文子市長は15日の会見で「あってはならないこと。憤りを感じている。根本的な原因を追及し、再発を防ぎたい」と話した。

 カナロコ by 神奈川新聞 10月17日(土)


傾斜問題「スイッチ忘れ」改ざん 
担当者 データー紛失も

 横浜市のマンション傾斜問題で、「旭化成の子会社「旭化成建材」(東京)の現場管理を担当した男性が、くいの工事でデーターを改ざんした理由に関し「データーを記録する機械のスイッチを入れ忘れた」などと話していることが17日までに分かった。同社の前田冨弘社長が、16日の住民説明会後、明らかにした。

 前田社長は、施工主の三井住友建設に毎日提出すべきデーターの紛失もあったと説明。改ざんの背景として工期が3~4か月と長かったことを挙げ「データー管理に非常に不備があった。反省している。」と述べた。

 男性のキャリアは15年。全国でほかにもかかわった建築物がある。

 カナロコ 10月17日(土)